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[現代語訳]夢酔独言  作者: 雪邑基
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葉山孫三郎のこと

 ある日、地主が御代官になるため願い出るとのことなので、意見を言ってやった。それが気に入らなかったらしく、地主は大きく腹を立て、葉山孫三郎という手代(注1)に相談して、おれを土地から追い出そうとしやがった。

 おれは葉山孫三郎が来た時を狙って、地主の山口を訪ねた。

「お前様もはもう五十余りにおなりになるのだから、御代官になるのはおやめなされ」

 御代官の勤め方についておれが意見すると、山口が「なぜだ?」と聞いてくる。

「御代官になるには、まず始めに千両ばかりが入用になる。それから家作も壊れているから、それを直すのにも二百両ばかりはいる。みんなのしたくに百両と見て、もし支配領にでも引っ越すとなると百両はかかるだろう。そうなれば二千両もの借金ができる。その上に元〆が悪ければ引負(注2)もできて、どんなに倹約して勤めても、借金を返すのに三十年はかかる。子孫が迷惑をして、家計が立たなくなれば遠流か断絶になってしまう。必ず働ききることができる者でなければ、勤めるべき役ではない」

 おれがわかりやすく説明してやったら、山口の家中が怒って「土地を返してくれ」と言いおる。

 おれは帰るなり借りていた地面に触れ、不足の地代宿代を残らず集めて懐に入れ、移る土地を探した。しかし折悪く、久しく脚気(注3)をわずらっていたので、歩くこともままならずに新居探しは難航した。

 人を頼って、江入町の岡野孫一郎という相支配の土地へようやく移った。

「御代官になったら、まず五年と持つまい。どうぞ御心願が成就なすったら、しくじらぬよう専一になされまし。こちらの言の通りにならなければ、もう生きてはお目にかからんから」

 地主に土地を返す礼のついでに、おれはそういった。すると葉山が「なぜそう思う?」と聞いて来たから、葉山に今回の一件の成り立ちをあらまし言って帰った。

 案の定、山口は四年目の甲州の騒ぎ(注4)でしくじり、三千両ほどの借金が出来た。江戸へ戻って小十人組に組み入れ出来たらしいが、それでも家の状況は難しいとのことで、大変心配した。

 おまけに、葉山は揚屋(注5)へ三年も入れられていたとのことだ。

 気の毒に思っておれが一度尋ねると、

「お前の意見を聞かないばかりに、こうなってしまった。しかし、なんとか家だけでも残したいものだ」と葉山は涙ぐんだ。

 これはかわいそうだと思い、段々と葉山の顛末を聞いて、甲州郡代にやる手紙の下書きをしたためた。

「この手紙を甲州にやってごろうじろ。大方、奇特な人が黙ってはいまい。五百やそこらの金はあつまるだろう」

 おれがそう教えてやったら、葉山は驚いた顔をして、早々に甲州へ手紙を届けた。

 その後間もなくして、六百両の金が出来た。それでなんとか家は立ったが、今はまだ三十俵三人扶持だから困っている。

 江戸の掛屋(注6)にもまだ千五百両ばかり借りがあったので、三人扶持もそのまま掛屋に持っていかれる。だから子供が月々、今もおれを訪ねてくる。

 それからしまいには、小普請に入れられ(注7)て百日の閉門となった。

 その時の同役は井上五郎左衛門だったが、とうとう改易(注8)になった。葉山も江戸の構えをもっていかれたよ。


【注釈】

注1 … 農政をつかさどる下級役人。地の利のために町役人の子などから選出された。

注2 … 使用人の取引のためにおう負債。

注3 … ビタミンB1欠乏症。江戸で白米食が流行ったため多く見られ、江戸患いと呼ばれた。

注4 … 天保7年に起きた百姓の一揆。

注5 … 御目見え以下の武士や僧などが入れられる雑居房。

注6 … 蔵屋敷に入り、金銭を出したり両替を行なった御用商人。

注7 … 小普請は特別な時に呼び出せる無役の武士の集団。つまり役を外されたということ。

注8 … 土地や家禄などを取り上げて、平民に落とす刑罰。大名なら取り潰し。


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