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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
六章 様々な思惑

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 閑話14 友人たちの評価

「で、いきなり奈津美から招集かかったわけだけど」

「そうだねぇ。でも、奈津美ちゃんからこういう急な話って、珍しいよねぇ」


 自宅の最寄り駅近くの海鮮居酒屋。

 日曜日だが、明日が祝日で休みということもあり、午後六時過ぎの今は店はかなりの数の客でごった返していた。

 奈津美の前に座っているのは、女性が二人。

 少し茶色に染まったショートカットの女性が、坂上さかうえ奈々《なな》。長いウェーブのかかった同じく茶色の髪の女性が、なぎさめぐみ

 どちらも奈津美とは高校時代からの友人である。


 奈津美と同じで、アニメや漫画などのサブカルチャーにはまり込んだ高校時代を送った三人で、大学はそれぞれ違ったがいずれも首都圏方面。

 奈津美と奈々は進学のため各々上京、そして恵は一家自体が引っ越して、偶然にも最寄り駅が同じだった。それで時々こうやって会うことがある仲だ。


 仕事は、恵が今もコスプレ趣味などを続けつつ、服飾店でオーダーメイドの服の製作などに携わっているらしい。趣味が高じて仕事にしてしまったのである。

 奈々はごく普通の会社員だ。


「いつもなら一か月前には連絡してくれる奈津美が急遽会いたいとかいうから集まったけど、どしたの?」

「う……急にごめん。相談したくって、どうしても」

「うーん。多分、恋愛相談?」

「うっ……」


 恵の言葉に、奈津美は全く隠せない反応をしてしまった。


「あ、ビンゴだ」

「だねぇ。なになに。どうしたのー?」

「あれ? 確かまだ大学の時に気になってた先輩のこと引きずってなかったっけ。正月にそんなこと言ってたよね。同じ職場になりそうとか何とか。月下さんだっけ」

「う……そう、なんだけどね」


 大学時代、最初に和樹のことを相談したのもこの二人だ。

 そして二人に、「それは好きになってるんじゃない?」と言われたのである。

 ちなみにその後、和樹があっさり卒業してしまって落ち込んでいたのを慰めてくれたのもこの二人だ。


「なになにー? 何か進展あったのー?」

「あったというか……いや、あったんだけど、ね……」

「歯切れ悪いなぁ。まあ順風満帆って感じじゃないけど」

「むしろものすごい逆風が来たって感じだよねぇ」

「う」

「生ビールおまたせいたしましたー」


 そのタイミングで店員が飲み物を持ってきてくれた。

 とりあえず会話を一度中断し、恵がいくつか食べ物を注文する。


「じゃあ奈津美の失恋慰めで……乾杯?」

「かんぱぁ~い」

「かん……って、まって、まだ失恋したわけじゃないから!?」


 そう言いながら、ビールジョッキをガコン、と合わせる三人。


「あれ。そうなんだ。まあ話は聞くよ。聞くだけだろうけど」

「うんうん。でも話すだけでも変わることあるしねぇ」

「……うん。その、ね。先輩と、職場は同じになったんだけど……」


 そういうと、奈津美は現在の状況を――情報の一部は伏せて――二人に話すのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なんつーか……なんだろうね、それ」

「すごいねぇ。同棲してるのに恋人じゃないのー?」


 二人の反応に、内心奈津美は安堵していた。

 もしかしたら自分が異常なのかもしれないと思っていたが、やはりこれが普通の反応だろう。


「その相手の子って、どんな子なのぉ?」

「そうだね。さっきから同じ研究室の女性、としか言ってないけど、さすがにどういう人かわからないと何とも言えないよ」

「実は先輩が何か弱み握られているとかぁ?」


 奈津美が全く考えなかった可能性を言われて、思わず唖然としてしまった。

 確かに、状況的にはそういう可能性だってあると思えるだろう。

 だが。


(あの子に限っては、絶対と言っていいほどないわよね……)


