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偽善者は宴に酔いしれる  作者: 星胤ヒカル
第伍章 輝きの夏休み
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変化する行動、変化させる関係、変化しない思い


 結局、百合奈(ゆりな)がこけかけた後は普通にプールを楽しんだ。スライダーや流れるプールへも行き、くたくたになるまで遊んでいた。そして今は、ランチタイムである。


「どうせ味は変わらないけどなぁ」


 佐野(さの)雄輝(ゆうき)がそう言うが、宮島(みやじま)政哉(まさや)は考え事をしていた為曖昧に返すことしか出来なかった。

 百合奈がこけかけた時、明らかに何かが心に引っかかっていた気がしてならない。雄輝が百合奈に触れた時、だろうか。何か自分の中で変な気持ちが蹂躙していた。何というか、例えるならおもちゃを奪われた赤ん坊のような…


「っ、何考えてるんだ…」


 独り言のように呟く。自分は百合奈に何を求めているのか。具体的に想像出来るものではないが、間違いなく碌でもないことだろう。それだけは確信があった。



 やっぱりな、と佐野雄輝は思っていた。百合奈を助けた時に感じていたことを確信する。

 あの時、政哉は雄輝に向けて羨ましがるような、それでいて非難するような目を見せていた。政哉がそんな視線をみせるのは少なくとも雄輝は初めて見ていた。その時、政哉が百合奈に対して無自覚ながら恋心を抱いているのではないかと感じていた。無自覚と言ったのは、政哉は感情論に走ったりすることをしない性格であり、恋心という感情を内部の奥深くに止めていたからでは無いかと思うからである。さらに、その複雑な表情が雄輝をより確信させていた。

 これまでの行動から考えると百合奈は完全に恋心を自覚しているだろうから、相思相愛と言うべきか。本人達が望まないのであれば雄輝は何も言わないが、そうで無ければ結びつくよう精一杯サポートしようと考えていた。


「やっぱり、血筋は争えないか」


 家系がそういうタイプだよな、と雄輝は感じていた。



 兄が帰ってきた際、宮島美佳(みか)は抱きつこうと玄関で身構えていたが、兄の悩む様子を見て憚られた為やめた。


「お兄ちゃん、おかえりなさい」


「ん、ただいま」


 兄は疲れていたのか鞄を置いてリビングにごろんと寝転がった。美佳はひとまず自分の部屋へ戻り勉強の続きに取り掛かろうとした。兄はこのまま寝るのかな?と考えていた。



 1時間はたっただろうか。一度水分補給をしようとリビングの方へ戻ってくると、兄は机に肘を置き悩んでいる様子だった。…それは政哉が百合奈に対する感情が何なのか考え込んでいたからだが、美佳が知るよしもない…。そんな様子の兄を見た美佳は、思わず後ろから抱きついていた。美佳の突然の行動に兄は相当驚いた様子だった。


「っ、美佳、離してくれ」


 兄にそう言われたが、美佳はよりぎゅっと抱きしめた。


「…お兄ちゃんを、ほっとけないから…」


 これまでであれば恐らく言うことの無かったそのセリフを、美佳は自然と口にしていた。兄はきょとんとした表情を見せてから、苦笑いし始めた。


「…ごめんな、美佳に心配かけて、大丈夫だから」


 そう言うと、兄はやんわりと美佳の腕を解き、頭を撫でた。美佳は嬉しかったが、兄が悩んでいることに変わりはないと思っていた。そう思うと何もしないのが憚られた美佳は、次の瞬間無意識に兄の頬にキスをしていた。美佳の内心は安心させたいような驚かせたいような心境だった。


「…!?」


 神妙な趣きだった兄が一瞬で顔を真っ赤にするものだから、美佳は可笑しくて仕方なかった。しかし、このままだと羞恥心で自分も真っ赤になりそうなので慌てて逃げる。


「じゃあ勉強の続きしてくるからー」


「お、おいおい!」


 水分補給に行った筈だが、これだけで満足している美佳であった。そして、リビングには思考が追いつかない政哉が1人取り残された。



 夏祭りが刻一刻と近づく。

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