十話 鼻垂れ
「あっ」
……またこけた。
このままだと、一向に出れそうにない。
何でこんなに動いているの…この魔獣は…
「聞こえーーーティー様」
汗で濡れた顔を拭って一息ついたとき、突然声が聞こえてきた。
「その声は…エルス?…どうなってるの?」
混乱しつつも、耳を傾ける。
「あ、ちゃんと繋がりました……ティア様…さっきぶりです」
「…エルスどこにいるの?」
エルスの姿は少なくとも、私が見える範囲にはいない。
それ以前に、エルスがお花摘みに行ってから私達は会っていない。
「エルスがどこにいるというより…その…恥ずかしいのですが…ティア様がエルスの中にいるんです…」
「何言って…」
「言ってませんでしたけど…エルスもいくつかの権能を持ってるんです……1つは体を魔獣のように変える『帰獣』…それとあらゆるものを響かせる『響震』です」
?…そんな力があるんだったらなんであの時…
「じゃあ…リルリエットとバンに襲われた時にそれを使わなかったのはどうして?」
「えーと…あっ!そうです、油断してたんですよ!そうに決まってます!」
「本当に…?」
「…まぁ、後で聞くからいいよ……」
謎な子だ。
私が言えたことではないけど。
「…つまり、私は魔獣になったエルスの体内にいるってこと?…この声も『響震』の効果?」
「さすがティア様、理解が早いです。この声は『響震』の声をティア様の頭に響かせることで伝えています」
「…っ」
また肉の地面が大きく動いた。
「この魔獣…本当にエルス?」
「いやー…実は魔獣になるとエルスでも体や権能を制御できなくて…口に入れたものを噛むか噛まないかくらいの調整しか出来ないんです…いつもは部分的に使うんですけど…なにしろ緊急事態だったもので…」
「はっ…今は時間がないんでした…ティア様、今から話すことをよく覚えておいてください」
「…私がそれを……そんなの残酷すぎる…」
「これはエルスが弱いから起こったことです。どうか…自分を責めないで…ティア様…」
私の手には1つの黒い毛玉が握られていた。
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「……すばっしこい……まさか犬に『お預け』をくらうとはね…」
ティアとエルスが会話していた中、バラムロスと狼の戦いが続けられていた。
ワタシにもう1回喰われたら、今度こそあいつは死ぬ。
それに、あの狼は辛うじて生きながらえているだけで、すぐバテて死ぬ。
再生は遅い、胃液で溶かされたとこもぐちゃぐちゃでぼこぼこ。
でも、ちょっとのところで避けてくる。
変な感じ。
そんなに速くは無いのに、どうしても当たらない。
「アぁア゛ァアァ!!」
狼の巨大がこちらに来る。
轟音とと共に、砂が広がる。
「…ぺッ…口に砂…」
距離が開いているおかげで、こちらへの攻撃は避けられる。
…胃袋を破られた時は焦ったけど…これなら問題なし。
「ぅウゥう゛……」
「いちいち睨まないで…ちょっと怖い………」
「ぅヴァぁあアァぁア゛ァ!!!」
「なんてね」
狼の体に、歯形がついた。
その刹那。
「ギャァあア゛!?」
「動きがとろくなってる……やっぱり無理。お前がワタシを食べるのは」
狼の首と体が分かれ、辺り一面に血と臓物の雨が降る。
ピチャ
「…あうっ…これワタシの胃液?あいつの体についてたやつ?…」
今、しかない…
…あの子に…『食罪』にこれを…
「っらぁあ゛あああああ!!!!」
!?…あれは
「シャクーーー「クソッタレがぁあ!!!暑くて、クサイんだよ!!コノ、クソ魔獣が!!!」
私が身を隠していたところ、エルスの中から血まみれのシャクヤが大声を出しながら飛び出してきた。
「…なんでお前が生きて…あの狼に喰われたはずじゃ?」
「オレもあの時は死を覚悟したんだがよぉ…どうやら、天はオレを見逃さ無かったらしい。マ、当然だが」
しまった…出る機会を逃した。
このままじゃ、シャクヤが…
「プププ……アッハハ!!あの狼にぼこぼこにされたお前が、ワタシに勝てるわけないでしょ!!」
「ボケが…分かるか!?オレは今!!ちょームカついてんだよ!!!」
シャクヤが飛び出しながら、折れた剣を振る。
「『憤怒』の力を…舐めんな!!!死ねクソガキ!!」
「え…」
食罪の下顎から上の頭が消し飛ぶ。
「『死風』のリルリエットを始めとした、大隊の隊長…『外面いいだけの田舎者』とはオレのことだ!!」
そんな感じで言うものなのだろうか…




