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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
七章 二人の年末年始

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第193話 古都巡り

「本当に久しぶりです、紗江さん。元気でしたか?」

「はい。お嬢様もお元気そうで、本当に安心しました。それに……前よりずっと明るくおなりで」

「そ、そう……ですか?」

「私が最後にお会いしたのは、もう二年前ですから。その時とは比較になりませんよ」


 二年前。

 白雪が和樹への好意を自覚した時だ。

 確かに、あの時以降白雪は京都に帰っていなかった。

 今にして思えば高校生の身で、結構無茶なことをしたものだ。


「あの男性が、お嬢様がお好きな方なのですね」

「う……えと、は、い」

「あの、もしかして隠しているおつもりでした?」

「自分では……一応」

「むしろなぜ付き合ってないのかと思いますが」


 白雪は文字通りぐうの音も出ない。


「私はあの方は初めて見ましたが、誠実そうな方と思いましたが。それに、定哉さまが気に入られているようですし」

「そう……なのですか?」

「ええ。あの方はご自分が認めた方でなければ、このようにご招待しませんよ」


 ということは、少なくとも祖父定哉は和樹を気に入ってくれているということか。

 和樹に対する好意は定哉にはすでに話してしまっているし、別に反対されても気にするつもりなど欠片もないが、それでもそのように評価してくれているのであればそれはとても嬉しく思う。


「お部屋はこちらです、お嬢様。私と同室で恐縮ですが……」

「それはむしろ嬉しいくらいです……が。分かってはいましたが、凄いですね」


 案内された部屋は、おそらくその広さだけで今の家とそう変わらない。

 むしろキッチンなどがない分広く感じる。

 ベッドルームとリビングがあり、リビングの窓からは桂川と嵐山が見えた。

 さらに温泉風呂付である。


「私も正直、これほどとは思わなくて、今でもいいのかと思ってしまいます」

「いいのですよ。おじい様のご厚意に甘えましょう」


 白雪はこの宿が一泊いくらかとか考えるのは、早々にやめた。

 実際、豪華さだけに限るなら、玖条家本邸も大概だ。


「それより、今日はどういう予定なのでしょう?」

「あ、はい。定哉様がお嬢様と月下様を京都をご案内するとおっしゃってました。十一時に宿の入口に来てくれるようにと……」

「え。あ、すぐでは!?」


 時間は十一時すぐ前である。


「ちょ、それは早く言って下さいっ」

「す、すみませんお嬢様」


 間に合わないわけではないが、いつも時間の余裕を持つ白雪としてはギリギリというのはそれだけで焦りが生じてしまう。


 慌てて部屋を飛び出した白雪は半ば駆けるように宿のエントランスに向かうのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ホントに見事に金色なんですね……」


 白雪は水辺の向こうに見える金色の建物――金閣寺を見て唖然としていた。

 もちろん写真などで見たことはある。

 ただ、ここまで本当にきれいに金色だとは思いもしなかったというのが本音だ。

 むしろ、写真よりさらに現実感がないと思えるほどだ。

 その感想は和樹も同じらしく、スマホで写真を撮りつつ唖然としていた。


 観光はさすがに正月二日目で混雑する時分でもあるということで、本当に超有名どころだけ巡るルートになっていた。

 案内それ自体はさすがに定哉が担当するわけではなく、ここまで送ってきてくれた運転手――あとで知ったが達臣の部下らしい――が移動は担当してくれたが、あとは二人でのんびりしてくれていいとのことだった。

