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第67話:二つの翼(OS)のシンクロニシティ

 ライナスのその絶望のセリフに、いち早く反応を示したのは、すぐ隣でライナスの行く先を切り開いていたアレン様だった。

 カチッと首をライナスへと向けた彼女の双眸には、普段の他人の目が怖くて震えている人見知りな姿はなく、完全に「同族 (オタクエンジニア)」の鋭い光が宿っていた。


「だ、大丈夫です、落ち着いてくださいライナス君! 出力 (パワー)なら……自分、自分に任せてくださいっ!!」


 アレン様は常軌を逸した超早口でまくし立てながら、主駆動輪 (メインコンソール)へと一瞬で指先を滑らせる。


「ヴァルゼリアのシステムと、このマストリアのサーバーは双子……つまり基本のシステム設計はまったく同じものです! ならば、自分が管理する『零鳥 (サンダーバード)』の駆動式を、今ここで君の『梟 (オウル)』の基盤に直接シンクロさせるんです! 潜行 (ステルス)はそのままで、全体の魔力残量が完全に『零 (ゼロ)』になるまで出力を限界突破させて叩き込む──双子のシステムの真骨頂、見せてあげます!!」


(──なっ!? あの時アレン様が早口で自慢してた、あの基盤ごと焼き切りかねない超高負荷OSを、隠密を維持したままここにブチ込む気かよ……っ!?)


 迷っている時間は1秒もない。


「話が早くて助かります、アレン様! 同期 (シンクロ)ポート開けます、駆動式ブチ込んでください!!」


「はいっ!!」


 2人のエンジニアの指先が、同時に主駆動輪の上で爆発的に躍った。

 アレン様の指先から解き放たれた、パチパチと激しい青白い電撃を帯びた魔力の糸が、隠密潜行を続ける『梟』のコアへと滑り込むように強制接続 (プラグイン)される。


 ──『梟 (オウル)』×『零鳥 (サンダーバード)』、緊急完全同期。


 視覚化された中枢世界。

 ライナスの紡いだ青白い魔力糸の『梟』。そのすぐ後ろから、息を潜めるようにして、アレン様の放った雷撃の『雷鳥』がぴったりと追随を開始した。


 二羽の魔導生物が、赤黒いウイルスの包囲網を縫うようにして、超高速で飛翔していく。

 青白く美しい光を放つ梟と、激しい稲妻を秘めた雷鳥。目にも留まらぬ速度でムーブメントの隙間を駆け抜けるその姿は、もはや二羽の鳥ではなく、ただの一条の「光の奔流」そのものだった。


 あまりの圧倒的な速度の前に、ウイルスの自動迎撃システムも二羽の存在を正確に捉えきれず、単なる「地脈の微小なノイズ (エラー)」として処理してしまう。

 潜行を完璧に胡麻化し切ったまま、光と化した二羽の翼は、一瞬でウイルスの最深部へと到達した。


(──今だっ!!!)


 背後から追随していた雷鳥が、溜め込んだすべての限界出力を、前方を飛ぶ梟の翼へと一気に預ける。

 潜行を維持したまま、その内圧だけで膨れ上がった莫大な高出力エネルギーを、梟はウイルスのドス黒い赤壁の内側へと、真正面からダイレクトに流し込んだ。


 ドゴォォォォン!!!


 制御室の床が物理的に揺れるほどの衝撃波。

 内側から完全に不正侵入 (ハッキング)を通されたウイルスの最終プロテクトは、その圧倒的な出力の前にひとたまりもなく粉砕され、書き換えの進捗率が爆速で駆け上がっていく。


 80%……90%……100%──【Complete】。


【──[Success] ウイルスコードの完全上書き (コミット)に成功しました──】


 同時に、制御室の空間に広がり映し出されていた、赤黒く染まり切っていた蜘蛛の巣のような地脈ネットワークが、端から一斉に本来の清らかな青白き光を取り戻していく。

 中央でギチギチと悲鳴を上げていた巨大な『光の歯車』も、ウイルスの魔力糸から完全に解放され、本来の静かでスムーズな回転へと戻った。


「やった! 成功、です!」


「やりきった、よかった……」と、ライナスは小さく息を吐き出した。


 目の前に浮かんだ勝利のログに、制御室中が地鳴りのような歓声に包まれた。ライナスとアレン様も、お互いにプロとしての最高の達成感を胸に、顔を見合わせてハイタッチを──交わそうとした、その時。


 ピロリロリ~ン♪ テンテケテン──


 突如、制御室のスピーカーから、シリアスな戦場にはこれ以上ないほど不釣り合いな、軽快でおふざけ満載のBGMが流れ始めた。

 同時に、ど真ん中に、おぞましいほどに可愛らしい、ド派手なピンク色のポップアップメッセージがドン! と出現する。


『お兄様方、楽しんでいただけましたか? わたくし、他国へお嫁に行く前に、どうしてもお兄様方の鼻をあかして差し上げたかったのですわ! まぁ……構ってほしかっただけというのもあるのですが……、怒らないでくださいね? ふふふ! ──Designed by Miracle』


「「……………………は?」」


 2人の声が綺麗にハモった。

 呆然とくうを見つめるライナスの背後から、アレン様の専属メイドであるカペラが、いつもと変わらぬ淡々とした調子でぼそりと呟いた。


「……『ミラクル』という愛称は。スターリング侯爵家のご令嬢──ミラ様のことのようでございますね。他国へ嫁がれたと記録に残っております」


 その解説を聞いた瞬間、ライナスは目の前の文字とカペラを何度も見比べた。


「じゃあ、ここで言っているお兄様方って双子のご先祖様のこと? え? 妹?……」


 ──国家の危機レベルのウイルスを仕込みやがった犯人が、143年前に基幹魔導核 (メインサーバー)を構築した偉大な双子の、身内のブラコンいかれお嬢様だぁ……?

 天才と何とかは紙一重とはよく言ったものだが、これはいくら何でも紙が薄すぎる。


(……よし、思考停止だ。触らぬ神に祟りなし、これテストに出るぞ、うんうん)


 あまりの脱力感に、ライナスは完全に意気消沈し、近くの椅子へとドサッと力なく座り込んだ。

 ふと隣を見れば、ライナス以上の衝撃を受けていたアレン様が、完全に様子をおかしくしていた。


 心の底からリスペクトしていた偉大なご先祖様の妹の動機が「超弩級のお茶目な悪戯」だったという、これ以上ない破壊力に、人生最大のショックを受けたアレン様の脳内回路は、完全にキャパシティを超過 (オーバーフロー)してしまったのだ。


「……あ、あ、構って、ほしかった……ふふふ……?」


 壊れた玩具のように呟いたまま、目をぐるぐると回して完全に硬直してしまった。その頭上には、まるで『チーン……』という間の抜けた効果音の幻聴が白煙となって立ち上っているかのようだ。


「お、お嬢様!? しっかりしてください、お嬢様!! お気をたしかに──!!」


 青ざめたポルックスが、直立不動でフリーズしたアレン様の肩を掴んで必死に揺さぶる。

 制御室が多種多様な思惑に揺れる中、主駆動輪から出力される空間に浮かぶそのピンク色の文字が、ぐにゃりと歪んでいく……。

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