可憐な乙女達は鮮やかに咲き誇る
後ろから肩を叩かれた宮島政哉はふと振り返った。そこには妹・美佳と同様浴衣に身を包んだ砂川百合奈がいた。
百合奈が身につけていたのは白を基調として藤が描かれた浴衣だった。ある意味、黒を基調として向日葵が描かれた美佳の浴衣と正反対だった。美佳の浴衣が明るさを印象づけたのに対して、百合奈の浴衣は清楚感に包まれていた。
政哉はそのあまりの美しさに思わず見入ってしまったが、百合奈が赤くなった顔を扇子で隠しながら、
「恥ずかしいからそんな見ないで…」
と言うものだからこちらも恥ずかしくなって目を逸らした。逸らした先にいた美佳は何故か不機嫌な様子でこちらを見つめてくるものだから、これまた息苦しくて視線をずらす。するとその先にいたのは佐野雄輝だった。
「よっ。ようやく着いたか」
雄輝は軽く話しかけてきた。相変わらずこういうところは飄々としている。
「遅れてすまんな、美佳の着付けが時間かかったもんだから…」
「良いの良いの、妹の浴衣姿眺めてたくて遅れたって正直に言えばいいんだよ」
「おいこら殴られたいか」
冗談のような、それでいてまるで真実のような話し方に思わずツッコミを入れる。美佳もいよいよ顔を赤くしてしまった。百合奈に至っては茹でタコの様だった。
「は、早く行くわよっ!」
百合奈が言うと、雄輝が先導の元混雑の中を歩き出した。政哉は慌てて後を追い、百合奈が美佳の手を掴んでその後を追いかける構図となった。美佳は百合奈に何か敵対するかのような視線を向けており、百合奈も応戦するように睨み返していた。
政哉が何やってるんだと思っていると、先導していた雄輝から
「両手に花だなぁ、羨ましいぞこいつ」
と言われたものだから思いっきり背中を小突いた。こんなことでは心臓が過労死してしまう。それぐらいドキドキさせられるこっちの気分にもなって欲しいものである。
☆
赤面しながらも、砂川百合奈は人混みの中決して繋いだ手を離しまいと握り直す。心のどこかでは美佳をライバル…?と認識している百合奈だったが、流石にここで見捨てるほど腐ってはいない。美佳の方は先程睨んできていたものの、人混みがいよいよ激しくなってくると手どころか腕に抱きついて来た。明らかに怖がっている。
百合奈からすれば政哉が妹を溺愛していることは愕然たる事実ではあったが、溺愛してしまう理由は少し分かった気がした。
百合奈は先程政哉に見られた時のことを思い出す。政哉が百合奈の姿を見た瞬間、百合奈はかつてないほど胸の高鳴りを感じていた。そもそも浴衣1つにここまで悩んで決めたのも過去有り得なかった。いつもなら親に聞くなりなんなりして適当に選んでいた筈なのだが、今回はじっくりと吟味して決めた。何を基準にしていたのかは分からない。とにかく悩んで今着ている物に決めた。
…それは政哉への恋心故なのだがどうやら百合奈は気づいていないらしかった…
☆
宮島美佳は自分が笑いたいのか戦慄したいのかわからなかった。よりにもよって浴衣が百合奈と正反対のデザインをしていたからである。美佳は心の中で百合奈をライバルとして認めている…勿論美佳の一方的解釈に過ぎない…からこそ、これは由々しき事態だった。
だが一方で人混みが故に百合奈に抱きついていた。いくら何でもそれぐらいの分別は出来る。百合奈から微かに香水の匂いがしたので、美佳は次はこれかな、と必死に兄にアピールする方法を考えていた。そうこうしているとようやく広場に到着することが出来ていた。
花火が上がろうとしている。何かを象徴するかのように。




