九話 コウノトリ
「んだそれ?そんなもん無理に決まってんだろ〜」
「そう?ワタシの食罪ならいけそうに思えるけど」
「はぁ〜これだから世間知らずのガキンチョは〜あのなぁ罪能ってのは殺して奪えるって特性のせいで、年々より強き者に宿ってくだろ〜が」
「そんなの、罪能を持ってるワタシからしたら分かってる。まぁ、ワタシがこの力…食罪を手にした時は偶然だったけど」
クロイジアが落胆したような顔をする。
「だから〜それが食罪より他の罪能が弱い説明にはならねぇだろ〜それともなんだ、食罪が罪能の中じゃ最強だって言いたいのか〜?」
「むむむ…それは……」
食罪は年相応の困り顔をする。
「俺が知ってるだけでも〜例えば…血塊団の団長が持つ『勇罪』とか……あとは、教会の聖女連中も持ってるだろ〜し」
「…よく分かんない、というか…そう言うんじゃなくて…自然にそう思ってしまうというか…」
「なんだそれ〜?新手のロリ洗脳実験かよ〜……はぁ〜もういいよさっさとどっかいけ〜」
「言われなくても、もう行く…」
食罪は砂塵の中に消えていった。
(…つっかかってきた割にはすぐ行ったな…)
「…そういや食罪、お前の名前は〜?」
「何急に……今まで食罪、食罪言っていたくせに…」
「いや〜そっちが食料確保のために会いにくるなら名前くらいは知ったかねぇ〜と思ってさぁ〜ほら、妻の名前を知らない夫は殆どいねぇ〜だろ?それに罪能の名前が食罪で、名前も食罪って呼んでるとややこしくなるし〜?」
「…またそうやっておかしいこと言って…まぁいい、教える」
「ワタシの名前はバラムロス…北方の国ではどこにでもいるようなつまらない名前」
「へ〜ガキンチョな見た目に反して、名前はそこそこカッコイイなぁ〜」
「うるさい…ワタシは別に好きじゃない」
「じゃまた〜今度喰う時は少量で頼む〜」
バラムロスは後ろを見ずに進んでいった。
(へへ……今日の事件が明るみになれば、俺は捕われるかもしねぇ…たが、食罪……バターハムロースだっけか?恐らくだが、あいつの嗅覚と食欲は人間の比じゃねぇ〜そのまま殲滅組合を壊滅させようって寸法〜罪能を毛嫌いしてる奴らなら、一瞬触発だろ〜な)
「さてと〜お預けされちまったが〜ようやく…」
クロイジアがティアの元に行く。
「んな!?」
…が、そこには他よりも乾いた血溜まりがあるだけだった。
「……あんのバターハムロースがぁ〜!!!」
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「…んぷ、ちょっと食べ過ぎたかも…」
「ワタシでも魔獣数百体と人間数十人を食べれば満腹……げぷ…」
バラムロスが腹をさする。
「……?なにか、腹から違和感が…」
ァァアぁア゛ァア゛
バラムロスの脳に声が響く。
「…っ…この声…あの時の女の人?…いや違う、まさか…ワタシの胃袋から?」
ぶちぶちぶちと何が裂ける音がする。
「…ちょっとーーー」
「アァぁあア゛ァ」
「あ゛がぎっ」
バラムロスの腹が裂け、血と臓物が溢れ出る。
そこから出てきたのは…大の大人すら見上げる大きさの狼と、それに咥えられたティアだった。
「…ぐぅ…ぐ…よくもワタシの胃袋を…」
と言いつつ、バラムロスの腹は瞬く間に再生した。
「噛まずに飲み込んだのが裏目に出た…」
バラムロスが見上げた狼は酷く体が損壊していたが、その目には明確な怒りが混ざっていた。
「ウゥゥうウ゛……」
狼の低い唸り声が辺りに響く。
そして狼は花を扱うようにティアを飲み込んだ。
おそらく、保護するためであろう。
「…魔獣が人間と仲良しとか…気に食わない…」
バラムロスの犬歯が月光により光る。
「今度は、跡形もなく噛み砕く…犬コロ」
「ぅうアぁア゛ア゛アァアア!!!!」
「…ッ耳が」
狼は口を開くと同時に、その巨大な口で大きな大きな声を上げた。
その衝撃はティアがいる内部にまで響いていた。
未だにティアの首と胴は泣き別れ。
そして首はクロイジアと食罪との戦いで、脳髄が溢れるほどに損傷している。
たが、体にはクロイジアとの戦い以降、傷はついていない。
ティアはここで確かに1度死んだ。
だがその記憶は、感情は脳だけでなく魂そのものに刻まれている。
であればーーーー
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瞼を開ける。
周りは真っ暗で視界が悪い。
ただ、ヌメヌメ感と温度からおそらく魔獣の口内にいるということは分かった。
「ここどこ…」
記憶が曖昧だ。
一度自分で振り返る。
確か、私は…クロイジアに…
「…はッッ」
心音と呼吸音が聞こえる中、私は自分の頭に手を伸ばした。
「ちゃ、ちゃんと…ついてる、ついてるよね?」
あれは夢だったのだろうか…もし本当だったらどうやって…
いや、今は早く外に出なければ。
さもなくばすぐにでも飲み込まれてしまう。
「…うあ!?」
魔獣が動いたのか、地面が揺れてこけたところにべちゃべちゃしたものを踏んでしまった。
質感は肉のようだったが…まぁこの魔獣が食べた何かだろう。
「…早く水洗いしたい」
口から差し込んでくる光を頼りに、ティアは前への進んでいった。
それを目玉だけで見ているモノがいた。
彼女は…何を思ったのだろう。
それは後にこのことに気づいた私にも分からなかった。




