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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
五章 涼地での夏

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第175話 二人で買い物

 白雪は和樹の運転する車で、近所のスーパーにやってきた。


「すごく大きくて広いですね」

「ああ。俺も前に一度来たっきりだったが、こんな田舎町にこんなでかいのがいるのかとも思うが……」


 隣の、新幹線の駅があるところまで行けばショッピングモールもあるだろうが、おそらくこの店はそちらからの客もいる気がする。

 実際、隣の駅までの距離はせいぜい一キロちょっとだ。駐車場も広いから、車で来る人も多いのだと思う。


 店は平屋であるとはいえ、相当に大きい。

 入口を入ってすぐが野菜売り場だが、とてもたくさん並んでいて、しかも安くてどれもとても新鮮でおいしそうに見えた。


「すごいですね。安くてとても良さそうです」

「田舎だからな、やっぱり」

「和樹さんは夜ご飯の希望、何かありますか?」

「希望と言われてもな……俺はまあ、普段から白雪の食事に世話になってるし、ここは白雪の得意料理でもいいんじゃないか?」

「ハンバーグ……ですよね。それは思ったのですが、昨日のお昼もハンバーグだったので。少なくとも私たちは」

「まあそうだが……」


 確かに両親と美幸は食べてないので一番の得意料理を、という気持ちはなくもないが、やはり連日同じメニューというのも少し芸がない。

 この手のお約束では、肉じゃがなどの煮込み料理で料理をアピールするというのが定番とも聞くが、ちょっと季節ではない気はする。

 無理に凝る必要はないが、かといって普段通りというのももったいない。

 しばらく考え込みつつ――。


「あの、ご自宅にあるピザ窯って、普通に使えるでしょうか?」

「え?」

「あんな高温のオーブンというかって、さすがに普段使えませんし、使ってみたいなあ、と」

「ちょっと待ってくれ。父さんに聞いてみる」


 和樹がスマホを取り出して電話している。

 その間に白雪はよさげな食材を見て回っていた。


「使ってもいいそうだ。扱いは注意が必要らしいので、予熱したりは父さんがやってくれるって。あとは時間を教えてくれると助かると」


 オーブンのように簡単に予熱できるものではないのだろう。

 手間をかけさせて悪いと思えるが、とはいえあのような施設を使えるというだけで少し嬉しくなる。


「ありがとうございます。では……えっと、普段月下家の夕食って何時くらいでしょうか?」

「大体うちと同じだな。十九時過ぎというところだ」

「じゃあ、そのくらいで」

「分かった」


 和樹は再び電話口で話し始めた。

 実質薪オーブンと言っていいあれが使えるとなると、やはりそれに向いた料理にしない理由はない。

 何より、普通のオーブンと違って、高温で一気に大量に調理することもできるだろう。

 白雪は頭の中でいくつかの料理を考えて、満足気に頷いた。


「うん、メニュー決めました」

「そうか。とりあえずは……?」

「やっぱり挽き肉は使います。というか、ハンバーグ的な感じですが」

「じゃあ、あっちかな」


 そういうと、和樹がカートを押しつつ先導してくれる。

 その間に白雪は店内をあちこち見て回るが――。


「ちょ、ちょっと誘惑多過ぎます、このお店」

「白雪?」

「だってすごい安いし、新鮮でたくさんあって。焼き立てパンとかも美味しそうですし、お魚もすごくたくさんで」

「確かにな……そういえば入口の先にちょっとしたイートインもあったな」

「そっちも気になりますが……なんかちょっとだけ、ここに住みたくなりそうです」

「さすがに大学から遠すぎだろう」

「わ、分かってますよ」


 実際には住んだら住んだで大変なのだろうが、これだけの店があるなら白雪はあまり困らない気がするほどに思えた。

