奉行堀伊賀守の使い
その翌日の事。またまた大阪の伊賀守が使いを寄越して、色々な肴と一緒に手紙が届いた。
その晩は届いた肴を煮させて、代官をはじめ庄屋まで呼んで振る舞った。その場で手紙を読んで聞かせると、話の内容に一同の顔には気が伏せた様子が現れた。
試しに銀子の用立てについて聞いてみると、「今色々と骨を折っているけれど、中々準備できない」との答え。
その晩はそれでお開きにして眠り、翌日の朝になってから新右衛門を呼んだ。
「今日は少しばかりおれの喜び事があるから、七つ過ぎから村方一同を呼んで酒を振舞ってやろうと思う。入用の金を渡すから、尼ヶ崎で良い肴を買って、吸物も含めて万事念入りに用意してくれ」
そう言いつけて、おれはその日の献立を書き付けておいた覚えを渡した。
「早風呂がしたいから、湯を沸かせ」
風呂の湯を命じると、髪を喜三郎に結わせ、散らかった座敷を片付けさせた。
その後湯に入り、供を残らず連れて伊丹の牛頭天王(注1)へ参詣すると決めた。
白子屋という呉服屋に入り、
「諸麻の上下と三具(注2)。それに孫一郎の紋が入った白無垢の羽織(注3)を二つ。今八つ時(注4)までに拵えてくれ」と頼んだ。
「黒餅(注5)ならば受け合えますが」と言われたので、その代金だけ先払いし、物は別の者を取りによこすと約束した。
村方へ帰ったら、九つ(注6)を過ぎていた。
【注釈】
注1 … 現在の八坂神社に祀られる祭神。
注2 … 仏前に供える華瓶・燭台・香炉の3つの道具。
注3 … 神道では白は神聖な色とされ、儀式に用いられた。白無垢が神前婚の花嫁衣装を指す言葉になったのは明治以降。
注4 … 午後4時頃。
注5 … 別に定まった紋をまだ染めていない物。
注6 … 正午頃。




