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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
七章 二人の年末年始

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第189話 思わぬ年始予定

 年の瀬も近づき、いよいよ今年が終わろうとしてる時期。

 大学も年末という雰囲気になっていて、帰省する人などもいるらしい。もちろん、美雪は孝之と一緒に実家に帰るようだ。


「白雪ちゃんは……さすがに帰らないか」

「むしろ帰れないですね。事実上勘当されてますし」

「うん、まあそうだけど……実際あの玖条のオジサマの気持ちはどうなのかなぁ、とは思うけど」


 それについては白雪も少しだけ思わなくはない。

 以前は考えもしなかったが。

 両親が亡くなった直後に初めて会った伯父は、父と年齢があまりに違うのもあって正直怖かった。

 あまり似ていると思わなかったのもある。


 引き取られたとはいえ養子縁組をしたわけではなく、あくまで弟の子を預かったという体《てい》で、実際あの貫之を親と思ったことはなかったと思う。

 ただ、それでも白雪が育つためのものは過不足なく、というより必要以上に揃えてくれた。

 ありとあらゆる習い事などをやらされていたが、どれも白雪がわずかに興味を持った直後にそれが提示されていたように思う。

 白雪としてはそれができるようにならなければ玖条家にいられないのかと思って必死に修得したが、本当のところはどうだったのかは聞いたことがない。


 ただ、白雪はどうやら非常に要領が良かったのか、自惚れていいなら才能に恵まれたか、ほとんどのことを水準以上に修得できるだけの能力があった。

 あるいは、それをこなすことで貫之と家族としての絆を築けると思っていたのかもしれない。


 ただ、中学の頃にはそんなことは無駄だと理解したが、その頃になるともうそういう『できる子』でいることをやめることが出来なくなっていた。

 そして伯父の言われるままの娘を演じて、限界だと思ったから高校は実家を離れたのだ。

 その後にこんなことになるとは夢にも思わなかったが。


 ただ、今にして思えば白雪が思い描くような伯父なら、高校でいくら紗江が口添えしてくれたからと言って、一人暮らしを許してくれたかというと――ありえない気がする。


 こんな風に考えるのも、夏に彼の妻である和佳奈に会ったからだろう。

 実際、よく考えてみなくても、ちゃんと伯父と正面から話し合ったことは、一度もない。

 相手にしてもらえないと諦めていた。

 伯父の言うことに逆らったことなど、あの十色泰の結婚を承諾させられそうになったあの一度しかない。


(ちゃんと話した方が……いいのでしょうけど)


 十年以上もこの距離感が続いているので今更と思う一方、十年前の白雪は間違いなく子供だったが、今の白雪は法的には成人だ。

 成人になった今だからこそ話し合えるのではないかという気はするが、かといってその機会を作るとなるとまた難しい。


「ま、すぐには無理だよね。とりあえず京都土産は期待していいよ。何がいい?」

「うーん。そうですね。お茶とか?」


 こちらでも買うことができるが、やはり本場の方がいいとは思う。特に春日家は確かお茶の卸業を営んでいたはずだ。


「りょーかいー。じゃあまた、新年にね」

「はい。よいお年を」


 マンションに入っていく美雪を見送ると、白雪も自分の家に帰る。

 エントランスを通るためにスマホを取り出すと、マンション管理アプリから何か通知が来ていた。

 これは、郵便物が届いた際の通知だ。

 それも普通の郵便ではなく、特定の人間に対して鍵付きのボックスに入れる方。これに投函することで、書留を不在状態でも受け取ることができる。投函した証明書が発行される仕組みだ。


 普通に考えれば和樹宛だろうが、今日は和樹は帰ってくるのは夕方過ぎ。

 白雪もこの後夕食の買い出しに行く予定ではあるのだが、先に受け取ることにしてボックスを開いて手紙を取り出す。


「差出人は……おじいさま?」


 予想外なことに自分宛だった。

 差出人は玖条定哉とある。

 見事な筆致で書かれた封筒だ。

 もちろん京都から発送されたものである。


 なんだろうと思いつついったん家に戻り、荷物を置いてから封筒を開いて中身を確認する。

 そこに入っていたものに、白雪は少なからず驚き、目を丸くしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ただいま」

「あ、お帰りなさい、和樹さん」


 時刻は午後七時過ぎに和樹が帰ってきた。ほぼ予定通りだ。

 最近は寒いのもあって、和樹は食事より先にお風呂に入るので、それも準備済みである。

 ちなみに白雪は食後にお風呂に入ることが多い。


「お疲れ様です。お風呂沸いてますよ」

「ありがとう。しかしもうすっかり年の瀬だな……」

「そういえば、和樹さんも休みは学生とほぼ同じなんですか?」


 白雪たち学生は二十五日から休みに入る。休みの翌日の二十六日から翌年一月いつかまでは大学の窓口も閉鎖されると聞いている。

 ただ、大学が全部閉鎖されるわけではないので、和樹たちはまたスケジュールが違うと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。


