心の壁を乗り越える術は自分の中にある
数十分前に遡る。
宮島美佳は兄の部屋に入ると、パソコンを見つけた。ここに何かあるのでは、と直感的に感じた美佳は起動するも、パスワードを打つ場面になった。最初は兄の誕生日で試してみたが、残念ながら違っていた。次に、自分の誕生日を入れてみた。すると、ロックが解除されていた。
そしていよいよ、兄の検索履歴を見てみた。すると、最初に出てきたのは許嫁だった。だが、美佳は初めその言葉の意味を理解するのに時間がかかった。意味を知った時、もしやと疑念がよぎった。そして、ホーリー航空154便墜落事故に行き着いた。いや、より正確にいうなら行き着いてしまった、だろう。
遂気になった美佳はそれをもう少し調べてみようとした矢先、玄関の方から音がした。勿論、それは政哉と百合奈である。
美佳はその時になって初めて、自分がとんでもないことをしているという事に気付いた。兄に怒られかねないことをするなど、これまでの美佳なら間違いなくしてこなかったことだ。
美佳は咄嗟に隠れた。兄に勘付かれないのか不安だったが、それは杞憂だったようだ。いや、或いは救われなかったというべきなのだろうか。
そして意図せずして、美佳は真実を知ってしまった。
☆
砂川百合奈はその状況を把握するまで時間がかかった。まず、政哉から美佳との関係について知ることになった。次いで、それを美佳が聞いていたことを知ることになった。そして、
美佳は政哉が狼狽える中部屋を、家を出ていった。
「政哉、すぐ追いかけないと…政哉?」
政哉は凍りついていた。その表情は絶望感に包まれており、その頬には涙があった。政哉がこんな弱い表情を見せたところなど、見たことが無い。かつて自分を救ってくれた時とは似ても似つかない姿に、百合奈は一瞬困惑を挟んだ。
しかしまもなく、政哉の手を引っ張って強引にでも美佳の元へ連れて行こうとした。このまま放置する気にもなれなかったのだ。また、恩返しのつもりでもいた。
だが、政哉は一向に動こうとはしなかった。百合奈は思わず声を荒げた。
「何してるのっ、早く行かないと…!」
すると政哉は涙を浮かべつつこう返した。
「行ったとして、何て言えば良いか分からない…だから、放っておいてくれないか」
政哉の弱気な発言に、百合奈は政哉の頬を引っ叩いてしまっていた。それだけ百合奈自身も不安定な状態だった。
「内容を考える暇があったら追いかけなさいよ!政哉の美佳ちゃんへの愛はその程度の浅はかなものだったの!?」
百合奈は自分も涙声になりながら必死に訴えた。政哉はここまで言われたからか流石に反論してきた。
「なっ、そんな訳無いだろ!俺は…俺は勝真兄さんの願いを叶える為に、今日まで全力で美佳の兄を努めてきたんだぞ!」
「その思いがあるならそれを伝えなさい!」
百合奈がそう言うと、政哉は思い詰めた表情をしたのち、覚悟を決めるように深呼吸をすると、百合奈に言った。
「…分かった。どうなるか分からないけど、行ってくる」
そう言って、政哉は大急ぎで部屋を出て行った。百合奈は安心したような、油断出来ないような気持ちでいた。
「神様どうか…彼らを救ってください」
結局百合奈は神頼みするしか無かったのであった。




