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誰そ彼ロジック  作者: casca
Gals×Calling 前編
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14/15

第13話 警告とデート

 聞いたキャプテンの話を要約すると――――


 彼が求める『大切なモノ』とは、身体の一部などではなく。

 特訓に捧げる『青春の時間』だった。


 本来、キャプテンは呼び出した生徒を『徹底的に鍛える』怪異なのだそうだ。マンツーマンで向き合い、メニューを組み、アドバイスをする。いわばコーチやトレーナーのような怪異である。


 それがいつの間にか、身体を奪う悪魔の契約のような話へすり替えられていたという。


「いまはまだ馬鹿言え。なんて笑えるが……俺がいつ噂通りのバケモンになるかは分からん。ここを動けない俺には叶恵くんのように、噂を食い止める術がないからな」


「……なんか。それって、最低な話じゃないですか」


 汐遠の声から感情が消えていた。初めて会った時の、あの凍てつくような顔。酷く不快で、納得のいかない感情が胸を焼く。


「ふっ。おかしなやつらだ。最低も何も、俺たちはそ(・)う(・)い(・)う(・)も(・)の(・)だってのに……二人しておっかねぇ顔しやがって」


「でも、それは本当のキャプテンとも、叶恵さんとも違うじゃないですか!……あたしは、それが許せない」


「ありがとよ。っていうところかね? それとそっちのお前さん、囮って名前だろ? 叶恵くんから聞いてるぞ。怪異を寄せ集める変わった奴がいるってな」


「好きで集めてるわけじゃないです。……キャプテン、何か僕に出来ることがあれば」


「馬鹿野郎。自分の心配をしとけ。特に、旧校舎には近寄るな。昼間だろうと、お前独りでは絶対に行くんじゃない。あそこにいるのは――――正真正銘のバケモンだけだ」


 あの力強い彼が、はっきりと萎縮していた。その姿が恐怖となって僕の心に刻まれる。


 そうして僕らは体育倉庫を後にした。



◇◆◇


 不思議な気分だ。身を守るために調べ始めた怪異。だが今は、怪異よりも人間の方が恐ろしかった。


 無自覚な悪意。噂する生徒たちに悪気はない。『その方が面白いから』と脚色された噂。だが、実体化してしまう怪異にとっては、死の通告に等しい。


「先輩、残りは更衣室だけですけど、行きますか?」


 ――『更衣室の盗殺魔』


 『危険度:中(※死の危険あり。だが、回避は容易)

 場所:更衣室。

 概要:電気を消した更衣室に独りで入り、全裸になると殺されて、衣服を盗まれる怪異だ。


 更衣室自体は俺にも使う機会はあるが、危険はないだろう。単に独りで入らず、脱がなきゃいいだけの話だからな。

 七不思議として噂されてる中じゃ数少ない、『殺される』と明言されているところは、ちょっと気になるが。


 実際に被害にあった話も聞かないし、それどころか更衣室で誰かが亡くなった事実さえ存在しない。

 多分これは、最近七不思議に加わったデマだろう。よって気にしないことにする。以上』


「デマ、らしいですよ? でも、先輩は確認するんですよね」


「そうだな。どのみちもう最終下校時間だし、今日のところはここだけ見て終わろうと思う」


「真面目ですねー。あ〜ぁ。あたしとの放課後デートが終わっちゃいますよ?」


 思わせぶりな言い回し。だが甘いな汐遠。

 僕とて、そう何度も醜態をさらすつもりはない。


「……デートじゃないだろ。学園だし、周りに人だっている」


「そうですか……先輩はそんなふうに思ってたんですね。私は、そのつもりだったのに」


「え――?」


「嘘です」


「畜生!」


 結局、引っかかってしまう単純な男。

 紛れもなく僕は、馬鹿だった。


「そんな嘘ばかりついてると、誤解されても知らないぞ」


「誤解、じゃないかもしれませんよ?」


「もうその手には乗らねぇよ! 僕のピュアな心を弄ぶな」


「ちぇっ。先輩が汚されちゃって、あたしは悲しいです。あたしの好きだった綺麗な先輩は、もう居ないんですね」


「止めて? 分かっててもドキドキするから、普通に好きとか言うの止めて?」


「あはっ。先輩見てると、なんかあたし、母性本能が目覚めそうです」


「それは断じて母性本能なんかじゃない! お前に目覚めてるのは、玩具を見つけた悪戯心だ!」


「愛情表現だと思えば、同じじゃないです?」


「違ぇよ! 見事に別物だよ!」


「じゃあ、どっちが性癖ですか?」


「教えるか!」


「けちー。まぁでも、誤解してくれたらそれはそれで。あたしにとっては都(・)合(・)が(・)良(・)い(・)ん(・)で(・)」


「本性を出すな。そういうのは、ずっと隠しておけ」


 なぜ汐遠はこんなにも余裕があるんだろう。危険は感じないのか。とは思う。だがそのおかげで、キャプテンの話が残した重苦しさは和らいでいた。


 ウチの学園の更衣室は、体育館と新校舎を繋ぐ渡り廊下の途中にある。渡り廊下は中庭を横切る形になっていて、そこに更衣室用の部屋が作られている形だ。


「とはいえ……さすがに女子更衣室に僕が入るわけには行かないよな」


「え? あたしが見て来ればいいじゃないですか」


「いや、この噂は本当だったらヤバいだろ? だから僕が男子の方を見てくる」


「それだと独りになっちゃいません?」


「ドアを開けたまま電気もつけておく。脱ぎもしないし、何かあればすぐ出てくるよ。……今度はついてこないように」


「分かりました。けど、気を付けてくださいね?」


 男子更衣室の鍵を回し、扉を開け放ったまま明かりをつける。

 中には当然、誰もいない。

 

「奥も見てくる」


 外の汐遠に声をかけ、部屋の奥へ進む。


 更衣室は真上から見ると、ちょうど「日」字の形にロッカーが配置された作りだ。向かい合うロッカーの真ん中に、青い長椅子が置かれている。


 仕切りになっているロッカーを抜け、奥側を見渡しても、何かが潜む気配はない。


(本当にデマだったか……)


 肩の力が抜ける。

 キャプテンのように、突然出て来たりもしない。

 そう安堵した瞬間――――、


「きゃあぁぁぁぁっ!」

。

 耳をつんざく汐遠の悲鳴が、扉の外から響き渡った。

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