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[現代語訳]夢酔独言  作者: 雪邑基
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能勢の妙見詣で

 それから少し気が伏せたような様子で、村方の者達が金の算段をつけると聞いた。最早こうなれば大丈夫だろうと睨んだから、代官へその旨申し渡して、能勢妙見へ詣でる(注1)事にした。

 供にはこれまでおれと敵対していたやつらばかりを連れて行こうと話して、喜三郎一人の他は村方の悪党共を連れ立った。

「今日は孫一郎の家来としてではなく、おれ個人の参詣だ」

 おれはそう言って、御紋服姿に槍箱(注2)も用意した。

 その時新右衛門に「雨具を残らず持参するように」と言ったら、「この節は日和が良い。五、六日は雨が降らないだろうから、持ってはいかない」との挨拶だ。

「おれは前々から妙見を信仰しているが、おれが祈るといつも大雨が降る。だから是非とも持って行け」

 そこまで言ってやると、新右衛門は不承不承物持ちを一人用意した。


 それから池田まで行って休んだが、駕籠の雨具がない事に気づいて取って返し、ゆっくりと能勢山へ入っていった。

 天気が良くって、山の上からは大坂・尼ヶ崎・摂津浦々まで一望出来た。その日は特別暖かく、袷(注3)一つで山に登ると汗が出る程だ。こんな陽気では誰も雨が降るとは中々思わないから、雨具持ちは一人で腹を立てていた。

 麓の茶屋で駕籠を降り、二十五町(注4)の絶頂を登って、ようやく妙見の宮が見えてきた。

 水行をしてから本堂へ上がると、大勢がおれの御紋服姿を見て恐れをなし、皆々外へ逃げ出した。だから静かに参拝して、門の外の茶屋で休んでから段々と山を下って行った。

 半分ばかり山を下ると、有馬の六甲山の方から雨雲が少しずつ出てきた。

「今に雨が降るから、お前は幸せだ。荷物が軽くなる」

 合羽を持っておれが雨具持ちに言ってやると、みんなが「たとえ雲が出ても、雨は降りません」と言う。


「下の旅籠屋へ行くまでは、降られたくないな」

 おれがそう言うと、みんなで急いで山を下った。

 二十五町の峰を降りると、やはり大雨が降ってきた。旅籠屋まであと三町ばかりの所で、供の者はずぶ濡れになった。おれは駕籠だから困らん。


 その夜はやむ事なく大雨風が続いた。

 明け方七つ(注4)過ぎにようやく雨がやんだけれど、おれはこたつの暖に当たりながらも油断せず、万端に気をつけていた。これは不慮の事故が起こってしまって、悪党共を供に連れてきたからと言われないためだ。


 その晩、供にきた奴らが不思議がって言っていた。

「夢酔様は奇妙な御方だ。雨が降る事を昨日から察していたし、それは神様から承るものがあるのだと見える。流石、御旗本ともなると違ったものだ。こちらは百日参っても、こんな事にはならない」

 そんなふうに抜かして屈伏した様子だから、しめたものだと思った。


 翌日、旅籠屋から多田権現へと回り、七つ(注6)の時分には御願塚村に帰った。

 その夜、猪山が密かにおれの寝床へ来た。

「夢酔様が雨を言い当てた事に村中が驚いたようで、みんなが色々と心変わりした様子です。どうにか金が出来そうになってきましたな」

 そう言われればおれも喜んだものだ。

 だが翌晩また様子を聞いたらば、今度は金を出すと言うものと出さんと言うものが半分ずつになったとの事。ならばと翌日は早く起き、喜三郎に留守を頼んで大阪へ行った。

 日本橋で芝居を見て、帰りに下山弥右衛門の所へ寄った。またまた相談事をして八軒屋に泊まり、翌日に村方へ帰った。


【注釈】

注1 … 北辰を表す妙見菩薩の信仰。またこの時代には、神道における天之御中主神と同一視されていた。

注2 … 供に持たせる、短い槍を入れた箱。

注3 … 裏つきの着物。

注4 … 1町が360尺、25町ならば約2,7km。

注5 … 午前4時頃。

注6 … 午後4時頃。


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