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[現代語訳]夢酔独言  作者: 雪邑基
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貧乏から立ち直る

 この頃のおれは、次第に貧乏になっていた。

 仕方ないから今一度困窮から立ち直れるよう無理な願掛けするため、妙見宮へ百日の行を始めた。一日に三度ずつ水行をして、食を少なくして祈ったものだ。

 八、九十日すると、下谷の友達がおれの所に集まった。久しくおれが下谷辺りへ顔を出さないから、何故だと疑問に思ったとのことだ。

 友達の問いにおれの家来分の小林隼太が「この頃は貧乏になって困る」と答えた。

「そいつは気の毒なことだ。今まで色々と世話になったし、恩返しにみんなで掛け合って無尽(注1)でもやろう。とは言って小吉から金は取れんから、お前が会主になるがいい」

おれの事情を知ってみんながそう相談し、鈴木新次郎という人がやってきた。この人は井上伝兵衛の門下で、免許までいっている。

「今度、友達で集まって遊山に行く無尽をつくることになっていてね。もう大概の所は決まっているんだが、お前を会主にという声が多いから、会主になってくれないか?」

 新次郎はそう言った。おれは答えて、

「会主になるのはいい。だが、今は困窮して中々無尽どころではない。すまんが断ってくれ」と言った。

「なんにせよお前に断られるとと始まらん。加入してくれ」と新次郎。

「掛け金を出すことができん」と断るおれに、「それでもいいから」と勧めてくる。

 それならばと承知をして、その日は新次郎を帰した。

 二、三日たつとまた新次郎がやってきて、帳面を出して五両をおれの前に置いた。

「これからは無尽に加入した人々が来るから、よろしく」

 そう言って新二郎は帰った。その時は妙見を詣でたご利益だと思えた。

 それからじきに刀の売買をしたら、 月の末には又兵衛という札差の番頭が頼んできた備前の助包の刀が、松平伯耆守に十一両売れた。又兵衛がうなぎ代だと、代金とは別に五両くれた。

 それからは毎晩、江戸の神田辺りと本所の道具市に顔を出しては儲けが出て、段々と金も出来た。

 それというのも今まで懇意の者が困っていると聞くと助けてやっていたから、みんながおれを贔屓にしてくれて、色々と刀を持ってきたからだ。素人から刀を買うのだから、損をすることはなかった。


 道具市で得た儲けの半分は、酒や蕎麦にして周囲の道具屋に食わせた。そうするとみんなが「殿様殿様」とおれを持ち上げる。

 外からの者が偽物を持ってきても、おれを持ち上げる道具屋連中が事前に教えてくれたから、損をすることはなかった。


 ある市でのこと。笠に札を入れて道具を入札するせりが行われたのだが、巧みな者がおれが入札するよう仕向けた。そのためにおれは見損じ、本来は三匁の価値の物に一分も入れてしまった。

 笠を開ける役がそれを察して、笠の中身を見て「勝様は三匁五分」と言った。結果五分だけの損ですんだから良かった。

 そのかわり、いつも市の終わりにはそばを奢った。それがたとえ五十人相手に一杯ずつでも、必ず食わせて帰した。

 町人というのは一文、二文を気にして生活しているので、みんなが喜んだ。方々の市場には、おれが座る座布団が一つずつこしらえてあった。


「いつもお前が市に行くと、商人がはいはい言って従うが、あれはどういう訳だ?」

 市でおれが良くしてもらっているのを友達が悔しがってそう聞いてきた。だからおれも市のやつに色々と良くしていると、事の次第を話した。

「それではお前の方が損だろう」

 この話を聞いたみんながそう言ったものだが、なんのたいそう徳になったよ。

 借金は四十俵の高で三百五十両余りあったから、女郎でも買ったと思って、市での商売に打ち込んで金が入るたびに返した。すると二年半ばかりで三、四十両にまで減ったものだから、こわいものだ。


 なんでも施すことが一番大事だと心得て、近所はもちろん、困るという者にはそれぞれその者にあった施しをした。

 そのため、飢饉の年(注2)には毎日一朱ずつの小遣いを持って遊んだ。


 友達にも時間を割いてやるし、毎晩の道具の市へ出かけるのは勤めだと思って精を出した。

 売り物の百文に四文を分一(注3)を乗せて売買をしていたら、三月で三両二分の端金が貯まったから、刀をこしらえた。


【注釈】

注1 … 何らかの目的のために、みんなで金銭を集める金融形態。

注2 … 天保の飢饉のこと。

注3 … 分一は手数料のこと。つまり4%の手数料を取っていたということ。


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