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誰そ彼ロジック  作者: casca
Gals×Calling 前編
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2/15

第1話 休日の出遭い

 あれは連休(GW)に入って三日目のこと。

 日頃から――と自分で言うのもどうかと思うが――好かれやすい僕が、初めて人に好かれた休日の話だ。


『もしもし、私――――』


「僕に女子の知り合いはいない」


 開口一番。顔も知らない某《なにがし》さんからの、執拗な迷惑電話を打ち切り、ついでにスマホの電源も落としておく。

 おかげで暇をつぶす手段を失い、飯を買いに出たのが夕方の五時。黄昏色に染まる通りを、近くのスーパーへ向かう道すがら。


 ――どこからか、子供の泣いている声がした。

 顔を向ければ、記憶にもない小さな公園だ。

 声の主は幼い女の子らしい。彼女の隣には、派手で露出の多いお姉さん――いや、お姉さんという表現は訂正しよう。大胆な服装の、僕と同い年くらいの少女が寄り添っていた。

 彼女は幼女の隣にしゃがみ込み、一生懸命宥めようとしている。


 特に珍しくもない普通の光景だ。

 僕にとっては違うというだけの、日常的な風景。

 二人をなんとなしに眺めはしたものの、その時はそれ以上気にすることもなく。「ずいぶん歳の離れた姉妹だな」くらいの印象を最後に、そのまま通り過ぎた。我ながら薄情な感想だと思うが、他人の家庭事情に首を突っ込むほど、僕は暇であっても親切ではない。


 その後、目当ての割引弁当を首尾よく手に入れ、満足して帰る途中。またしても聞こえてきた泣き声に、心なしか早まっていた足が止まる。


 ――どうも、あれから進展はなかったらしい。

 二人はまだ同じ場所に留まり、相変わらず幼女は泣き続けている。それをまた呆と眺めていると、困った様な声が耳に届いた。


「よーしよーし。どしたー? ほーら。お姉ちゃんが手伝ってあげるから、話してごらん?」


「……大変そうだな」


 浮かんだのは自分でもどうかと思うくらいの、他人事極まりない感想。まあ、実際に他人事なのだから間違ってはいない。


 だが、幼女をしばし眺めて、僕の身体は戦慄した。

 肌をぴりぴりと刺激する、些細な違和感。

 現実と整合性の取れない事象を知覚して、脳がエラーを吐き出している。なぜ最初に気づかなかったのだろう。


 幼女の身体越しに、背後の遊具がうっすらと透けて見えていた。

 彼女は人間じゃなかったのだ。けれど、僕が慄いたのはそこじゃない。そんな『怪異』はとっくの昔に見慣れたものだ。いまでは道端で小銭を見つけるほどの驚きも感じない。

 つまるところ、僕にとって幼女がどういう存在であるかは、その程度の出来事だった。


 だから問題は隣の女の子だ。

 彼女は幼女に『触れて』、『話しかけている』


「いい子だねー、泣かない泣かない。大丈夫。あたしが一緒にいてあげるから」


 少女は人の良さそうな笑顔を浮かべ、根気よく声をかけ続けている。その周りには、他にも人がいた。

 ベンチで休むサラリーマン。

 遊具で遊ぶ小さな子と、その母親らしき女性。

 みんな冷ややかな目を彼女に向けている。何もない空間に向かって話しかける様は、さぞ不気味に見えるんだろう。

 見られているのは僕じゃない。なのに、過去に自分が浴びてきた同じ視線。その記憶が蘇り、胃が縮こまって逃げ出したい衝動に駆られる。

 あまりにもあり得ない光景だ。

 けど、だからこそ僕の興味関心を強く惹きつけた。


 僕は自覚している。自分が異常であることを。

 普段も人目を気にして、なるべく悟られないように振舞っている。それはひとえに、いま目の前にある光景を作り出すのが怖いからだ。


『普通でいたい。おかしな奴だと嫌われたくない』


 だって僕は正常だから。いまだって毎日ネットや人伝に、この体質を改善できる方法を探している。占い師にも、宗教にも、怪しいサプリの広告にすら縋った。効果があった試しは一度もない。


 それなのに……彼女は何をしているんだろう?


 こんな人目に付く公園で、あんな目立つ見た目をして。周りには他にも人がいるのに。あの恐ろしくてたまらない奇異な目や、忌避する視線を向けられて。それに気付いていないわけがないのに。


「…………」


 弁当の入った袋を握る手に、思わず力が入っていた。唾を飲み込む音がやけにうるさい。視界は色を失くし、彼女たちだけが色彩を残している。


 ――生まれて初めて見かけた、自分以外の視える人。


 それはつまり、お腹が空いていたことも、微かに震える手足も、見ていた動画の気になる続きさえも忘れて――――


 僕が公園へ足を向けるのに、十分な理由だった。

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