一話 死者
地は真っ赤に燃えている。
空は黒く泣いている。
そこに二人の少女がいました。
一人は空の向こうからやってきた『何か』。
もう一人は六つの翼が生えていた、お星様。
お星様の翼は『何か』に引き千切られたようです。
それを『何か』は、何も言わず見下ろしていました。
お星様は最後の力を振り絞って『何か』に言いました。
「…私はここで死ぬだろう。たが、私の憎しみはこんなとこで終わらない。身勝手な理由でみんなを弄んだお前を許さない…何十、何百年たったって、私はお前の首に刃を突き立てやる。何度でも。それまでせいぜい、怯えて待っていろ。…次はお前がッッ」
死に体の長ったらしい戯言に、怒りが湧いたのか『何か』はお星様をぐちゃぐちゃに潰しました。
まわりは真っ暗になり『何か』だけになりました。
『何か』は空を見上げて言いました。
「月はいいよね。いつも見てくれる人がいて。…今は誰私しかいないけど」
めでたしめでたし
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
はじまりはじまり
最初に感じたのは、衝撃だった。
次に、音。
骨が軋むような、岩が割れるような
そんな音。
「……」
聞こえる。
呼吸音。
心音。
暗闇の中から徐々に意識が浮上する。
重い。
体が、異様に重い。
ゆっくりと、瞼を開いた。
視界に入ったのは、切り立った岩肌と、砂と、積み重なる無数の不要物。
腐った肉塊もあれば、錆びた金属片もあった。
(……ここは)
言葉にしようとして、何も出てこない。
喉が震えるだけで、声にならない。
――思い出せない。
自分が誰なのか。
なぜここにいるのか。
未知に押し潰されながらも、不思議と恐怖はなかった。
ただ、ここにいてはいけない。
その警鐘だけが、頭の奥から響いて来る。
軋んだ体を起こすと、痛みが遅れてやってきた。
それでも、立てた。
指も、脚も、思った通りに動く。
一歩、踏み出した瞬間。
ーーべちゃ
ーーべちゃ
周囲に湿った音が反響する。
後ろを振り返ると、いた。
低く、濁った、無機質な唸り声。
爬虫類の下半身。
昆虫の上半身。
それらが継ぎ接ぎされた様な異形。
体の半分が潰れ、それでも動いている。
捕食者の目が、こちらを捉える。
「……」
直ぐにでも逃げ出す
はずだった。
咄嗟に、足が止まった。
恐怖で足がすくんだのか
それともーーー
魔獣が、吠える。
刹那、巨大な肉が視界を満たした。
気付いた頃には、視界が反転していた。
体が、岩に叩きつけられる。
「……っ」
熱と痛みが、体中を駆け巡る。
視界が、滲み、揺れる。
(……死ぬ?)
その問に答えたのは、崩れ落ちた体だけだった。
「どう…して?…」
そんな疑問が自然と口から零れ落ちる。
最後に目に映ったのは、上から見下ろす人影だった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
ぱち、と火が爆ぜる音で目が覚めた。
周りを見渡したところ、空には満点の星空が、地には乾いた大地が広がっていた。
体を起こそうとするーーーが動かない。
全身に鈍い痛みが響く。
「…っは…」
体が熱い。
息も絶え絶えになる。
「あっ…動かない方がいいですよ、かなり酷い怪我ですからね」
声が聞こえた方を見てみると、焚き火を挟んだ所に人がいた。
黒い髪。
青い目。
そして頭部には、尖った獣の耳。
ピクリと動いていることからして、偽物ではなさそうだ。
人間…なのだろうか。
「一応、応急処置はしてありますが、無理するとまずいですよ」
視線を落とすと、身体に掛けられた布の下には、確かに処置した跡があった。
ーーー助けてくれた?
わざわざあんな場所に行ってまで?
「…あなたは誰?…なぜ…私を助けた?」
途切れ途切れながらも言葉を出す。
獣の耳がピンと張った。
「えと、名前はエルスで、見てわかる通り魔人です。立場は…うーん…」
少し考えて、首を傾げる。
「まぁ、通りすがりの旅人…みたいなのでしょか…」
…旅人?
身なりは整っている。
たが、それ以上にーーー
「なぜ助けたか、でしたっけ」
エルスは焚き火を見つめながら言った。
「困ってたら助ける。当たり前の事ですよ。…あの谷にいたなら尚更」
……不自然。
善意にしては、迷いが無い。
だが、悪意は感じない。
「そういや…まだ何も言ってなかったね」
「…?」
少し、間を置いて。
「お礼…だよ。ありがとう。助けてくれ…て」
エルスは目を見開いた。
数秒の沈黙。
エルスが、沈黙を破る。
「当然ですよ、『ティア』様」
真っ直ぐ過ぎる視線が、返って異様に感じた。




