↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
六章 様々な思惑

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/69

第188話 白翼祭顛末

 翌日。 白翼祭初日である。

 先日のOB1コンテストは説明によると、ある団体の催し物として開催されているのだが、投票は大学の専用アプリを使って行う他、一般来場者向けには 白翼祭のパンフレットに挟まっている投票用紙を使って投票できるらしい。

 

 投票期間は学祭初日から三日目の午後二時まで。

 投票対象の一覧はウェブページにあるらしいので、それだけは気になるから見に行くと、意外にも写真以外は名前や学年、学部すら記載されていなかった。

 もちろん分かる人には分かるのだろうが、文字通り写真だけで決めるものらしい。

 その写真も意図して解像度をやや低めにしているようだ。


 コンセプトは『学内で見かけた美男美女』らしいので、要するに細かく見て決めるものではないのだという。


「この写真でも白雪ちゃんの美貌は際立ってるけどねぇ」

「みゆさんもそう変わらないとは思いますが」


 自分の容貌についてはもう十八年生きてきて、よく理解はしている。

 和樹には言ったことはないが、街中や学内で歩いていると声をかけられたことは一度や二度ではない。

 高校生の時は街中ではほとんどなかったことを考えると、高校生、というより制服というある種の『防御』が絶大だったのだと分かる。


 最近ではその対策にバイト中に使っているメガネをかけていることが多い。

 あくまで一人でいる時はだが。


 ちなみに勝手にOB1コンテストにエントリーした犯人についてはすでに分かっていた。

 発端は、同じ研究室のあかねである。

 本人曰く「こんな美人が揃ってる研究室!ってアピールできるかなと思って」とのこと。

 あかねは今年度いっぱいで院を卒業するのだが、実は同じように卒業する人間が多く、研究室の人数はこのままだと来年度には四割減となる見込みなのだ。

 それを気にしていたという。


 例のプロジェクトに参加してることはよく知られているのだが、最近あれの厳しさ――研究室に属してもプロジェクトには関われない――というのも知られてきているため、敬遠する学生もいるらしい。


 最初は京子だけエントリーしてもらう予定だったという。

 そうしたところ、一人で恥ずかしいと京子に言われ、白羽の矢が立ったのが美雪。

 そしてその美雪が、どうせならと白雪までエントリーさせたという。文字通りのドミノ倒しで白雪だけ同意がなかったというわけだ。


 ちなみにこれに関しては昨日パフェを奢らせることで手打ちにしている。


 四日目の昼頃にホールで発表後、ウェブページで投票結果が発表される予定だが、その時もあくまで『何番の写真の人』というだけで、個人情報は一切でないという。

 もっとも遠からず特定はされるだろうが。

 ちなみにホールでの発表イベントは直前に対象者には連絡が来て、壇上で挨拶する気があるなら来てほしいと言われるらしい。

 もちろん白雪は行くつもりは全くない。


  白翼祭は一日目は美雪と回っていた。

 和樹は今日は仕事だからである。

 一応念のため、変装用の似合わないメガネをかけている。

 ただ、一緒に回っている美雪は全く気にしてないので、すれ違う何人かに注目されていた。


「みゆさんて、そういうところ凄いですね」

「そう? 私はまあ、自分の顔がそれなりに美人だって自信あるしね。でも、一番それを言ってほしいのは一人だけだから、他の人に言われてもどうとも思わないし。それは白雪ちゃんもそうでしょ?」

「そ、それはそうですけど」


 正面からそう言われると、白雪としては頬が熱くなるのを止められない。


「だから、こういうイベントはただ楽しむだけかなぁ。変なの寄って来られたら困るけどね」

「そう言いながらああいうイベントに全力で乗っかるみゆさんはある意味凄いと思いますけど」

「それはそれ。こういうのは楽しんだもの勝ちだし?」


 あっけらかんと笑う美雪に感心しつつ、白雪はパンフレットを広げた。

 去年来た時も思ったが、高校のそれとは全然違って面白い。


「そういえば、斎宮院さんはどうしてるのですか?」

「あ、孝君は今日は研究会の出し物があるの。あ、だから三時から、法学部棟に行くね」

「ええ。それはいいですが……何の?」

「なんか、模擬裁判だって」


 孝之が属するのは法律研究会。

 なのでそこで実際に裁判官、検察、弁護士の役にそれぞれ扮して、仮想で案件を設定、それで裁判をやるという。

 劇に思えるが、大きく違うのは、検察、弁護士どちらもお互いある仮想の事件に関する資料を渡されてはいるものの、いわゆるシナリオはない。

 つまりお互いに本気で裁判を行うという。

 いかにも法学部らしい催しだ。


「それは確かに面白そうですね」

「でしょ。勉強にもなるしね」


 美雪によると、今回孝之は検察官側として出演するらしい。

 どういう展開になるかは分からないが、すこし楽しみだ。


「ま、なので今日は孝君は初日ってこともあって準備に余念がないのです。なので、白雪ちゃんと学祭デートってことで」

「みゆさん……まあ、いいですけど」


 和樹と巡れると一番いいのだが、ある意味去年よりそれはやりづらくなってしまっている。彼が大学職員で、自分が学生である以上、妙な勘繰りをされるのは避けたい。白雪としてはそれはそれで構わないのだが。


