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[現代語訳]夢酔独言  作者: 雪邑基
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再び小林隼太のこと

 越後を巡ってから帰ると、近藤弥之助の内弟子だった小林隼太が男谷の道場(注1)に流派替えをしていた。

 稽古に精を出しているらしいが、どうにも生来の暴れ者の気質は抜けぬ。みんなが小林の気質を怖がりすぐに謝るから、相弟子共を馬鹿にしているということだ。

 その話がおれの耳に届いたので、それならば小林隼太めに目にもの見せてやると思っていたのだが、丁度その頃長い風邪をわずらってしまったので、そのままにしておいた。


 しばらくして、少し気分がいいからと男谷の寒稽古に出ることにした。そこに小林も来ていて、「勝殿、一本稽古願いたい」などとぬかしよる。

「見ての通り、長い風邪をひいて月代も剃れずにいる位だからなぁ。まぁしかし、折角だから一本やりましょう」

 おれはそう言って、勝負を受けることにした。

 まず二本は続けておれが先取した。すると三本目、小林が恥もなく組み付いてきた。ならばと腰車で投げ飛ばし、仰向けになった小林の腹を足で押さえて、喉を突いてやった。


「侍を土足で踏んで、ただで済むと思っているのか!」

 三本とも取られた小林は、面をとっておれに怒りをぶつけた。

「これはあなた様らしくもない言葉だな。最初の立会いで、未熟ゆえに差図をくれと申したのはそちらであろうが。侍の組討で勝つというのはこういうものだと示しただけだ。言い分はあるまい?」

 おれがこう諭すと、「ごもっとも。一言もありません」と言いおった。


 この話には続きがある。

 打ち据えられたことに納得できない小林は、おれを闇討ちしようと付け狙ったのだ。

 おれだって人だ、四六時中油断なくしておるなどできない。そんな時々ある油断を見つけ、夜道の闇に紛れて切りつけてきおった。その時は羽織なぞを少し切られたが、傷をつけられることはなかった。

 それからも色々としてきおったが、おれもその魂胆に気づいていたから大事にはならん。

 年の暮れに金を借りようと、おれが親類の所へ行った時のこと。道の横丁から小林が現れた。どうやら酒を食らっていたらしく、その勢いでおれが通るといきなり鼻の先へ刀を抜いた。


 まだ昼だから、往来の人も見ている。その時おれはわざと懐手にして、剣も拳も抜かなんだ。

「白昼に、そんななまくら刀を抜いてどうする?」

「刀を買いましたが、自分は目利きができない。切れるか切れぬか見てくれないか」

 問うおれに、小林がそう言った。

 そうからならばと刀をよく見て、「骨くらいは切れるだろう」と言ってやる。すると小林は刀を鞘に納め、それ以上何もなく別れた。

 人が大勢立ち止まって、おれたちの様子を見ていた。野次馬というのは、実に呑気なものだ。


 十八の年に、所帯でもって兄貴の庭へ普請した家に引っ越した。

 その時、三百文ばかりの借金の証文と家を建てた代金を、兄貴が新築祝いに払ってくれた。親父からは家財道具を一通りもらったから、借金がなくなって嬉しかった。

 しかし色々と縁のある者を居候にするというのが続き、幾らも居候を置くとなれば入りようになる。じきに借金が出来たよ。


【注釈】

注1 … 狸穴(現在の麻布)に男谷精一郎が開いた道場。


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