あの日交わした約束を胸に秘めて
「えっ…美佳ちゃんって政哉の妹なんじゃ…」
百合奈が困惑するのも無理は無い、と政哉は思っていた。百合奈や雄輝には妹がいると言う話は以前からしていた。
「それに、さっきおじさん一家が亡くなったって言ってたじゃない。美佳ちゃんが本当にそのおじさんの子供かなんて…」
「いや、違うんだ。何処から説明すりゃ良いんだろ…」
政哉も説明に困っていたが、百合奈から「言葉足らずでも説明して」と目で促されている気がして、話し始めた。
「光文おじさんには2人の子供がいたんだ。墜落した飛行機には元々光文おじさんとその奥さんの2人が乗る予定で、おじさんの子供2人は祖母が預かる予定でいたんだ。でも、直前でおじさん家の長男…勝真兄さんも、おじさんがこれも勉強だと連れて行くことになったんだ。でも、長女は生まれて間もなかったから流石に憚られて留守番になった」
「それが美佳ちゃんってこと…?」
「そう。美佳は意図せずして宮島家の次期当主の座についた。唯一の生き残りとして。いや、まあより正確に言うなら
動ける唯一の人間ってとこか」
「…?」
百合奈は再び首を傾げる。ここも説明してやるか。
「実はさ、飛行機が墜落した時、おじさんとその奥さんは即死してたんだけど、たまたまトイレに行っていた勝真兄さんだけは救出されたんだ。この事故の生還者はトイレ付近にいた人だけで、とある小学校の生徒数名、女性と小さな子供の親子、そして勝真兄さんだけが助かってる」
「え、でもそれなら美佳ちゃんが家を継ぐ必要は無いわよね?」
「勝真兄さんは救出はされたけど、全身の骨が折れたり臓器が損傷していたりして、とても日常生活が送れる状態じゃないんだ。今尚ベッドで寝たきりの生活をしてる。だから、当然当主なんか務まらないんだ」
因みに俺は年に何回か勝真兄さんの見舞いに行っている。美佳にはとてもじゃないが言えないので、内緒で。寝たきりの生活にも関わらず、勝真兄さんは俺を明るく出迎えてくれる。小さい頃の記憶だが、兄さんに公園まで連れて行ってもらって、二人で時間が経つのも忘れて遊んでいたこともある。宮島家のことは大嫌いだが、一方で勝真兄さんは大好きだった。だが、救出された直後に見舞いに行った時、陽気な性格でどんな時も明るかった兄さんが僅かに、本当にごく僅かに泣いていたことは、恐らく政哉は一生忘れられないだろう。
「そして、初めて見舞いに行った時、俺は勝真兄さんに言われたんだ。自分に代わって、妹を助けてくれないかって。俺は泣きながらやるって言ったよ」
勝真兄さんはあくまで妹の面倒を見ることをお願いしただけであって、美佳と結婚しろなどとは言っていない。この間見舞いに行った時も、祖母を幾ら説得しようと考えを改めようとしないと嘆いていた。
「だから俺は勝真兄さんに代わって美佳の兄を務めることにしたんだ。父さんは今みたいな事態を懸念して難色を示したし、祖母が何かしらアクションを起こすことなんて俺も初めから分かってた。でも俺は、兄さんと交わした約束を破ることなんて出来なかった」
一度ペットボトルのお茶を飲み、喉を潤すともう少し語る。
「祖母は俺と美佳を許嫁にして俺に継がせようとしてる。だから俺の身分を隠すことをしてくれたし、毎月とんでもない額の養育費を送ってきてる。でも、身分を隠すなんてそもそも祖母が関わってこなければする必要は無かったし、うちは本家みたいな金持ちでは無くてもお金に余裕はある」
因みに、父さんは最初送りつけられた養育費を何処かの寄付に回そうとしたが、母さんが止めた。母さん曰く、これは俺と美佳の為のお金なのだから、俺達が大人になった時にどう使うか決めさせたいと言うことらしい。因みに政哉自身はその扱いを美佳に一任する気でいた。それを祖母に送り返そうが、何処かに寄付しようが、或いは手元に置こうが美佳の自由にさせてやるつもりである。
その時、タンスからガタンという音がした。そして、中から美佳が出てきた。
「お兄ちゃん、今の話…どういうこと?」
涙目の美佳を見て、しまった、と政哉は思った。百合奈は言葉を失った。