(来年一緒に巡れると……いいですね)


 そんなことを思いながら、白雪は美雪と一緒に学祭を周るのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 学祭四日目の朝。

 学校に到着してすぐ、白雪のスマホがメッセージの着信を知らせてきた。これは、個人用ではなく、大学の学内アプリの専用メッセージだ。

 見てみると――。


『おめでとうございます。あなたが本年のOB1コンテストにおいてグランプリとなりましたことをご連絡します。なお、本日の十二時半からムーンホールにて順位発表のイベントが開催されます。もし登壇していただけるなら、本メッセージにご返信ください』


「グランプリ……」


 要するに優勝したという事らしい。

 さすがに少し驚いた。

 見た限り、他にも美人だと思える人はいたと思うし、美雪や京子だっていたはずなのだが。


 どうしたものかと思いながら、とりあえず研究室に向かう。

 ちなみに和樹は今日は自宅で仕事だ。

 二日目と三日目は少しだけ一緒に――他のメンバーも一緒だったが――行動できたので楽しかったが、今日はやることがあるらしい。


「おはようございます。あれ。みゆさんと木下さん?」


 時刻は八時過ぎ。

 まだだいぶ早いため、研究室には他に人がいなかった。


 むしろ一番乗りの可能性もあると思っていたのだが――和樹が午前中出張で早く家を出たので合わせて出た――二人がいるのは意外だ。


「あ、おはよ、白雪ちゃん、早いね」

「いえ、お二人こそ」

「私ら今日午前中研究室の案内当番だったからその準備のために早く来たんだけど……ね」


 そういうと、美雪がスマホの画面を見せる。

 そこには、先ほど白雪が受け取ったものとほぼ同じ文面が表示されていた。

 違うのは『準』の文字だけ。そしてそれは京子の画面も同じだった。


「……え」


 戸惑いつつ、白雪が画面を見せ、三人しばらく無言。

 その後に、美雪が吹き出した。


「あはははっ、なにこれ。同じ研究室からグランプリと準グランプリが出る!?」


 ちなみにグランプリは一人、準グランプリは二人。あとは審査員特別賞などもあるが、要するに投票で選ばれるのを大藤研究室が独占してしまったらしい。

 ちなみに、別にあの三人並んだ写真は別に投票時点では使われていないので、同じ情報学部の生徒で、ある程度研究室に馴染んでいる人物ならともかく、それ以外でこの三人が同じ研究室に属していることを知る者は、おそらくいない。

 なので、この三人がセットで選ばれたのは偶然だろう。


「どうしよ。いっそ三人で壇上に……」

「お断りします」

「さすがに遠慮ね」


 美雪の言葉に、白雪と京子が間髪入れず応えた。


「だよねー」


 美雪もそうなることは分かっていたらしい。


「じゃ、私だけでるかー」

「みゆさん出るんですか?」

「うん。せっかく選んでもらったし、三人とも出ないとか、さすがに盛り上がりに欠けるだろうし」

「でもあの、正直斎宮院さんは絶対歓迎しない気がするのですが」


 孝之の性格はどちらかというと保守的。こういうイベントは特に好まない傾向にあると思う。当然、婚約者であり、何よりとても大切に思ってるであろう美雪がそういう場に出て好奇の視線にさらされることを歓迎するとは、思えない。


「そうだね。だから……えへ」


 なにやら美雪は、怪しげな笑みを浮かべていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 白雪と京子は、二人そろってムーンホールの観客席にいた。

