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第4話:お忍び王子の帰還と、側近カイルの有能な報告

 王城の裏門をこっそりと抜けようとした第一王子アルマは、腕を組んで待ち構えていた側近のカイルに見つかり、盛大なため息をつかれていた。


「……アルマ殿下。また一人で街へ抜け出されたのですね。しかも、献上品である最新の双輪機に乗って」


「うっ……カイル。いや、これはその」


言い訳を探すアルマだったが、側近の小言は右から左へと抜けていった。

今の彼の頭の中は、先ほどの路地裏で出会った「黒髪(からすばいろ)の子供」でいっぱいだったのだ。


(あの歳で、あの高度な魔力回路の修正……それに、私を王族と見抜いた上でのあの不敬な態度……!)


 普通なら怒るところだが、魔法技術に並々ならぬ興味を持つアルマにとって、あの子は「未知の宝」のように輝いて見えた。


「殿下? 聞いておいでですか?」


「あー! わかった、小言は後だ! 私は図書室へ行く!」


「は? 殿下!?」


 カイルを振り切り、アルマは王城の奥深くにある大図書室へと駆け込んだ。



◆◆◆



 重厚な本棚が並ぶ図書室で、アルマは分厚い『王国貴族紋章図鑑』のページを猛スピードでめくっていた。


(あの馬車の扉に刻まれていた紋章……鳥……いや、フクロウだ。歯車を抱いたフクロウの紋章!)


 バサッ、バサッとページをめくる音が響き、やがてアルマの手がピタリと止まる。


『フォール家』


 そこに記されていたのは、ある貴族の名前だった。


(……かつて王国の魔導基盤を支えていた由緒ある家柄だが、時代の変化に取り残され、現在は没落して久しい……か)


「カイル!」


 背後で控えていた側近を振り返り、アルマはビシッと指を差した。


「このフォール家について、現在の家族構成を調べろ! 私より少し年下の、黒髪の男児がいるはずだ」


「没落したとはいえ貴族の戸籍録 (データベース)ですね。すぐに手配いたします」



 図書室から自室へと戻る廊下。


 アルマは腕を組み、「うーむ」と唸りながら歩いていた。


(家は分かった。だが、没落とはいえ貴族の屋敷。突然王族が押しかけては、向こうの当主が警戒するだろう。自然に、かつ強引に上がり込むための口実が必要だ……)



 自室のふかふかなソファに沈み込み、さらに頭を悩ませていると、やがてカイルが香り高い紅茶のセットと共に戻ってきた。


「殿下。お調べしたフォール家の情報をお持ちしました。ご当主には三人のご子息がおられまして、一番下……三男が、先日8歳になったばかりの『ライナス』という少年のようです」


「そうか! ライナスというのか!」


 探していた『宝 (ターゲット)』の名前と情報が完全に一致し、アルマは悪役のように口角を吊り上げた。


「ふぁーっはっはっは! 見つけたぞ、ライナス! お前のその技術、私のものにしてやる!」


「……殿下。品のない笑い声はおやめください。王族としての品格が疑われますよ」


「うっ、うるさいカイル! ……そうだ、口実はこれだ!」


 ポンッと手を叩き、アルマは名案(という名のクソ仕様な要件)を思いつく。


「あいつが何か『大切なものを落とした』ことにして、私がわざわざ届けてやればいいのだ! そうすれば、感謝して私を部屋に招き入れるに違いない!」


(※なお、ライナスの性格を完全に読み違えていることに、王子はまだ気づいていない)


「カイル! 明日の午後、私はお忍びで出かける! 行き先はフォール家だ!」


「……は? 殿下、明日は魔法史の授業が……」


「うるさい、これも立派な国の魔導技術調査だ! 準備をしておけ!」


かくして、身元を特定された没落貴族の三男(中身は34歳SRE)の元へ、超絶迷惑な「王子の突撃デプロイ」が実行されることになったのである。


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