寄せ加持祈
ある日のこと。小倉主税の宅で神田黒門町の仕立て屋に会ったが、こいつは影富の箱見役(注1)だ。
富くじといえば、おれと懇意の仲の徳山主計という人が富くじが好きで、南平にも加持祈祷を頼んだものだ。
「今日は富の日だから、寄加持をする」
その日は主計がそう言って、主税はの宅に大勢の衆が集まっていたのだった。おれはそれを知らずに訪ねたから、なんでこんなに大勢揃っているのかと思ったが、訳を聞いて納得した。
これも縁とおれもその席について始終様子を見学することにした。
まずは南平が女を呼んで種々の祈りを行い、護摩を焚いた。行が中座になると女が札の束を持って神をいさめる。少し過ぎて女が口を開き、
「今日は六の大目、富くじはこの番号がいい」と口走った。その言葉に一同嬉しがっていた。
行が終わってから、おれは南平に話しかけた。
「初めて見たが、恐れ入った。しかし、この行は随分と簡単なものだな」
おれがそう言うのを、仕立て屋が横から口を出し、
「勝様はそうおっしゃるけれど、中々簡単には寄加持は出来ぬもの。その訳は、どんなものにもことごとく法がありますから」と言いおる。
「それももっともな言い分だが、よく見てみろ。南平はどこの国の馬の骨だか知らないが、あの通り見事な行をした。おれの生まれは旗本で、身分も尊い。そのおれが一心誠心誠意込めて祈ったら、神も速やかに願いを聞き届けるであろうと思ったのよ。それにおれは南平に聞いたのであって、己が出すぎたことを言うのは失礼だ」
おれがそう叱ってやっても、仕立て屋は口が減らん。
「それはあなた様にはご無理だ。神事には法というものがありますから」
そうやって色々とぬかすから、おれは座敷の真ん中に出た。
「お前と論じ合っても無益だ。お前はおれの前へ出て礼をしろ。許すと言わぬ内にお前が頭を上げられるようなら、おれはすぐにお前の飯炊きにでもなろう。さぁこい!」
おれのその剣幕を周囲が見て取り、色々ととりなしてきたからとりあえずは許した。
しかし仕立て屋が、「なんにしろそれほどに自信があるなら、今この場で加持をして見せろ」と言う。
おれは水を浴びてから先ほどの女を呼び、祈祷をした。そして南平がしたように色々と口走って、行を終えた。
ことが終わってから高慢を言って家へ帰ったのだが、それからというもの南平に頼むと金がかかるからと、みんなおればかりに頼むようになった。
妹が病にかかったから一度寄加持をしてくれないか、と徳山が南平頼んだことがある。
「生き霊が取り付いていますな。その生き霊を二、三日ばかりで追い出さねばならないから、金五両ほどかかります」と南平が答えた。
そのことを徳山が話すから、おれが三日がかりで生き霊退治をしてやった。
徳山の妹の一件で南平はおれを恨み、互いの仲が悪くなった。
かけ富の寄加持でも、九十両を徳山と一緒に取った。それから二、三十両くらいの加持は何度も行ったものだ。
【注釈】
注1 … 富くじは寺が行う当時の宝くじだが、幕府公認出ないものを影富と呼んだ。木箱に入れられた木札を槍で刺して当たりを決めるシステムで、箱見はそれを確認する立会人。




