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[現代語訳]夢酔独言  作者: 雪邑基
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御願塚村での金談

 加賀虎に会った翌日、御願塚という孫一郎支配の村方へ行った。それは大坂より二里半ばかりの所にあった。


 おれは代官の山田新右衛門の所へ逗留し、江戸での事情を話した。

 翌朝、村の者を呼び出して金策について断じたのだが、どうにも様子がおかしい。

「地頭の石高が五百石ばかりの村方ですので、村をやって行くのに必要な金が七百両余りあります。ですから金の工面は中々難儀で、ご入用の金子は一銭もありません」

 と代官が言った。


 おれは江戸で用人や孫一郎へも確認して、五百両もあると聞いていたからそのつもりで来ていた。思っていた事とは大きな違いがあった。

 まずその日はそれきりにして、村方の一同を返した。誠に当惑したが、しかし出来ないという事もないだろうと思い直して、それから四、五日は毎日ふらふら村方を見て歩いた。歩いてみると、村中残らず富んでいる様子だから、少し安心した。

 それから、代官に逗留中の費用について聞いてみた。

「これまで役でみえた用人は、共一人を連れて毎日顔を出し、銀十八匁(注1)がかかった」との事。

 おれは村を共に訪れた上下五人で何事にも倹約し、肴が出ても食べずに代官のお袋に持たせてやった。毎日毎日共に厳しく倹約を言い渡すけれど、供の者へはそれぞれ手当を渡し、時々伊丹へやって内々に酒を飲ませた。

 結果、入り用は五人で一日十匁ずつとなり、代官は嬉しがった。そこで金の話はしないで、折々大坂へ行って遊んでは、村方の様子を密かに聞くことにした。

「金は出さないで、退屈させて追い帰す算段だ」との話が出て聞こえてきたから、毎晩新右衛門をはじめ子供まで残らず呼んで、昔からの名将の勇智、その仁について話して聞かせた。これにはいづれも喜んで、夜が更けるまで聞いて寝た。

 ある日、また金の話を出したら、「銀子がない」と言わたのでそのままにしておいた。

 すると江戸から連れて来た猪山勇八という男が、隠れて色々と金子の事を強弁したらしい。村方が騒ぎ立てて、毎日毎日村中が寄り集まって評議した。

 ある時にはおれの旅宿を取り巻いて、色々と戯言をぬかして、竹槍などまで持ち出した。それを供の者は怖がって、「江戸へ帰る」などと言うから叱ってやった。


 それから毎日、村内の寺へ集まっては、村方の衆が鐘をついてから押し寄せた。これもみんな猪山が馬鹿な事を言いふらしたからだ。


【注釈】

注1 … 上方では銀が用いられることが多く、為替レートとしては金の16分の1だった。


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