殿村南平について修行
ある時、妙見堂(注1)へ参詣した帰りに橋本庄右衛門の所へ寄った。丁度そこに殿村南平という男が来ていたから、近づきになった。
「私の見た所、お前様は天府の神をご信心されているようですが、間違いございませんか?」
南平がそう聞いてくるから、「年来、妙見宮を拝しておるよ」と答えた。
すると南平は、「左様でございますか。御人相に天帝が現れております」と言いおる。
それから色々と話をするのだが、南平はどうにも不思議なことを話す。よくよく聞いてみると、両部の真言(注2)をやるということで、面白い人だと思った。
橋本が己の親類にいる病人について聞いてみると、「それは死霊の祟りだな」と言いおる。
こちらが詳しく聞くとさらに続けて、「その死霊は男だ」と言って、年恰好やその時の死に様まで見て来たかのようにつぶさに南平は答えた。橋本に間違いないか問うとその通りだというから、実に恐れ入った。
「弟子になりたい」
おれが頼むと、「そちらにあった法をいくつか教えてやろう」と挨拶する。その日は殿村を家へ連れて行き、泊めた。
それから真言について色々教わった。「まずは稲荷を拝め」と言われて、その作法についても学んだ。病人への加持の法又は摩利支天の鑑通の法、修行の術、様々な技を二ヶ月ばかりで残らず教えてくれた。
こちらも学ばせてもらったので、色々と謝礼をした。南平は粗末ななりをしていたので、そんな入用も取り計らって、一年半年ばかりに四、五十両はかけた。
南平にはおれの他にも本所に大勢の弟子ができて、しまいには弥勒寺前の小倉主税という人の屋敷に住むようになった。
南平は日々病人などに加持祈祷を行い、御番入りの祈祷やその他の色々と周囲より頼られるようになっていた。
それでもおれが始めて見出してくれたと恩を思い、おれのことは色々と骨折ってくれたよ。
【注釈】
注1 … 仏教の守護神の一人、妙見菩薩を祀ったお堂。妙見菩薩は北極星の神格化。
注2 … 両部神道。真言系の仏教から発生した神道で、密教の胎動界と金剛界に神道を位置付けて解釈する。




