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誰そ彼ロジック  作者: casca
Gals×Calling 前編
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9/15

第8話 既知の怪異

 弘人が口にした現実は、正直勘弁してもらいたいものだった。


 序盤でいきなり不具合だらけのラスボスと対面させられたような、やるせない絶望感。やるかたない世の中の不条理。

 だが、これはゲームじゃない。理不尽でも生き残るしかないブラックなサバイバルだ。


「そういうのに詳しい先輩から聞いた話、どうも最近になってやたらと噂が増えたらしくてさ。俺が調べた去年の夏ごろに比べて、内容もずいぶん様変わりしてるっぽいんだよ」


「増えた? 七不思議なのに?」


「あぁ。だからもう七不思議ってか、事件やら問題を面白おかしくでっち上げた、ただの学園怪談だな」


「まぁ、イマドキ伝統なんて虫の息ですしねー。若者の自己顕示欲と相性悪いですから」


 虫の息。今日もどこかで、ひっそりと死に絶えていく、『古き良き』と呼ばれていた何か。重んじられていたものが現代では軽んじられ、塗り替えられていく。それが時代の趨勢だとしても、汐遠の言葉には一抹の哀愁があった。


「七不思議なんて、語り継ぐべきかどうかは疑問だろ。むしろいらないまであるわ。なんで増やすんだよ意味わかんねぇ」


 こと怖いものに対しては、完璧なまでに否定的な弘人は、大層ご立腹なようだ。


「旧校舎だけじゃなく新校舎に体育館、校庭まで怪談だらけだぞ」


「冗談だと言ってくれ……節操がないにもほどがある」


 眩暈がしてきた。

 なんだそれは。そんなの、学園内に安全な場所がないじゃないか。


「例えば、どんな話があるんですか?」


「当たり障りないやつだと『六月の謎スイカ』とか『素敵な自販機』だな。校庭の隅に毎年六月になると現れる、断面が血のように赤いスイカ」


「やばっ!……ホントに怖くもなんともないですね」


 汐遠がネタの寒さに身震いする。僕も同感だ。


「まあ、スイカは実話なんだけどな。人知れず用務員さんが育ててただけで、内緒にしろって俺たちがご馳走になったってオチだが」


「美味かったな、あのスイカ」


「囮先輩。命の危険、あります?」


 汐遠から冷たい視線が飛んでくる。


「実際のとこ、大半はこんな感じだぜ? 『新校舎の青空教室』なんて話に至っては、優しく相談にまで乗ってもらえるそうだ」


 調査……必要なんだろうか?


「でも――ヤバそうな噂もちゃんとある」


 おちゃらけた雰囲気から一変、弘人が真面目な顔になった。


「しかもヤバい噂だけで七つを超えてる。ただ、すまんけどどれが定着した『本物』かは分かんねぇ」


「……それで構わない、教えてくれ」


「ちょっと待ってな。全部メモってあるから」


 そう言いながら弘人は、ポケットからメモ帳を取り出した。肌見放さず持ち歩いているらしいところから、弘人の本気が窺える。よほど関わりたくないのだろう。


「いくつか最新の話に更新できてないのもあるが……ヤバそうな噂の代表格は『旧校舎の窓から手を振る女子生徒』。あと『更衣室のと(・)う(・)さ(・)つ(・)魔』だ」


「は? 盗撮魔?」


 汐遠が冷ややかな声を漏らす。女子として、その名称は聞き逃せないのかもしれない。


「それってただの犯罪者じゃないですか」


「字が違うのよ。盗み撮るんじゃなくて、盗んで殺す。まず一人で更衣室に入るだろ? んで、全裸になると殺されて、服を盗まれる。だから盗殺魔」


「うわ、それなんか最近の噂っぽい。名前の付け方が変に小賢しくてキモいし。考えたヤツ絶対根暗ですね」


「囮ー、この子案外口悪いぞー」


「気づいたか。僕はとっくに知ってたよ」


 これは……心配する必要はない、か?

 条件が明確で、しかも状況が特殊すぎる。水泳部でもない限り、更衣室で全裸になることなんてないだろう。


「三つ目は『下駄箱の赤い長靴』。雨の日に旧校舎の下駄箱から長靴が消えて、黄色いレインコートのバケモンが徘徊する。そいつに見つかった生徒は行方不明だ」


 あぁ、不味い。最も危惧していた、『自由に動ける怪異』だ。雨の日という条件があるにしても、危険度がまるで違う。優先して確認するべきかもしれない。


「四つ目は『体育倉庫の熱血キャプテン』。それから『異世界校舎』に『理科室の横取り人体模型』……んで、七つ目が『飛び降り自殺の叶恵さん』だ」


 叶恵さん――その名に僕の眉が跳ねる。


「あ。七つ目、あたしも聞いたことあるかも。どんな話でしたっけ?」


「昔イジメられた女子生徒が屋上から飛び降りて、そっから校舎内を彷徨うようになった。彼女を目撃すると、道連れにされるヤバいやつらしい」


 それは誤解だ。

 見当違いな噂の言われようである。僕の知る彼女は、そんな理不尽な害をなす怪異ではない。だって彼女はむしろ――――


「あ――――」


 汐遠が目を見開き、小さく声を漏らす。彼女の視線は、弘人の隣の空席に向けられていた。


「ほうほう。私のお話ですか?」


 呑気な声とともに、彼女はそこにいた。はじめからそこに座っていたかのように溶け込んで。

 僕らと同じ制服だが、着ているのは三年生を表す赤ネクタイの冬服。黒髪のボブカットに、整った知的な顔立ちの綺麗な女性。

 惜しいのはただ一点。

 頭からダラダラと血を流し、顔の半分を真っ赤に染めてさえいなければ、普通の先輩に見えたのに。


「え? なに? なんなの二人して?」


 僕らの視線に気づいた弘人が一人で怯え始める。


「……囮先輩」


「彼女は汐遠にも視えるんだな」


 彼女こそ旧校舎の少女と同じく、僕が確認するまでもない既知の七不思議の一つ。


 ――――『飛び降り自殺の叶恵さん』である。


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