 白雪の性格は、どう考えてもそういった方向性とは無縁だ。それは、この三カ月ほど同じプロジェクトに所属していて、よくわかっている。


「それはないって断言できる相手かな……。その、まだ大学一年生なんだけどね、その子。とても優秀で、同じプロジェクトのアシスタントとしても認められてて」

「あら凄い。っていうかすごく優秀ね、それは……って、一年生!? その月下先輩と何年差よ」

「ひーふー……えっと、七年とか八年くらい?」

「うん。知り合ったのは三年前とか言ってたから……」

「え」「え」


 今大学一年で三年前ということは、高校一年の時に知り合ったということか。

 今更ながらに、奈津美もその事実に気付いた。


「……月下先輩って、ロリコン?」

「違う!? ……と、思う」

「まあ、同居するようになったのは大学入る前っていうなら、今は十八歳が成人年齢だから、そこは問題ないんだろうけど」


 さすがに和樹に酷い評価がされることは回避できたらしい。

 ただ、実際どういう経緯であのようなことになったのかは、全く教えてもらえなかった。

 少なくとも簡単に話すわけにはいかない事情があるだろうというのは、なんとなくわかるが。


「でも高校生かぁ。そういえば妹が来年高校生だから……うん、妹くらいの子とか考えると、さすがにちょっとすごいねぇ」

「お。恵の妹もついに高校生なんだ。どこに行くとかあるの?」

「聖華高校ってとこ目指してるって」

「へぇ。あそこかぁ」


 その高校は奈津美も知っている。確か後輩の誰かもそうだったと聞いたが誰かは思い出せない。

 元々は格式の高い高校だったらしいが、今は一般にも門戸を開いていて、かなりレベルの高い高校でもある。


「まあそれはともかく……奈津美の話は、それだけだとアドバイスも出来ないなぁ。親戚じゃないんだよね?」

「うん、それは違うってはっきり言われた」

「とりあえずどんな子なのよ」

「えっと……まず美人。ちょっとびっくりするレベルの。まあ、スタイルは……その、だいぶ寂しい感じだけど」

「奈津美がわざわざ容姿に言及するあたり、それ両方ともかなりだねぇ。普段そういう属性の話しないし。先輩のことだってそうだったしね。写真ないの?」

「合宿の時に集合写真撮った……かも」


 奈津美はスマホを取り出すと、画像を探し――。


「あった、この子」

「うわ、これは美人だわ」

「うわぁ……ちょっとすごいねぇ。モデルさんって言っても納得する」

「奈津美も素材悪くないけど、そっちで勝負は止めた方がいいね」


 奈々がバッサリと言い切った。


「で、他には?」

「あとは、料理がびっくりするほど上手。その、昨日朝ごはんもらったわけだけど、本当においしくて。それに、プロジェクトの合宿の時だけど……」


 白雪が急遽お昼ご飯を作ることになった話をする。


「それがその、もうびっくりするほど美味しくて」

「そんなに?」

「うん。超高級レストランの料理かと思うくらい。昨日の朝ごはんも、シンプルだったけどすごく美味しかったし」

「奈津美ちゃん、さっきから勝ち目ないって言い続けてるけど、大丈夫?」

「う」


 分かっている。

 特に料理では勝てる気がしない。別れしなに『胃袋を掴ませてもらっている』と言っていたのは、誇張でも何でもないだろう。


「もしさ、その、知り合った頃から食事をするくらいの仲だったら、それもう奈津美に勝ち目なくない?」

「だよねぇ。この手の定番って、料理で男の人の胃袋掴め、とか言われるけど、先にそれをやられてる上に、話聞く限りどうやっても勝てそうになさそうな?」


 友人の容赦のない言葉に、奈津美はテーブルに突っ伏してしまった。


「うう……分かってても現実見せないでよ……」

「これに関しては奈津美が先輩が卒業したってことで諦めたのが敗因だよねぇ。先に知り合っていたアドバンテージが全く活かせなかったわけだ」

「奈々ちゃん、それは酷い。奈津美ちゃんにそうする勇気がなかっただけなのに」

「恵は私にトドメさしたいわけ!?」


 半泣きになりながら、ビールのジョッキを一気に空けた。


「すみませんーっ、生中もう一つーっ」

「あ、ヤケになった」

「だって、どうやっても勝てる要素ないんだけど!?」


 強いて言えばスタイルだが、和樹がそんなものを気にするとは思えない。

 無論全く関係ないとは言えないが、その他の要素が違い過ぎる。


「まあまあ。逆にいえばさ。そんだけ魅力的なその女の子が、しかも好きだってはっきり自覚してるのに、それでも付き合ってないって、相当特殊な理由があるってことじゃない?」

「だねぇ。信じられないもん、さすがに。私だったらとっくに付き合ってる」

「あんたは会って三日で付き合うでしょ」

「酷いなぁ。お試し期間が多いだけだもん。節度は守ってるし」


 恵は昔からこのほんわかした雰囲気で男性相手にも接するためか、美人であることもあって、三人の中ではよく男性に告白される。そしてそれを断ることがほぼない。また、惚れっぽいため、逆に告白することも多い。

