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[現代語訳]夢酔独言  作者: 雪邑基
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麟太郎、犬に噛まれる

 岡野の土地へ引っ越してから、段々と脚気も良くなって来た。

 土地を移って二ヶ月目にだったか、息子が九つの年のこと。息子は御殿から下がっていた。

 その頃、本の稽古だと息子を三ッ目橋の向こうの多羅尾七郎三郎の用人の所へ通わせていた。ある日、その稽古に行く途中、病犬に出会って金玉を食われた。


 その時は花町の仕事師で八五郎という人が自分の家にあげて、色々と麟太郎の世話をしてくれた。

 おれはうちで寝ていたのだが、知らせを聞いて、飛んで八五郎の所へ行った。


 おれが到着した時、息子は積んだ布団に寄りかかっていた。

 前をまくってみると玉が食われて垂れ下がっていたが、幸い外科の成田という医師がもう来てくれていた。

「命は助かるか?」

 尋ねると、成田はひどく難しく言いおる。

 まずは息子が大事だと叱咤すると、それで幾分か気がしっかりした様子。ならばと息子を駕籠に入れて家まで連れて帰った。

 篠田という外科を地主が呼んで、治療を頼んだ。傷口は縫おうとしたが、医者は震えている。おれは刀を抜いて枕元に立て置いて、脅しつけるように叱咤した。

 息子は少しも泣かず、ようやく縫い終わった。

「今晩が山だ。命の保証はできん」

 容体を聞くと、篠田がそう答えた。家中のやつが泣いてばかりいるから、おれも思うままに小言を言って、叩き散らした。

 その晩から水を浴び、金比羅へ毎晩裸参りをして祈った。


 病床の息子をおれが始終抱いて寝て、他の者には手をつけさせなかった。

 鬱憤を晴らすように毎日暴れ散らしたら、近所の者が「今度岡野様の所に越して来た剣術遣いは、息子が犬に食われておかしくなった」と噂したくらいだ。

 それでもとうとう息子の傷も治り、七十日目には床を離れた。それ以後はなんともなかったから、やはり病人には看病が肝心だよ。


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