青春の一幕に花鳥風月の額縁を添えて
いよいよ夏休みが終わり、2学期が始まる。新たな船出である。宮島政哉にとっては二重の意味で船出と言えるのだが。こんな時に限っていつも側にいる佐野雄輝は体調不良で休んでいたので、学校へ到着しても連れがいなかった。教室に入った途端、クラスメイト数名…特に関わりのない男子勢…から睨まれるような値踏みするような視線を向けられ辟易する。
だが、次の瞬間向けられた視線はあっという間に四散する。何事かと思えば、後ろから肩に手を置かれた。
「おはよう、政哉」
それはまさしく天使の声だった。一文字一文字に愛が詰まっているかのようだった。政哉は振り返る。
「おはよう、百合奈」
これまでとは違う、新たな関係の発掘。ユートピアへの旅路である。それを否応なく意識してしまった政哉は僅かに頬を赤くさせてしまっていた。
「な、何を想像してるのよ」
そんな政哉の気持ちを知ってか知らずか百合奈に問い詰められたが、まともに答えられる自信の無かった政哉は目を逸らして誤魔化すしか無かった。目を逸らした先にはさっきの男子勢がいたが、羨ましがりながら目も当てられないといった様子である。政哉は首を傾げるしかなかった。
午前の授業が終わり、昼食の時間になった。雄輝がいないので政哉は1人で弁当を広げていたが、政哉の机の前にやってきた人間に気づき手を止める。
「政哉、一緒に食べても良いか?」
その正体は山江敬人だった。特に断る理由も無いと考えた政哉は
「良いぞ」
と言って敬人に座るよう促した。敬人が席に座り弁当を広げると、しばらくは2人とも会話なく食べていた。
「なあ、政哉」
我慢出来ない、といった様子で敬人が話し始めた。政哉は手を止め敬人の顔を見た。
「気付いてないだろうから言うけどさ、朝の百合奈と政哉の雰囲気凄かったよ。学校ではあんな空気出さないでくれないか?」
「…特に意識してとかそんなことは一切無いんだが」
「自覚無しであそこまで出せるなら余計重症なんだけど」
「…そんなにやばかったのか」
「うーんまあ、結ばれたことに嫉妬してた百合奈様ガチ勢達が全員匙を投げる程度には」
そこまでなのか、と政哉は身震いした。百合奈はその容姿からか校内でもトップクラスの人気を誇り、敬人が言うようにガチ勢が幾人も存在する。ちなみに全員最低一回は百合奈にアプローチして粉々になっているとかいないとか。
それだけ人気のある百合奈とこんな関係になったからには、多少の嫉妬や虐めは受けて立つつもりでいた。だが、いざ校内を歩けば向けられるのは生暖かい眼差しばかりで困惑していた。気は楽だが余計な心配だと思えてしまう。
「まあ、俺が言うのも変だけどさ」
敬人は締めくくりとしてこう言った。
「幸せにな」
それは敬人自身がそれを望めないことを自覚していたからなのだが、流石に政哉がそれを読み取ることなど不可能であった。
学校終了後、政哉はプリントを渡す為に雄輝の家に向かっていた。雄輝は両親と何かあったのか祖父母の家に住んでいるらしい。雄輝の家は昔ながらの屋敷のような場所だった。その光景は宮島本家を想像させ政哉は少し顔が歪んだ。木で出来た大きな門があり、そこを開けて中に入った。そして聞こえてきたのは
「二度とあんな監獄には戻らねぇって言ってんだろゴミ親父が!!!」
普段の様子からは想像出来ないほどの罵声を上げる親友の声だった。