「夏は日をずらすこともあるけど、年末年始は誰もが一緒だからな。教授の方針で、基本大学閉鎖中は休みだ。二十五日は仕事だが、そこまでだな」


 クリスマスまでは仕事らしい。どうせならと思わなくはないが、今年は二十四日が火曜日と、だいぶ社会人泣かせのカレンダーである。

 なので――。


「明後日の土曜日は大丈夫ですか?」

「土曜日? ああ、誠たちのあれか」

「はい」


 今年のクリスマスの日程が微妙なので、数日早く誠たちとクリスマスパーティを行うことになっているのだ。今年はついに卯月家で行うことになっている。

 これは、もうすぐ一歳になる卯月家の長女愛那(まな)を連れて出歩くのは大変なのが理由だ。


「今頃卯月家はクリスマス色一色でしょうね」

「だろうなぁ。まあどの程度理解できてるかは分からないが、それでも楽しいだろうし」


 さすがに白雪も一歳の記憶などもちろんない。

 だが、よくその位の子供がクリスマスの飾りを見てはしゃいでいるのは街でも見かける。

 話によるともう歩き始めているらしいので、さぞ大変そうだ。


「あとそういえば、ちょっと先の話なのですが……」


 白雪はそう言って、帰りに受け取った封筒を取り出す。

 その差出人を見て、和樹が不思議そうな顔になった。


「玖条家から?」

「はい。その……こんなものが」


 取り出したのは、ある旅館のパンフレット、それに新幹線のチケットと、それに手紙だ。

 ただし、手紙と言っても非常に短い。


『白雪へ


  同封した宿を予約させてもらっている。

  京都に来たくないというかもしれないが、来てくれると嬉しい。

  もちろん、月下殿も一緒に来てほしい。

  宇喜多殿が一緒に来てくれることになっている。


  定哉』


「これは……?」

「これ自体はあっちではそれなりに有名な温泉旅館ですが……日程はこの通りで」


 指定されたのは一月二日から三日。

 新幹線は二日早朝のもので、要するに温泉旅館への招待状である。


「年末年始は特に予定はなかったのですが……」


 和樹は今年は年始は帰省せず、家で過ごす予定だった。一応、翌週の連休で実家にはいく予定になっている。

 今年は去年同様、二人で年末年始を過ごす予定でいた。

 正月の間の分のおせち料理を作ろうと白雪は張り切っていたのだが、そこに舞い込んだのがこの予定だ。


「ここまでお膳立てされると断りにくいが……白雪はどうしたい?」

「正直に言うと、私は行きたいと思ってます。紗江さんに会えるので」

「紗江さん……確か、玖条家のメイドさんだったか?」

「はい。彼女のお母さんがずっと入院されてて、今年の三月頃に退院予定とだけ聞いたのが、あの事件の後で。そのあとは連絡は取ってないんです。私にとっても恩人なので……」

「いいんじゃないか。それは」

「はい。じゃあ私だけ……」

「白雪がいいなら、俺も行くよ。せっかくのご招待だし」


 やや予想外だったので、白雪は目を丸くしてしまった。


「いいのですか?」

「せっかくの温泉旅館なんだ。お誘いを受けない理由もない。スケジュールも無理はないし、去年からこっち、長距離に移動には慣れてしまったしな」


 仕事が始まるのは六日。三日には帰宅できるだろうから、十分移動の疲れは取れるという見込みだろう。


「ただ、白雪が頑張るつもりのおせち料理は控えめにしてもらわないとだが」

「そ、それは分かってます。一日分だけに抑えます」


 それでも作るのをやめるつもりはない。

 白雪としても、腕の振るいどころなのだ。


「じゃあ、元旦は早めに休んで、翌日に備えないとな」

「はい。でもその前に、明後日のクリスマスですね」


 考えてみれば、これは合宿を別にすると――あの時は美雪も一緒だった――初めての二人での旅行ということになるのか。

 文字通り降って湧いたこの予定がもたらす事実に気付いた白雪は、思わす真っ赤になりそうな顔を見せないようにするため、料理中なので、と言って急ぎキッチンに駆け込む。

 振り返ると、和樹は白雪の様子に気付かなかったようで、お風呂へ消えるのを見て、白雪は心底安堵していた。



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