魅惑の感覚と誘惑の成長を悟る兄妹
宮島政哉は家の中でソファにのんびりと座っていたのだが、内心妙な緊張感を感じていた。何故なら今日は夏祭りの日だからである。政哉は砂川百合奈、佐野雄輝、安濃香保らと共に夏祭りに行く予定を決めたのだが、百合奈と香保は浴衣を着ることになっていたのである。何か変な意識をすると言うつもりでもなかったにも関わらず、妙な緊張感と緊迫感を抱かずにはいられないのであった。
「お兄ちゃん、どうかな?」
…そして、そちらに意識を向ける余り目の前の事象をすっかり忘れていた。妹である美佳もまた浴衣を着たいというから、妹が着替えるのを待つ為にわざわざいたのである。それをすっかり忘れていた。
後ろの方を見ると、浴衣を見に纏った美しい少女がいた。黒っぽさを基調としつつ、各所に描かれた向日葵が政哉には余りも眩しく見えた。かつて無いほどの美佳の美しい姿に、政哉は理性が削り取られている気がした。
「…可愛いぞ」
「やったー♪」
政哉の素直な賞賛に美佳は大喜びし、そのまま勢いよく抱きついて来た。浴衣を着ていて動きにくい筈なのに、である。政哉はついそのまま抱き返そうとしてしまったが、何とか欲求を止めて意識を逸らそうと時計を指差す。
「ほら、良い時間だから。さっさと行くぞ」
「…はーい」
美佳は少しだけ不機嫌になった顔で、渋々政哉から離れた。そして政哉と美佳は家を出て、政哉は鍵をかけた。政哉が出発しようと歩き出すと、美佳は政哉の右手を自分の左手で握った。政哉は少し驚いた表情で美佳を見つめる。その顔は真っ赤に染まっていた。
「お、おい、美佳どうした?」
「…今はこれぐらいで我慢する」
「何を我慢してるんだよ」
政哉は問いただすが、美佳は頬を赤らめるばかりで何も語ってくれなかった。その内そこへの好奇心より手を繋いでいることの羞恥心が上回り、政哉もまた赤らめる事態になった。だがこれ以上美佳の機嫌を損ねたく無かった政哉は、美佳と手を繋いだまま夏祭りの会場へ向けて歩き始めた。美佳が
「次はもっと大胆にしないと…」
と呟いていたことには気づかなかった。
政哉は美佳の機嫌を直そうと道中積極的に話した。
「美佳は屋台で食べたいものあるか?」
「…わたあめ」
「甘いもの好きだよなぁ、美佳は」
「お、お兄ちゃんだって甘いもの好きじゃない」
「レストランでケーキ数十個食うほどじゃねぇよ」
「ちょっと、あれは忘れてって言ってるじゃん!」
政哉は良し、と思った。美佳の黒歴史…と言っても大したことでは無いと政哉は思っているのだが…を駆使して、少しだけ美佳の機嫌を直すことに成功した。が、負けっぱなしになるのを嫌った美佳のせいで、政哉はそれを後悔することになる。
「うー、ならたこ焼き食べたい!」
「また急な路線変更だな」
すると美佳は空いている右手で政哉に手招きをした。政哉が美佳に耳を近づけると、美佳は一転して大人っぽい声でこう言った。
「お兄ちゃんにあーんしてあげるから楽しみにしててね?」
「…!?」
政哉はびっくりして顔を引く。その顔は真っ赤に染まってしまっていた。美佳はと言うと、してやったりという表情であった。先程までとは打って変わって今度は美佳が政哉を引っ張っていた。その様子はさながらカップルのようであった。
夏祭りの歓声が聞こえて来る。




