二話 仔犬のワルツ
「……え?」
「?…どうかしましたか、ティア様………あ」
額に汗が浮かんでいる。
焦っているのか、目が泳いでいる。
「それ…私の名前?」
体を起こして、エルスと向き合う。
「だ、だめですよ!まだ安静にっ…」
「質問に答えて、エルス。それはあなたが単に決めた呼び名?それとも…私の名前?」
「あっえ…とそのぉ」
エルスは耳をぺたんとして俯き、消え入るような声で呟く。
「エルスはその…あなたの…」
「こんばんわァ」
刹那、刃が視界に入った。
「危ない‼︎」
エルスが走り寄って私を庇う。
キンッーーー
火花が、散る。
「…ティア様、下がっていてください」
エルスは相手に向き合い、拳を構える。
「エルスがやります」
相手の姿が朝焼けの逆光に照らされている。
人数は二人。
細身で黒い外套の人物と
太り気味で兜を被っている人物。
どこか荒々しい顔つきと風貌。
「…黒狼種ゥ?どっから湧いてきたァ?」
「知らん、それより奇襲をわざわざバラしてどうする」
太り気味の男が低い声で呟く。
「いいじゃねぇか…別に、バレねェところで変わんねェ…シャクヤも言ってたろ?」
太り気味の男が、細身の男を引っ叩く。
「馬鹿、敵前で余計な事言うな」
細身の男は、気怠そうに頭を掻く。
「はぁ〜馬鹿馬鹿うるせェ…」
地面を蹴る音。
背後に回り込んだエルスの攻撃ーーー
「なぁァ‼︎」
が、難なく防がれる。
「隙を見たつもりかァ?残念ながら通じねェよ」
嘲笑う笑み。
「オレらにかかれば、てめェなんてどうってことねェ‥数刻後にはただの肉塊にしてやるさァ」
エルスが私と敵を挟む形で着地する。
「戦闘中にベラベラと…随分、余裕なようですね。」
細身の男が構えを取る。
と同時に太り気味の男が聞き取れない言葉を呟き始めた。
「はぁ…世話の焼ける奴だ…」
「てめェごとき余裕だっつてんだろォ‼︎」
男が視界から消えるのを見た数秒後、男が目の前に現れる。
「…!」
こっちにーーー
「ティア様っ‼︎」
エルスもこちらに向かう。
身を挺して。
一閃。
鈍い音。
刃がエルスの背中を裂く。
「がっ…」
鮮血が舞い、血が頬に被る。
エルスが…倒れる。
「エルス‼︎」
「ティア…さ…ま」
ーーー私を庇ったせいで。
「ハッ…ちと警戒してたがァ大した事ねぇなァ」
「儂と貰い物のお陰だろうが…まぁ先のハッタリは良かったぞ」
「そりャどおも」
二人が私達を見下すように立った。
生温かい血が手に滴る。
「心配すんな…お前もそこの魔人もォ…一緒に逝かせてやるからよォ…」
血濡れた刀が構えられる。
「さいならァ…アあ゛がァッ」
「ッ?」
今のは?
周囲に広がる、砂煙。
その先には、人が立っている。
「たく…バカ共が…………あ?」
蛇の様な水色の瞳がこちらを見つめた。




