移し顔の仮面を被った欺瞞の異端児
宮島政哉は我が耳を思わず疑った。政哉の知る限り、佐野雄輝はこんな発言をするなどとは思えない人物だった。驚きを隠せないまま玄関に突っ立っていると、中から1人の男性が出てきた。年齢は40歳前後だろうか。身なりや仕草が高級感を感じさせるが、負のオーラは隠し切れていない様子である。政哉の顔を見ると罰が悪そうにそそくさと去っていった。
「まだいんのか!?さっさと帰れ…と…」
続くように雄輝が出てきた。普段は飄々とした態度を崩さない彼とは似ても似つかぬ雰囲気に、政哉は思わず圧倒される。
が、雄輝はそこにいるのが政哉であると気づくと、しまった、とでも言うような表情となった。そして少し無言の間が生まれる。話を切り出したのは政哉だった。
「今日休んだだろ、ほれプリント」
そう言ってプリントが複数枚入ったクリアファイルを手渡す。雄輝は
「あ、ありがとな」
と言い受け取った。少しぎこちない。が、雄輝は深呼吸すると政哉に言った。
「ごめんな、あんなとこ見せて」
「いや、まあ…こっちこそすまん」
「なんで政哉が謝るんだよ」
雄輝の知らない一面を知ったことに対する、罪悪感というか何というか、とにかく複雑な感情が政哉を巡り巡る。
再び沈黙が訪れる。それを打ち破ったのは政哉でも雄輝でも無かった。
「あらあら、政哉君じゃないかい。中でお菓子でも食べたくかい?」
雄輝の後ろから出てきた雄輝の祖母…八重によってその場は収束した。
政哉は雄輝と共に居間に通され、机の前に座らされた。八重はお菓子とお茶を持ってくると、開口一番こう言った。
「雄輝や、例の話のこと、政哉君にも話してなかったのかい」
雄輝は何も反応しない。が、無言を是と受け取った八重は語り続ける。
「あんな場所を見られちゃもう黙っていられないだろうに。雄輝が言わないならおばあちゃんから説明するよ」
「…!」
雄輝は複雑な表情をしながら八重の方を向く。すると雄輝はとうとうその重い口を開いた。
「いや、俺から説明する」
雄輝は確かにそう言った。
「そうかい、じゃあ邪魔者は失礼するよ」
八重はそう言うと立ち上がり、他の部屋へ行ってしまった。八重がいなくなると雄輝は恐る恐る口にした。
「政哉、俺が両親と揉めてるって話はしたよな?」
「だいぶ前に、な」
「さっき政哉が見たのが俺の父親だよ」
政哉はさっき玄関で見た男性を思い浮かべる。何処となく飄々として明るい雄輝とは対照的な、どこまでも生真面目で厳格な人物、という印象を受けた。
「俺の父親はとある高貴な家で執事として働いているんだ。その家と俺の家は代々続く当主と補佐役の家柄らしくてさ、俺にもその道を絶やさぬよう厳しく言ってきたんだ」
「…まさか、揉めてるってことは」
「まあ、俺がやりたくないってことだ」
一族の当主にされそうな政哉とは似て異なる、複雑な運命の糸が垣間見えようとしている。