 ただ、長続きした試しもない。

 付き合い始める際に、必ず『付き合っていけるかどうかのお試し期間』を設定し、本気で付き合うかどうかを見極めるらしい。

 そして今まで一人もお試し期間から脱した男性がいないのである。


「まあそういう意味じゃ、出会って三年なら、恵の『お試し期間』なんてとっくに終わってる様な気もするし……その子ははっきりと、その先輩が好きなんでしょ?」

「うん。それは間違いなくはっきり聞いた」

「でも付き合ってない。なんか付き合えない理由がある感じだよね」

「そうだねぇ。それも簡単には解消しない様な理由だよねぇ」


 確かにそれは白雪も言っていた。

 ただ、どういう理由があればあんな事態になるのか、まるで想像が出来ない。


「まあ条件分からないから、ここでいくら考えても無駄だろうけどさ。それなら一応、奈津美にもワンチャンあるんじゃない?」

「だねぇ。少なくとも現状、先輩さんはその女の子を恋愛対象にしてないなら、奈津美ちゃんがそこに収まる可能性もある……けど」


 そこで恵は言葉を止め、少し残ったジョッキのビールを飲み干す。

 そして直後、先ほど頼まれたビールを持ってきた店員に、さらに追加を頼んでいた。


「確かその先輩って、大学時代の玉砕未満の子含めて、二桁だったって人だよねぇ。あの有名な央京大学の美男コンビと一緒だってっていう」

「うん」

「実は央京大学の美男コンビ、どっちも結婚してるらしいよ」

「え? あ、いや。一人は当時から彼女いたはずだけど」


 央京大学の美男コンビのうち、一人はいつも一緒に女性がいた。あまりに小さい女性なので彼女だと思われてないことが多いというか、彼を狙う女性はライバル視すらしてなかったらしいが。


「うん。で、もう一人も結婚したんだって。ホントについ最近の話。うちのお客さんに彼のファンクラブの子がいてさ。それで聞いたの」


 和樹の友人の一人、滝川友哉はモデルをやっていて、事務所が公式ファンクラブを運営していたという。彼は学業に専念するためにモデル業を休業していたらしいが、その後弁護士資格を取得、直後に結婚したらしい。


「でもそれが何?」

「うん。その相手がね、何でも地元が同じ人だったらしくてね。もしかしたら月下先輩も、すでに心に決めた人がいたりするんじゃないかなぁってこと」

「え」


 奈津美が凍り付く。

 その可能性は全く考えていなかった。

 そんな気配は全くなかったからだ。

 だが、確かに彼の友人である二人も、一人はともかくもう一人はそんな気配は全くなかったはずだ。

 だが結婚してるということは、決めた相手がずっといたという可能性もある。

 奈津美は、和樹の過去をほとんど知らない。つい先日、実家の場所を知ったばかりである。


「でもそれなら……白雪ちゃんも無駄な努力をしてることに……?」

「可能性だけどねぇ。それなら、そういう状態もあり得なくもないけど、そうするとその子……あ、白雪ちゃんっていうの? 可愛い名前だねぇ」

「ちょっと珍しい名前だね、確かに。でもそうなると、その白雪って子も横恋慕してることになるよねぇ。しかも一緒に住んでるなら、さすがに事情知ってるだろうし」


 その可能性は全く考えていなかった。

 確かに和樹は学生時代も誰とも付き合おうとすらしなかった。それがもし心に決めた人がいるというのなら、理由としては納得できる。

 ただ、白雪がそれを知って横恋慕しているというのは――さすがに少し違うようにも思えた。

 さすがに正解が分からなすぎる。


「もうあれだよ。奈津美ちゃん、玉砕覚悟で突撃するしかないんじゃない?」

「恵、さすがに今の状態はダメだと思うよ。奈津美、醜態晒したばっかだし」


 ガン、と奈津美の額がテーブルにぶつかった。

 そう。

 本当に、本当に情けないところを晒したばかりで、和樹は何も言わなかったが、彼の中で奈津美の評価が著しく下がっているのは想像に難くない。


「そういえばそうだよねぇ。まあしばらくは、お仕事頑張るしかないんじゃないかなぁ?」

「うう……頑張る」

「奈津美、今日は呑もう。……まあ、程々に、ね」

「うん、ありがと、奈々」


 結局その日、歩いて帰れるからと三人が解散したのは、閉店間際だったらしい。




恵の妹は別作品に出てきてます(笑)

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