 夏がとても涼しくて過ごしやすいというのもあるのだろう。

 ただ夏がこれだけ涼しいということは、当然冬はかなり寒いはずで、どちらがいいかと問われたら何とも言えない。


 白雪は決めたメニューに必要な材料を次々に確保していく。

 そのラインナップに、和樹は少しだけ首を傾げていた。


「挽き肉やチーズ、野菜類は分かるが……その桃は何に?」

「あ、これは食事ではなく、デザートを作ろうかと。桃がとても美味しそうだったので」

「まあ季節だし、この辺りでも作っているらしいしなぁ」


 長野と言えばいくつもの果物の産地でもよく知られるが、特にリンゴや桃などはよく知られている。

 あとは蕎麦だろうが、さすがに今回は蕎麦は出てこない――というより普段から蕎麦に関しては和樹に任せている。


 二人はレジを済ませると、そのままイートインコーナーに少し立ち寄った。


「本格的なコーヒー店があるんですね、ここ」

「そういえば美幸が、ここのモカソフトが美味しかったとか前に言ってたな……折角来たんだし、食べてみるか」


 時刻を見ると午後四時より少し前。ギリギリ、おやつと言っていい時間帯だろう。


「そうですね。私も興味あります」


 二人で同じソフトクリームを購入した。


「美味しいですね。コーヒーの味がしっかりしてる」

「だな。これはなかなかだ」


 真夏の暑さも手伝って、ソフトクリームの冷たさがとても気持ちがいい。

 融けないうちに二人とも手早く食べ終わってしまった。


「さて、と。まあ帰るか。冷蔵品もあるしな」

「はい、そうですね」


 そう言って外に出る。

 さすがにまだかなり明るいが、それでも日は翳ってきていた。

 何よりも――。


「急に涼しくなってきますね、夕方になると」

「そうだな……これがホントに首都圏との一番の違いだな。昼間は同じくらい暑いとは思うが、やっぱり夏は過ごしやすい」

「その、居候の私が言うのもなんですが……休みの間ずっとこちらの方が、楽なのでは……」

「それは……気候的には否定しないがな。とはいえ、家を出た身だ。そこまで長居するつもりはないし、こういうとなんだが、俺にとってもあの家は『実家』ではあっても知らない家だからな」

「でも、温かいです、とても」

「白雪? ……ああ、まあそうかもな」

「はい。とても心地よいですよ、和樹さんの家は」


 白雪にとっての実家は、もちろん玖条家だ。

 だが、あの家で温かみを感じたことがあるかと言えば――ほぼない。

 白雪にとっては玖条家というのは白雪自身を束縛する象徴の様なものだった。

 墓参りの際に祖父の定哉に会ったことで、少しだけその印象は変わっている気はするが、それでも白雪にとっては帰りたいと思う場所ではない。


 対して、月下家はやはり温かいと思った。

 あの温かく穏やかな中に自分がもし入れたら、どれだけ嬉しいだろうと思う。


「白雪?」

「あ、いえ。さて、帰りましょうか。今日は頑張りますね」

「ほどほどにな。無理はするなよ。慣れない台所だろうし」

「大丈夫です。和樹さんも夕飯、期待しててください」

「それは……楽しみにはさせてもらうが。でも、手伝えることがあったら手伝うぞ」


 メニューをしばらく考える。

 面倒なのが一つあるが作るタイミングが違うのでさして問題はない。


「ありがとうございます。多分今回は大丈夫だと思いますので。ただ、最後に窯を使う時はさすがにお手伝いいただけると」

「分かった。父さんにも話しておく。あの窯に関しては父さんに聞いた方がいいしな」

「はい」


 そう言いつつ、白雪は和樹の手を取った。

 一瞬戸惑った和樹だが、それを振りほどくことはせず、二人は車へと向かう。

 二人は夏の夕暮れの陽射しの中、家路に就いた。


 ちなみに。

 そのスーパーのスタッフの間で、凄くきれいな若奥さんがいたという話題がしばらくあったらしい。

 ただ結局、その夫婦は一度しか来なかったので、何者かは分からなかったという。


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