純白薔薇色の約束は比翼連理の固結び
宮島政哉、宮島美佳、砂川百合奈、佐野雄輝の4名がやっとこさ広場に着くと、ピクニックシートで一スペースを占拠している筈の安濃香保は律儀に座って…いる訳では無かった。
チンピラっぽい若い男数人に絡まれており、身動き出来ない状態に追い込まれていたのである。近づくにつれ、会話が聞こえてきた。
「だからさ、ちょーっとだけ付き合って欲しいんよ」
「金ならやるからさ、な?」
…それなりの地方都市の花火大会で堂々ナンパとは呆れて溜め息も出ないな、と政哉は思った。実際周りから非難のような視線が彼らに向けられているのだが、当の本人達はお構いなしに香保に詰め寄る。見過ごせない政哉は前へ出ようとするが、それより先に前に出て間に割って入った人間がいた。
「失礼ですが私の友人に手を出さないで頂けますか」
百合奈だった。政哉や雄輝よりも先に自らの親友を守るべく前へ出たのである。チンピラ達は最初の一瞬こそ不愉快な目をしたが、百合奈の姿を見て表情が一変する。
「お、お前も良い顔つきじゃねーか。スタイルもいいし、俺達とちょっと付き合おーぜ」
「そうだそうだ、ヤらせてくれるんなら報酬は弾むぜ?」
遠慮も品性も無い発言に政哉は自分の中でかつて無いほどの怒りを覚えていた。プールで感じたのと似たようで、より強い感情だった。俺のものに手を出すな…そんな感情が湧き上がっていることに本人も薄々勘づいてはいた。
「そんなものに興味はありません。離れて貰えますか。不愉快極まりないです」
「釣れない女だなぁ。なら無理矢理でも連れてってやろうか?おん?」
百合奈は言葉でこそ強がっているが内心怯えていることを政哉は感じとったし、恐らく雄輝も気づいている。
唇の震えが止まらなくなっているからだ。一緒にいるからこそ気づける普段との変化だった。決心した政哉はチンピラの元へ行き、思いっきり言ってやった。
「俺の彼女に手を出すな」
そう言って百合奈を庇う。チンピラはイラッとした視線を政哉に向けた。邪魔だ、と視線で語ってくるようだ。よほど百合奈のことが気に入ったらしい。外見だけで判断するとは本当に人を馬鹿にする奴だな、と政哉は思った。
政哉は心の中で深呼吸した後、意識して氷のような視線を作り、チンピラを睨んだ。
「失せろ」
その途端、それまで戯けた表情だったチンピラは一転、怯え始めてそのまま退散しだした。それでも諦めきれないのかもう1人のチンピラがまた香保の方に詰め寄ろうとするが、そのチンピラは次の瞬間ぶっ倒れていた。
雄輝が横から脇腹にストレートパンチを浴びせたのである。予想外かつあまりに重すぎる一撃にチンピラの顔が蒼白になる。
「聴力が失われてるなら拳で教えてやろうか?こっちは全然構わないぜ」
相変わらず飄々とした、しかし目は全く笑っていない雄輝の言葉に今度こそチンピラ達は怯えて退散していった。周りからは盛大な拍手が送られた。
チンピラ達が消えたと確認したら、表情を元に戻す。冷たい表情で相手を脅すのは元々政哉の祖母玲子の常套手段である。この前は百合奈が来たから無かったが、祖母がウチに来た時は家の中で美佳と共に交渉術を散々教えられたものである。皮肉かもしれないが、それを実践したからこそ今の危機を乗り切れた訳である。政哉としては疲れるし祖母に対しての感情もあり普段は滅多にこんなことはしないが、それが何故か今はすぐ実践に移すことが出来た。目の前の友人の危機が自らのプライドすら超越したということだろう。
勿論そこには友人以上の感情があったのだが、本人はまだ気づかない。しかし…
「ねぇ、政哉」
百合奈に呼ばれて、政哉は何気なく振り返った。そしてすぐさま後悔した。百合奈が頬を赤くしながら僅かに泣いていたのである。無情にも政哉にはその表情が愛おしくて仕方なく感じられてしまい、政哉も頬を赤く染めてしまっていた。
百合奈は振り返った政哉にそっと近づくと、甘味料を奮発したような声で囁く。
「…ありがと」
そして、そのまま
政哉の頰へそっと口付けをした。
政哉は突然のことに動揺したが、正直まんざらでもない気分になりなんだか満足してしまっていた。雄輝のやりやがったなという視線が見えると流石にぶん殴りたくなってきたが。
「お、花火が始まるぞー」
誰かがそう言ったのが聞こえて、政哉も百合奈もピクニックシートに座り空を見上げる。香保が座り、その横に雄輝も座った。美佳も慌てて政哉の隣りに座るが、何故か顔を俯けていた。
花火が上がる。
多彩な花火が次々とあがり、政哉はそれに見惚れていた。すると、政哉の右手に突然何かが触れる。そちらを見ると、それは百合奈の左手だった。政哉はそのまま右手の指を百合奈の左手に通した。そうしたいという感情が政哉を突き動かしていた。
次の瞬間左肩に何かがゴツンとぶつかった。左側を見ると美佳が既に眠ってしまっていて肩に寄りかかって来ていた。政哉は苦笑いしながらそっと美佳の頭の位置を移動させ膝枕してやった。動き回って疲れたのだろうから今のうちに休ませてやろう、と思った。
「ねぇ、政哉」
花火の音が聞こえる中、百合奈が声をかけてきた。
「なんだ?」
「私、政哉のことが好き」
突然だった。ところが政哉は不思議なことに全く動揺しなかった。そして、自らの思いのまま口を開けた。
「俺も百合奈のことが好きだよ」
「良かった、相思相愛だね」
「…そうだな」
政哉がそう返すと、百合奈は突然政哉にもたれかかってきた。政哉が不思議そうに百合奈を見ると、百合奈はにこっと笑いながら言った。
「こうさせて…すごく安心するから…」
「…好きにして良いよ」
なんだか甘いミルクのような香りが感じられる。それは幸せの匂いに違いないと政哉は思うことにした。
花火が打ち上がるが、2人の姿はそれに負けないぐらい眩しく見えた。




