太陽と月が幻色で交わる刻
「よし、授業終わるぞー。まだ書いてる奴もいるから挨拶はせんで良いからな」
4限目の社会科の授業が終わり、全員少し落ち着いた雰囲気になっている。宮島政哉も漸くひと息ついて手だけ洗いにいってたから昼ご飯を机の上に置く。
各々好きなように移動して、それぞれ昼ご飯を食べ始める。当たり前に出来上がった当たり前の景色である。
「すまねぇ、遅れた」
政哉の元に佐野雄輝がやってくる。雄輝もまた弁当を開き、政哉と共に昼食を取り始める。
「なあ政哉、たこさんウインナーって考えた奴凄くね?」
「急に何の話だ」
あまりに唐突すぎて驚いたからか政哉の口から米粒が飛ぶ。辛うじて自分の弁当の中に落ちたからセーフだと信じたい。
「ただでさえウインナーっていう絶品の品に切り込みを入れることで食感が増して最高じゃね?」
「せめてたこさんの形って言えよ。切り込みとか言うなって」
「そ、そうか?じゃあ政哉も食うか?」
「じゃあってなんだじゃあって。いや別にいらんけど…」
話題が無くなったと思ったのか、雄輝ほまた急に話題を変えて来た。
「政哉、お前好きな女子とかいねーのかよ」
「お前と違って色恋沙汰に興味はないんだすまんな」
「お前なぁ、目立たないだけで普通に顔は整ってるだろ」
「顔は整ってるのは父さん譲りなんだろうな。そしてそれを全く活用しようとしないのも父さん譲りだ」
政哉は父親の顔を思い浮かべる。
政哉が見る限り自らの父親は才能や血筋、顔立ちなど生まれながらにして備わった能力が大嫌いだった。だから約束された未来を捨ててでも興味を抱いた歴史学の世界へ飛び込んでいったんだろうと思う。そんな父親を目の前で見てきたからこそ、政哉もその点においては父親似であると自負している。
ある意味でそれは雄輝にも共通していたのだが、少なくともこの時点で両者が気づくことは無かった。
☆
佐野雄輝は他愛もない話をしながら心の底では長考していた。政哉はよくこういう表情と言動を見せるのだ。顔を俯かせながら、自らを否定したり過小評価したりする。彼に自己肯定感は絶望的なまでに無かったと見るべきか。
そして、雄輝はその長考を自覚してその考察を辞めた。他人の様子を探ってしまうのはやめたい。それが雄輝の意志だ。何の為に父親を欺いたのか分からなくなる。しかし、雄輝はその道を嫌っていながら雄輝の才能は父親譲りであった。他者を観察し最適解を見つけるのは父親の常套手段だった。
その血を色濃く引き継いだからこそ、雄輝は父親に失望した。父親は雄輝に期待を寄せた。…そのすれ違いは今や修復不可能の一歩手前まで来ていた。
☆
宮島政哉は雄輝と話しながらも食べ終え、弁当を片付けていた。するとそこに砂川百合奈と安濃香保がやってきた。クラスの中で浮いているもの同士で組まれた謎の4人組である。
百合奈は開口一番、
「トランプでもしない?」
と言った。その瞬間に政哉はまた変な抜け穴を見つけたもんだな、と思ったが下手に教師にバレない為にも黙っておく。回りもそうらしく、トランプなりなんなりしながらもある程度静かにこなしていた。
「良いよ、やろうか」
政哉が返答し、雄輝も大慌てで食べ始めたからやる気らしい。こいつに関しては香保と交流する機会を逃したいとする姿勢が見え見えなのだが。隣の席を移動させ、4人で固まる体勢になった。
「じゃ、ババ抜きやるわよ」
百合奈はそう言った。ババ抜きで大事なのは各個人の表情の変化を観察することだ。誰のところにババがあるのか見極めなければならない。政哉は吟味することにした。
この時点ではカードを配っていたのだから、当然のことながら政哉は百合奈の僅かな表情の変化には気づかなかった。それは彼女が普段決して見せない安堵が僅かに漏れた瞬間だった。
そして彼らのゲームが始まる。