 白雪はいつものメガネに、さらに髪を普段しないシニヨンにまとめ上げて、その上ニット帽をかぶっている。

 さすがにこれで白雪だと気付く人は、親しい人以外はいないだろう。


 京子もサングラスに野球帽のつばを後ろにしてかぶっていた。

 その上、服装もどこから持ってきたのかジャージである。これで準グランプリだと思う人はまずいない。


「みゆさん、何するつもりでしょう……」

「さすがに、あの笑いは私も少し不安に感じたわね……」


 二人がリスクを冒してまで会場に足を運んだのは、美雪のあの笑いが明らかに不安を誘ったからだ。

 さすがに、自分たちのことを言いだすとは思わないが、それでも余計なことをやる可能性は否定できない。


 ムーンホールは千人ほどが収容できる円形のイベントホールで、稀に講義などでも使われることがあり、現在その席はほとんどが埋まっていた。

 OB1コンテストの発表はまずここで行われ、それからウェブサイトで公開なので、早く結果が知りたい人が集まっているのだろう。


「……あれ? 斎宮院さんがいる」

「斎宮院?」

「あ、はい。みゆさんの婚約者です。ほら、覚えてませんか。最初に学食で」

「ああ……あの子か。確か法学部だっけ」


 孝之は会場の最前列に座っていた。遠目だが、なにやら不満そうな雰囲気を感じさせる。

 おそらく美雪が、このイベントに登壇すると聞いたから止めたかったのだが止められなくて、逆に見に来てと言われて断れなかったのだろう。

 どういうやり取りがあったのか、分かりそうな気がする。


(私が登壇するって言ったら、和樹さんどういう反応になったでしょう)


 そう考えてみるが、多分想像できる。

 白雪がそう決めたのならそれを尊重してくれるだろう。

 ただ、内心は歓迎しない気はする。白雪の思い込みかも知れないが。


 そうしてる間にイベントは始まった。

 投票結果が、まずは男性から発表される。

 男性はグランプリと準グランプリのうち一人が登壇を了承したらしい。

 なるほど、確かに美形だと思えたが――。


(滝川さんがとびぬけてるのが今にしてみるとよくわかりますね)


 会ったのはほんの数度。

 ただ、白雪ですら格好いいと思えるほどの相手だったと思う。

 和樹にすでに心惹かれてなければどうだったか――は、あまり意味がないが。


(そういえば沙月さんは元気でしょうかね……)


 そして続けて女性の発表になる。

 グランプリ、および準グランプリは登壇しなかったが、一人来てくれましたと司会紹介しつつ舞台袖に目を向けると、美雪が手を振りながら出てきた。


 そして司会がマイクを向けると、美雪はそれを手に取った。


「情報学部一年の春日美雪です。皆さん、投票ありがとうございました。伝統あるこのコンテストに選んでいただけて、とても嬉しいです。そこで、今日は皆さんに紹介したい人がいます」


 その瞬間、白雪は美雪が何をするか分かった。なるほど、これなら登壇しても妙なことになる可能性はないが――思わず孝之のために祈らずにはいられなかった。


 そして美雪はひょい、とステージを降りると、最前列にいた孝之に近付いていく。

 突然美人が近付いてきて驚いている周りの人間を無視して、美雪はうろたえる孝之の腕をとると、無理矢理立たせた。


「紹介します。法学部の斎宮院孝之君です。知ってる人もいますよね。今年の新入生代表挨拶してくれた人です。そしてこの人が、私の婚約者なんです」


 ホールに動揺が広がる。

 突然そんな発表されるとは思ってもいなかっただろう。

 そして孝之は、突然公衆の面前でそんなことを言われて、半ばパニックになっていた。


「ちょ、まて、美雪、いったい……」

「えー。せっかくみんなが選んでくれたんだしさ。だから、私が一番好きな人も知ってもらおうと思って。せっかくだし、キスする?」

「何考えてる!? こんな場所でするか!」

「こんな場所じゃなきゃいいんだね?」


 ちなみにこの会話は全てマイクが拾っている。

 その瞬間、会場の全員がどっと笑いだした。

 孝之は顔が真っ赤になってるが、よく見ると美雪も真っ赤だ。



 後日、美雪がなぜあんなことをしたのかと尋ねると、実は美雪なりに考えはあったらしい。

 このOB1コンテストでグランプリや準グランプリになると、仮に登壇しなくてもかなり注目される可能性は高い。

 それならいっそ登壇して、婚約者、つまり孝之との蜜月ぶりをアピールした方がいいと考えたらしい。

 また同時に、それで注目されることで、まさか同じ場所にグランプリである白雪や同じ準グランプリである京子がいるとは思われないのでは、という計算もあったという。

 もちろんいずれ噂は広まるにしても、こういう派手なパフォーマンスをすることで、ある程度話題を独占できて、白雪達に注目が及ぶことを避けられるかもしれないと考えたらしい。


 その配慮は嬉しかったが――しかし、当然だが孝之はしばらく激怒していたらしい。

 ただし、それが照れ隠しなのは白雪はもちろん、和樹にすらバレバレだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。