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[現代語訳]夢酔独言  作者: 雪邑基
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鞠子の賭場

 与力夫妻は良くしてくれたが、おれの腹の内には思う所があった。こんな所で辛抱していてもどうにもならないから、上方へ行って公家の侍にでもなる方が良かろう。

 そう思って、貰った単物も帯も寝床へたたんで置いて、襦袢だけの姿で与力の家を逃げ出した。安倍川の向こうの地蔵堂で、その晩は寝た。

 翌日、夜の明けない内に起きて、あてもなく上方へと逃げた。しかし銭はなく、食う物もない。

 飛び出して三日ほどはひどく困ったが、それからはまた一文ずつ人から施しを受け、宇都宮の地蔵堂で二晩寝た。

 この夜の五つ(注1)時分、堂の縁側にどんという音がする。その音で目を覚まし、人のいる様子なので咳払いをすると、

「そこで寝ているのは誰だ?」

 と音を立てたその人が言う。

「伊勢参りが宿を借りているだけだ」

 おれがそう言うと、

「おれはこれからこの先の宿へ博打をしにいくんだが、銭を運ぶ手伝いが欲しかった所だ。丁度いいから、お前、担いで行け。御伊勢様の御賽銭を駄賃にやるから」と言いおる。

 そういうことならと起きてその銭を担いで行くと、確か鞠子の宿場の入口あたりだったと思うが、そこにあった普請小屋(注2)にそいつが入った。

 おれが続いて入ると、三十人ばかりが車座になっていて、一様におれの顔を見てきた。

「なんでここに乞食が入ってきているんだ?」

 親方らしいやつがそう言うと、おれに銭運びをさせたやつが、

「こいつは伊勢参りだから、縁起がいいだろうとおれが連れてきた」と答えた。

「そんならお前は飯でも食って待ってろ。今にお伊勢様への御初穂(注3)をやるから」

 と言われて、飯や酒をたくさん振舞ってくれた。


 少し過ぎて、おれを連れてきた人が三百文ばかり紙に巻いてくれた。他の者たちも、五十、百、二十四、十二文と各々包んでくれる。結局、合計で九百文ばかりになったろうか。

「早く地蔵様の所へ戻って寝ろ」

 みんながそう言うものだから、礼を言って小屋を出る。すると一人が呼び止めて、大きなおむすびを三つくれた。


 その日は嬉しくて、また道を半道(注4)ばかり戻って、地蔵へ賽銭をやってから寝た。

 それからはまたふらふらと一文ずつ貰って進む乞食旅。四日市まで行くと、そこで前に龍太夫のことを教えてくれた男に会った。その時の礼だと言って百文ばかりやると、そいつは喜んで、

「久しく飯を腹一杯食っていなかったな。一緒に飯を食おうぜ」

 と誘ってくる。二人して飯を買い、松原に寝転んでそれを食った。


 別れてからお互いに色々な目にあったと話し合い、その日は一緒に松原で寝た。ついたりはなれたりと、乞食の交わりとは不思議なものだ。


【注釈】

注1 … 午後八時頃。

注2 … 地域住民が寄り合う集会所。

注3 … 本来は神前に捧げる初物の収穫物のことであるが、御初穂料として金銭を納めることもできた。この場合はお小遣いの意。

注4 … 約2km。


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