五話 能面
「シャクヤとバンじぃはどっか行っちまったけど、ど〜する?自己紹介でもすっか〜?じゃあ、まずは俺から〜」
「こんな空気でよくそんな事が言えるね、クロイジア」
「おいおい〜ティアちゃんにまでそんなこと言われちまうと〜おじさん悲しくなっちゃうなぁ〜」
「いったんこの人は放っておきましょう、ティア様。エルス的に気持ち悪いです」
「…な〜んで俺ばっかりこんな目に…しくしく」
あれからちょっとして、クロイジアは足を天井に括られ、宙吊り状態になっている。
その下は焚き火、それも煙が凄いものを。
クロイジアの真っ白な肌が黒ずみ始めている。
よくあの中で話せるものだ。
「テントの中で、こんなに火を焚いて良いの?」
「テント?‥天幕のことかァ。天井、ちと空いてるから別に良いだろォ?」
エルスが鼻を摘む。
「にしても、くっさいですねー。何を焼いてるんですか?」
「んァ?んなもん死体に決まってるだろォが。」
「し、死体!?もちろん、魔獣とかですよね?」
「…人間じゃあだめなのかァ?」
「イヤァあー!!!」
エルスが抱きついてくる。
「ティア様、やっぱりヤバいですよこの人達!こんなのと一緒にいたら、また襲われます!早く逃げましょう!!」
「…そんな怯えなくても」
エルスは意外と怖がり。
新発見。
「…へッ割と度胸ォあるなティア。最初は正直、舐めてたけどよォ。天恵も味があるしィ。こりャア将来有望だなァ」
「ティア様!!もうこの人達とは関わったらダメです!!」
抱きついたエルスは、猿みたいに体にしがみついている。
身長は私と変わらないのに、意外と軽い。
肉質はプニプニとムキムキの中間くらいだけど…
「さすがにィ冗談だって。死体には天恵が詰まってるからァ燃やすと魔獣を呼んじまう。バンの権能があるとはいえ、そんな馬鹿なことはしないィさ」
魔獣…私を襲ってきたあの化け物のことかな…
「そういえば、貴方の名前は?」
「あァ?たしかにいってなかったなあァ。」
「オレはリルリエット。短い付き合いになるかもしれねェけどよろしくゥ」
リルリエットと名乗った男が、手を差し伸べる。
「此方こそよろしく。見た目の割に可愛い名前だね。」
「はッ…よく言われるゥ」
腕は私と同じくらいの太さなのに、掌はゴツゴツしている。
男の人って感じだ。
「…エルスも、握手します」
「あぁ、もちろォんーーー」
「いえ、ティア様とします」
「えェ…」
手を強く握ってきた。
ちょっと痛い。
「あ〜あ、リルリ〜やらかしたなぁ。女の間に男が入るってのは、万死に値するぜぇ〜」
「…ちと燃えてろォクロイジア」
リルリエットが炭を焚き火の中に放り込んだ。
「ちょ、あっちい!!頭!!燃えてるって〜!!」
見た目の割に、皆優しい。
最初襲ってきたとはいえ、それも勘違いだったみたいだし。
「ティア様…死臭がします。それも外から…」
エルスが耳打ちしてきた。
「…シャクヤとバンが戻ってこない。向こうで何かあったのかも」
「行きましょう、ティア様」
「うん、行こう」
「おわっやばいやばい!!常人だったら髪が焼け野原になる〜!!俺は元々なんもないけど!!」
向こうはなんとも思ってないみたい。
多分、焚き火の近くにいるから。
「…クロイジア達も連れて行く?」
「いえ、まだ信用が出来ません。2人で行きましょう」
外に行くなら、また魔獣に合うかもしれない…
「…ごめん、エルス。ちょっと…」
「どうかしましたか?」
手が震える。
「…私が行っても、またエルスの邪魔になるだけじゃ…んむ…」
なにこれ、顔にもふもふが…
エルスの尻尾?
「…自分が邪魔なんて思わないでください。ティア様を守るのがエルスの使命というだけです」
「一応、エルスにも奥の手があります。さっきは使えませんでしたが…今度はティア様に身の危険があったらすぐ使います。だから、心配しないでください」
「…なんでエルスは私にそこまでするの?貴方は…私は何なの?」
「落ち着いたらまた話します」
でもやっぱり…
「…私は私を信用できない。何も覚えてない。ここが何処なのか、私は何なのか…さっきも何も出来なかった。バン達が私達を襲ったのも、たぶん私のせい」
「ティア様…」
「…自分が傷つくより、自分のせいで他の人が傷つく方がずっと辛い。」
「もう見たくない…」
「ティア様、面を上げてくれませんか」
「…何」
エルスが、私の胸に手を触れた。
『黒兎に使えし月よ、彼の者の罪を許したまえ』
「…え」
一瞬、私じゃない私が見えた。
光り輝く星のような…
日は笑う。




