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誰そ彼ロジック  作者: casca
Gals×Calling 前編
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第7話 前提崩壊

 僕は影守さんの姿に、すっかり目を奪われていた。


 目の焦点が彼女だけに絞られ、被写界深度の浅いレンズに変わる。霞んだ背景は光を孕んで輝き、見慣れた廊下が別世界のようだ。


「相変わらず美人だな。せっかくだし、話しかけてみようぜ」


「え? おい、弘人! おまっマジか!?」


 固まる僕を置いて、あろうことか本当に話しかけに行く弘人を慌てて追いかける。


「おはよー。冴夜ちゃん久しぶり。どしたん? 体調でも崩してた?」


 まるで普通の友人のように話しかける弘人に、僕は馬鹿みたいに焦っていた。僕は当然として、弘人も彼女と話したことなど一度もないはずだからだ。

 影守さんとは一年から同じクラスだが、彼女は誰とも親しく話さない。

 一年前、圧倒的な容姿で話題をかっさらって以来、いつも一人だった。

 アプローチした生徒は男女問わずすべて撃沈。「諦める」のではなく「逃げ去る」羽目になる。それが彼女との会話なのだ。

 そんな彼女にいきなり話しかけるとか、コイツはなんて恐ろしい真似を――。


「おはよう繁定君。病気じゃないわ。家の都合で少し休んでいただけだから」


「影守さんが普通に喋った!?」


「……囮、お前」


「あ――」


 最悪だ……穴を掘ってそのまま生き埋めになりたいほどの失態。


「…………」


 影守さんは何も言わず、じっと僕をみつめている。

 引いているのか、怒っているのか。けれど――その感覚には不思議な既視感があった。最近、ふとした瞬間に感じる視線と、全く同じ気配。


(まさか、影守さんが僕を見ていた?  いったい何のために――)


「――家隠君」


「はい!?」


 素っ頓狂な声を上げる僕を、弘人が冷ややかな目で見ていた。

 もうダメだ。いますぐそこの窓から飛び降りてしまいたい。


「単刀直入に聞くけれど、貴方――――」


 極めて重要そうな響きを持った彼女の言葉。だが、その続きを聞くことは出来なかった。運悪く、担任が影守さんを呼びに来てしまったのだ。


「……なぁ、いま影守さん、なんて言おうとしてたのかな?」


「さぁな。囮がおかしな反応しまくるから引かれたんじゃね」


 職員室へ向かう彼女の後姿を見送りながら、僕らは身のない会話をして席に着いた。

 あの時、影守さんを呼び止めるべきだったのかもしれない。でも、彼女の青い瞳に宿った冷たく剣呑な光――あれはただのクラスメイトに向ける目じゃなかった。なぜ僕をあんな風に見ていたんだろう。

 


◇◆◇


 結局、影守さんは戻らないまま午前が終わり、僕らは昼休みの食堂へ。


「お? 今日の日替わり生姜焼きじゃん。俺、好きなんだよね」


「じゃあ日替わりの大盛りにするか?」


「おう。味噌ラーメンの大盛りな。チャーシューも追加で」


「やっぱラーメンじゃん」


 食券を渡し、割烹着のおばちゃんから料理を受け取ろうとした時――カウンター下の壁に目が留まった。


(……なんだろ? 何か、変な模様が……落書き?)


 紫色のクレヨンで描かれたような、幾重もの円と謎の筆記体。


「どうかしたかい? ご飯足してあげようか?」


「あ、大丈夫です!」


 慌てて受け取り、もう一度目をやると、壁の模様は綺麗さっぱり消えていた。

 見間違い……だろうか。


「おーい、囮、こっちこっち」


 釈然としない違和感を抱えたまま、窓際の席に着く。賑やかな食堂を見渡すと、見覚えのある姿が目に入った。向こうも僕らに気づき、こちらへ歩いてくる。


「こんにちはー。あたしも、お邪魔していいです?」


 汐遠が女子のグループを抜け、僕の隣に腰掛けた。

 彼女の昼飯はたぬき蕎麦らしい。


「俺たちはいいけど、クラスの女子と飯食ってたとこ抜けて大丈夫なのか?」


 気遣う弘人に、汐遠はクスクスと笑う。


「優しいんですね……繁定先輩。もしあたしがイジメられたら、骨は拾ってもらえますか?」


 おかしな言い回しだった。

 使い方的には誤用だと思うけれど。


「おう。そんときは助けるし、仮に不登校になっても毎日会いに行くよ」


「あ、違います。拾ってほしいのはイジメっ子の骨です。物理的に」


「物騒すぎるわ!?  誤用じゃなかったのかよ!」


 僕が突っ込むと、汐遠は嬉しそうに種明かしをした。


「ふふふっ。心配してくれて、ありがとうございます」


「いや、いまは汐遠より周りの女子が心配だわ」


「ひどーい。いいですけどね別に。あたしはあの子たちに頼まれてこっち来たんで」


「ん? そうなん?」


 弘人が訝しげに尋ねる。


「繁定先輩のこと知りたいんですって。知り合いだって言ったら、色々聞いてきてーって追い出されちゃいました」


 遠くの女子グループを見ると、確かにこちらの様子を遠巻きに窺っていた。


「あと、七不思議のことも少しだけ聞いたんで、囮先輩にお話しようかなって」


 その言葉を受け、僕は今朝と春休み明けの出来事をかいつまんで話した。命が危ないかもしれないということも含めて。

 汐遠が聞いてきた話は、残念ながらすでに知っているものだった。


「なるほどな……急に七不思議なんて言い出すから何かと思ったわ」


「囮先輩、そんな目に……でもあたし、学園でそういうの見かけたことないですよ?」


「汐遠が視えてない?」


「はい。七不思議の舞台になってるとこ、いくつか通ったりもしましたけど、何もなかったです」


 嫌な想像が頭を過ぎった。

 僕の体質のせいか、あるいは僕だけが狙われているのか……。


「んで、その七不思議だけど……」


 いつの間にかラーメンを食べ終えていた弘人が、水を一口飲んで口を開く。強張ったその表情に、僕の背筋が伸びた。


「実はウチのコレってさ――――七つじゃないんだよな」


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