2人だけの世界、2人きりの世界
花火も終わり、いよいよ夏祭りも終わりが近づいてきた。宮島政哉、砂川百合奈、佐野雄輝、安濃香保、そして宮島美佳の5人も解散となり、後片付けをして各自帰ることとなった。勿論、美佳は政哉に叩き起こされた。
「じゃあな、また二学期に」
「どうせ百合奈と一緒に恋人繋ぎしてくるんだろ?」
「どんな予測だよ…」
別れ際すらこういう発言をいけしゃあしゃあという雄輝に、政哉は怒りを通り越して呆れてしまった。突っ込むだけ無駄と悟った、という方がより正確か。
百合奈は複雑そうな視線を雄輝に向ける。明らかな非難の視線とかで無い辺り、満更でもないと思っているのではと政哉は考えてしまった。何故そういう思考になったのかと言えば、政哉自身満更でもないと思ったからである。
政哉は今後どうする気か考えながら百合奈らと別れ美佳と共に家に帰るべく歩き出した。暗い夜道がやけに寂しく感じた。
☆
宮島美佳は花火の最中に寝ていたが、途中から起きていた。だが起きた直後政哉に膝枕されていることに気づき、気恥ずかしさやまだこうしていたいという気持ちから敢えて寝たふりをしていた。ところが、美佳の後ろで政哉と百合奈が会話している様子を聞いてしまい、とうとう取られてしまったという感覚に襲われた。
怖かった。幼い頃の微かな記憶から兄がいなくなる光景が思い浮かんだからだ。以前はいなくなった政哉が戻ってきたと思っていたが、恐らくそのいなくなった兄とは血の繋がっている勝真のことだと分かっている。つまり、美佳は一度家族を失っている。そして今、また失うような気がして仕方がなかった。そう思うと急に足取りが重くなり、とうとう夜道に佇んでしまった。
「美佳?どうした?」
政哉が聞いてくる。
「…お兄ちゃんはあの人と…その、付き合うの?」
確認するような質問に美佳はまもなく後悔した。自ら傷口を抉る行為である。
「…少なくともお互いが好きだって事は判明したな」
肝心の政哉の返答はどちらとも取れない内容だった。それでも我慢出来なかった美佳はとうとう政哉に抱きついた。政哉の驚く声が聞こえたが、そんなものは知ったことではない。自らの思いを打ち明ける。
「お願い…お願いだからいなくならないで…!」
泣いていた。泣きじゃくっていた。もう1人にはなりたくなかった。政哉がいてこそ美佳は生きていられるも同然だった。両親に代わって世話をしてくれた政哉に美佳は間違いなく依存していた。それ故いなくなる恐怖に潰されそうだった。
「…美佳」
政哉が静かに口を開く。
「大丈夫、美佳は大事な大事な、俺の妹だから。何処へも行かないし、いなくなったりはしないよ」
美佳は泣きながら顔を上げる。優しい兄の顔があった。
「…本当?」
「本当さ。お兄ちゃんが嘘ついたことなんてあったか?」
「…幾らでもあった」
「そう言えばそうだった」
急に頼りない言葉が出てきたが、美佳としてはこの何気ないような会話が何より嬉しかった。兄がいなくならずにそばにいてくれるということが実感出来た。泣きながら、でも笑いながら美佳は再びギュッと抱きついた。兄もまた抱き返してきた。何故だかとても暖かかった。
家につくと、美佳は兄にまた抱きついておねだりした。
「お兄ちゃん、浴衣脱ぐの手伝って」
「馬鹿、1人でしろ」
「えぇー、折角可愛い妹のあられも無い姿が見れるのに〜」
「な、お前な」
離れないと分かると安心して何かしたくなってしまうのは美佳の謎のサガらしかった。
美佳は上機嫌でその状況を楽しんでいたが、次の瞬間頰に柔らかい感覚がして固まった。兄がキスして来たのである。
「過度なスキンシップは大概にしろ、良いな」
兄の一言に美佳は心臓をバクバクさせながら頷くしか無かった。これまでずっと連勝してきたと思っていた美佳だったが、この時初めて兄に出し抜かれた形である。ただ、これも悪くないと思ってしまう程度には美佳は兄を溺愛していた。次は何をしようかと思案を巡らせる美佳は、宛ら相手陣地を高台から見下ろし戦略を練る軍師の様であった。
短く長い夏休みが終わろうとしている。




