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第45話:本番全損(フルクラッシュ)と、フクロウの開眼

 王宮の基幹魔導核 (メインサーバー)が放っていた輝きが、一瞬でどす黒い赤色へと染まる。

 百年以上蓄積された遺物 (レガシー)と異常 (バグ)が連鎖反応を起こし、処理能力 (キャパシティ)を完全に超えたのだ。


「警告 (アラート)が止まらない……! まさかこんなことが起きるなんて、マナの奔流(ネットワーク回路図)が応答なし (タイムアウト)!?」


 研究員たちの狼狽する声が飛び交う。

 クロード主任の動揺も凄まじく、彼自身まで機能停止 (フリーズ)しそうな勢いだ。それと同時に、立体的な階層 (レイヤー)ごとに配置された複数の『光の歯車』は今、その光を失いつつあった。耳をつんざく音を立てて次々と噛み合わなくなり、粉々に砕け散っていく。世界から光が、魔力が、急速に失われていく。


「全損 (フルクラッシュ)だ……。我らの聖域が、完全に死んだ……」


 誰もが絶望し、膝を突く。だが、その暗黒の処理空間の中で、ライナスだけは諦めていなかった。彼の指先は、猛烈な速度で主駆動輪 (メインコンソール)から糸を手繰り寄せ、魔力を超高速で編み込み続けている。王宮の基幹魔導核から火花が飛び、ライナスの視界を真っ赤な警告ログが埋め尽くす。


「まだだ……まだパケットは完全には途切れていない……。掴めッ、間に合えッ!!」


 世界が完全に停止する、最後の1秒。ライナスは執念で、崩壊していく世界の構成データの断片を、自身の魔導共有核 (モバイル・ターミナル)へと引っこ抜いた。


 術式陣 (インターフェース)に表示されたのは【バックアップ完了:1.02%】の文字。

 世界を再起動するための、あまりにも小さく、儚い『1%の種火 (ブートローダー)』だった。


 完全に機能停止し、静寂と闇に包まれた研究室。

 ライナスは1%の種火を頼りに、世界の最下層にある、百年以上誰も触れていない古代の魔法陣の基礎 (ソースコード)を手探りで解析し始める。


「何かあるはずだ。先人たちが、ただバグを放置してシステムを作ってるはずない――と思いたい……」


 まさに藁にも縋る思いであるのと同時に、希望的観測でもあった。


 その時、指先がピリッと痺れた。

 魔力の糸が複雑に絡み合う回路の隅に、あまりにも小さく、見落としてしまいそうな「結び目」があった。よく見るとそれは、フォール家の紋章である「フクロウ」の形にも見えた。


「ん? なんか見覚えがあるというかなんというか……なんだろう、この既視感」


 ライナスが意を決し、その結び目に自分の魔力(管理者権限)を流し込む。


 ――その時だった。

 闇の中で、その小さなフクロウの目が、エラーの赤とは違う、綺麗な「安全稼働を示す青色」にカッと見開かれた。


 ライナスの脳内に直接、重厚な音声情報 (ログ)が流れ込んでくる。


『――この領域にアクセスできた、未来の管理者へ。

この情報が読まれているということは、おそらくシステムは本番全損したのだろう。いつか世界は容量オーバーを迎える。

私は未来の危機を見据え、この最下層に『(ふくろう)潜行式(せんこうしき)(隠しOS:監視・復旧プログラム)』を仕込んでおいた。

起動トリガーは、システムへの急激な冷却負荷による排他制御の遅延 (ラグ)、そして我がフォール家の者がアクセスすること。

これを見つけてくれたなら、世界はまだ終わらない。未来の管理者よ、復旧 (リストア)を!――』


(えぇーマジ?『未来の管理者』とか、なに? え? 『我がフォール家』って言ったよね? えぇー……このレガシー、うちのご先祖様が構築したってこと!? 嘘でしょ)


 心の声が漏れ出そうなほどに大きなため息を吐き出し、呆れた。とはいえ、一応感謝はしておくことにする。


「……最高のリリースメモ(遺言)ですよ、ご先祖様」


 ライナスが不敵に微笑む。梟の潜行式(隠しOS)が起動した。世界中の全魔力の配置座標 (アドレス)が、ライナスの視界に青くクリアに展開された。


「ライナス! 大丈夫かい!?」


 魔法陣の淡い光が零れる中、主任が声を張り上げる。


「はい、クロード主任。それより、世界を再起動 (リブート)します。手を貸してください」


 ライナスが展開した青い隠し主駆動輪 (メインコンソール)を見て、主任の目が見開かれる。


「魔導核が全損したのに、なぜ術式陣が動く……!? これは一体何の魔法陣 (コード)だ!」


「ご先祖様が遺してくれた、最下層の『基幹術式(OS)』……フォール家の『梟の潜行式』ですよ。表のシステムが死んだ時だけ起動する、とびきり頑丈な隠し基幹術式です」


「これが、伝承に聞くフォール家の……! 稼働権限 (パーミッション)は生きてるのか!」


(は? 伝承?)


「あっ、はい。ですが、復旧させるための残魔力が足りてません。どこかに引っかかっているはずなんですよね」


「そうか、引っかかって……そうだよ、魔力は消滅してないはずだよ!」主任が手元の術式陣を弾く。


「熱力学の基本だ、これだけの魔力が一瞬で消えるわけがない。負荷に耐えきれず、一時退避領域 (スワップ領域)に押し込められたんじゃないかな」


「それ、座標は特定できますか?」


「それなら任せておいてくれ、この王宮の構造を知り尽くした私だからね!」


 主任は頭脳をフル回転させる。


「……ここだ! 東の回廊の座標『X:774, Y:221』、ここに限界まで圧縮された魔力が眠ってる!」


「了解です! 梟の潜行式の管理者権限で、そこに直通の通信経路 (トンネル)をぶち抜きます!」


 ライナスは手元の魔導共有核から主駆動輪へと、『1%の種火 (ブートローダー)』を移動させ準備を整える。

 激しい雨が打ち付ける窓を背景に、巨大なフクロウの魔法陣が青く浮かび上がる。その幻想的な暗がりの中。


「座標ロック! 3、2、1……全放出 (デプロイ)ッ!!」


 ライナスが1%の種火をトリガーとして撃ち込むと、フクロウの目から放たれた光線が、くうを切り裂いて一時退避領域へと真っ直ぐに突き刺さった――!

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