偽りの姫君は朦朧と苦悩する
「百合奈…?なんだか、暗い表情してるよ?」
砂川百合奈は少し驚いた目で香保を見る。まさか香保に見抜かれるとは思ってもなかった。
「あ、御免ね、思わず…」
「なんであんたが謝ってるのよ」
「なんだか言っちゃいけないこと言った気がして…」
本音は、図星。正直に言って、重苦しくて仕方無かった。
彼に真実を後悔しているつもりはない。私一人で抱え込むのはいい加減限界に近づいてきていたし、誰か相談できる相手がいる、ただそれだけで心強い。
でも、それはあくまで私視点の話。彼からしたらさぞ迷惑だろうと思ってしまった。重苦しい話を聞かせたのは事実。私に話す自由はあっても、彼に聞く自由は無いのか。目の前にいる香保には打ち明けないのもどうなのか。
「なんでもないわよ。ほら行くよ」
また嘘をついてしまった。表情に出るのかほぼ毎日香保は私に大丈夫かと聞いてくる。その度に私は嘘をついてきた。政哉に偽善者でも肯定してみせろと言われたけど、私は否定することしか出来ない。ということは、私は彼から聞く自由を奪った上彼からのアドバイスも無に返そうとしているのだろうか。だとすれば、私は偽善者であって、更に卑怯者なんだろうか。
だけど、かと言って自分の心象を返り見ず、言われた通りにするのが正しいとは思わない。無理矢理肯定し、無理矢理活用するのも違うと思う。何故なら、それは私自身と彼に対してより嘘をつくことになる。それもまた、偽善者だと思う。結局偽善者であることに変わりはない。
「じゃあね」
「また明日」
香保と別れて、夕日の差す帰路を一人歩いていた。周りに誰もいないのが、現実を突きつけられている様で苦しかった。
「私、どうすればいいの…!」
涙が溢れてくる。私は結局孤独なんだ。そして偽善者であると同時に、卑怯者でもある。
歩けなくなって、その場に崩れ落ちた。泣いた。声を上げて泣き喚いた。どうしようも無い袋小路に詰まってしまった。
少し考えて、或いは政哉はここまで見通した上で偽善者を肯定してみせろと言ったのだろうかと考えた。だとしたら、私は彼の言ったことを実現することなど出来ない。
彼に聞きたい。私はどうするべきか。彼に相談したい。私は私自身を肯定すべきなのか。偽善者どうこうじゃなくて、私という存在そのものを肯定していいのか分からない。
ようやく落ち着いて、立ち上がった。幸い、学校の知り合いはいなかったみたいだ。もし見られたら、私は本当の意味で孤独になる。取りあえず、彼にもう一度相談したい。彼の聞く自由をまた奪っていると思うと胸が痛むけど、私が耐えられない。彼なら、また何かしらアドバイスしてくれるだろう。
その時になって初めて私は、彼を考えている時だけ心臓の鼓動が早くなることに気づいた。何だろう、この気持ち。彼がいるというだけで、一気に安心感が湧いてくる。勿論彼しか相談相手がいないから安心感が湧くのは当たり前だけど、なんだかそれだけじゃない気がする。なんだか急に熱くなってきた気もする。
「疲れた…のかな」
一人呟くと、ひとまず家に向かって歩き出した。相変わらず、私の周りには誰一人としていなかった。