 定哉は今日の昼は用事があるらしい。

 また、紗江は今日は白雪と一緒の部屋に停泊するが、今日は母親と出かける予定で、その前に先に白雪に挨拶だけしたくて宿で待っていたという。


 最初にすぐ近くにあった渡月橋を渡って、その先で定哉が予約してくれていた店で二人で食事をした。

 その後は車で移動してまず行ったのが鹿苑寺――通称金閣寺である。


「すごいな……本当に。しかしさすがに観光客が多いな、はぐれないようにな」

「はい」


 その名目は白雪的には大歓迎なので、遠慮なく和樹の手を取る。

 とはいえ実際、人は本当に多いのではぐれないかという心配はリアルにあった。


「もっともこの建物自体は確か戦後に建て直されたんだっけ?」

「そうらしいですね。でもそれで、元通りにしてしまったのは凄いと思います」

「全くだ。そもそもこれを造ろうとした人がまず凄いというかデタラメというか」


 そこに関しては白雪も同意だ。

 いくら資金があっても、寺の外観を金で飾るなど普通考えないだろう。


「でも本当に……見る分には凄いですね」

「まったくだ。ま、そのおかげで後世の俺たちが楽しめるわけだが」


 白雪は京都に何年も住んでいたが、これに来てなかったのは少しだけもったいなかったと思いつつ、和樹と一緒にこれを初めて体験できたのはそれはそれで嬉しく思えた。

 いつかこの経験をお互い思い出すことが出来ると、なお嬉しいが。


 その後、二条城、京都御所、清水寺、銀閣寺と巡っていった。

 定番のもう一つである平安神宮はさすがに初詣客がまだあまりに多いため、白雪も和樹もその人だかりを見て回れ右してしまったというのもある。

 おそらくまともに見れないし、見ていたら時間が無くなるとも思えたのだ。


 それでも六時間ほごかけて巡り終えて、宿に戻ってきたのは午後五時を過ぎていた。


「なんか一気に京都巡った気がするよ。楽しかったが」

「はい。私もとても楽しかったです。ずっと住んでいた街だったはずなのですけど、初めての事ばかりでした」


 とりあえず帰ってから美雪や孝之にも報告はしてみようとは思う。


「それに結構歩いたしな……疲れたといえば疲れたが、白雪は大丈夫か?」

「えっと……ちょっと疲れ気味ですね。お腹もすきましたし」


 宿に戻って予定を確認すると、定哉が午後七時過ぎに定哉が来るらしいので、そこで宿で食事の予定らしい。

 とりあえずそれまでは部屋で休む――というより、温泉に入ることにして、和樹とは一度別れる。

 部屋に戻ると、紗江がすでに戻ってきていた。


「紗江さん、もう戻られていたのですね」

「お帰りなさい、お嬢様。デートは楽しめましたか?」

「で、デートでは……」

「それはどう見ても無理があるかとは」


 それは白雪も分かっている。和樹の認識でも、家族とのデートくらいの認識にはなっているだろう。

 ただ、お互いの持つ意味はかなり違うが。


「そ、それよりお母さまは大丈夫なのですか? 退院して……もう九カ月ほど経つはずですが」

「強引に話を変えましたね、お嬢様。母は順調です。ただ、今度の三月で問題なければ松山に引っ越すことになりました。それで、私も玖条家の仕事を辞することになりまして」

「松山? 愛媛県の?」

「はい。母の故郷なのですが、あちらに母の主治医だった方が行くことになって。今もずっと経過を診ていただいているのですが、そういうことなら都合がいいだろうと。私もすでに、あちらでの仕事も見つけておりまして。それで辞めることをお話したら、定哉さまから突然話があって、このような仕儀に」


 つまり白雪はそれ以後、紗江とはそう簡単に会えなくなるということになる。それならその前に、というつもりだったのだろう。


「おじい様に感謝ですね。松山はさすがに簡単に行けないですし」


 少し思い返してみるが、四国地方は新幹線などがないので関東から行くのはかなり大変だ。

 距離もあるので飛行機の方がいいくらいだろう。


「でも、いつか松山にもいらしてください。道後温泉とかはいいですよ。ぜひ月下様とご一緒に」

「う……それは、行ければ、ですが」

「大丈夫。少なくとも私の目から見れば、月下様もお嬢様のことを大切に思ってらっしゃるのは確かです」

「そこは……疑ってないのですが」


 ただ問題は、どういう意味でそう思っているか、だ。

 さすがにあの事情を紗江に話す気にはなれない。


「そ、それより紗江さんは……この先どう……あ、松山に行かれるのですよね」

「そうですね。私ももう三十二ですし、そろそろ母を安心させたいというのもあるのですが」


 ふとその言葉に、白雪は天啓を得たようにひらめいた。

 子供の頃からずっと一緒にいてくれた紗江だからこそ、気付けたというか。


「紗江さん。結婚式には呼んでくださいね」

「ちょ、お嬢様!?」

「どなたか良い方がいらっしゃるのでしょう? ……あ。ん? もしかして……松山に行くって……」

「ち、違わないというか違うというか。……お嬢様、いつからそんなに鋭く」

「私だっていつまでも子供じゃないんですから」


 そうして問い詰めたところによると、紗江の母の主治医が松山に行くわけだが、その息子で看護師でもある人物が紗江と付き合っているらしい。

 そしてこれは偶然だが、主治医の故郷も松山らしく、それで転属を受け入れたとか。


「運命ですねぇ、うんうん」

「なんかお嬢様、変わられましたね、本当に」

「そりゃあ色々……ありましたから」


 一人暮らしをして、雪奈や佳織に出会って。そして和樹に恋をして。

 それからも多くの出会いと体験があった。

 そのすべてが、今の白雪を作り上げてきている。

 一度は絶望し、全てを投げ出そうとすらしてしまったが、今では、本当にあの時最悪の結果にならなくて良かったと思う。

 同時に、もう絶対にあのようなことはしないし、したくない。

 何よりそれが、和樹を悲しませると分かっている。


「お嬢様?」

「あ、いえ。ともかく、結婚式には呼んでくださいね、紗江さん」

「……それは私も反撃してもいいんですか?」


 しかしその紗江の言葉は白雪の予想の範囲内で。


「ええもちろん。絶対お呼びします」


 すると紗江は本当に嬉しそうに微笑んだ。


「本当に――いいお顔をするようになられましたね、お嬢様」

「でもそれは、紗江さんもです。お互い、いい出会いが出来たこと、それが分かったことが本当に嬉しいです」


 そう言ってから、白雪はふと時計を見る。

 時刻は午後六時前。まだ夕食までは時間がある。


「一緒に温泉入りましょう、紗江さん。相手の方のこと、もう少し詳しくお聞きしたいです」

「それは……」

「和樹さんのことは見てくださいなので、今回は私の攻撃フェーズです。覚悟してくださいね」

「……本当に変わられましたね、お嬢様」


 その言葉に、白雪はとても楽しそうに微笑むのだった。


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