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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
五章 涼地での夏

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第174話 昼食の場にて

 その後、ほどなく白雪達も和樹も呼ばれ、昼食となった。

 時刻は午後一時過ぎ。少し遅い感じだが、その理由は食卓に行ってすぐにわかる。


「これ、手作りピザですか?」


 テーブルの上にあった巨大なピザに、白雪と美雪、それに和樹は驚いたような顔になっていた。


「前に実家に来た時とは全然違うサイズになってるな……。父さん、ピザ職人にでもなるつもりか?」


 直径が五十センチ以上はあるその巨大なピザは、上にチーズと多種多様なトッピングがされていて、とても美味しそうだ。

 店などで買ったものではないのは、その手作り感から一目瞭然だが、下手な宅配ピザなどより美味しそうである。

 何より、つい今しがた焼きあがったというのがありありと分かる。


「いやぁ、最近ピザ作りが楽しくなってしまってね。ただ、普段は母さんと二人だから、こんな大きなものを作っても食べきれない。お客さんが来た時にしか頑張り甲斐がないんだ」


 確かにこのサイズを夫婦二人では無理がある。

 六人ならさすがに問題なく食べきれる――と思いきや。


「たくさん食べてくれ。もう一枚、今焼いているからね」


 言われて、デッキの脇にある窯を見ると、中でピザが焼かれているのが分かった。

 この家に来た時に真っ先に目に入った、ピザ窯だ。

 さすがの白雪でも、これを使ったことはない。


「す、すごいですね……和樹さんのお父さん」

「時間が余った大人がろくなことをしないという典型という気がするが」

「酷いな、和樹。っと、さて、冷めないうちにまずはどうぞ」


 各自ダイニングテーブルを囲む。

 どう考えても夫婦二人暮らしには大きすぎるサイズだが――。


「たまにここで客をもてなすらしい」


 和樹が補足してくれた。

 月下祐樹の仕事は不動産業。

 その他にも色々やっているらしいが、大口の顧客や付き合いのある客などは、この家でもてなすということをやっているらしい。

 そのための大きめのダイニングテーブルだという。


 ちなみにピザ作りもその中で磨いたというが――。


「すごく美味しい。これはすごいですね」


 美雪が感動した様にピザを頬張っていた。

 白雪もここは手づかみでいただくが――融けだすチーズと上に乗ったサラミやピーマン、玉ねぎなどの具材のバランスが絶妙だ。

 本当に美味しい。


「本当に美味しいです、月下さん」

「父さん、本当に無駄にスキル磨いてるな……何年かしたらピザレストランとかやっていそうで怖いよ」

「いい物件があったら考えたいところなんだがな」

「冗談になってないな……」


 和樹が呆れ気味に笑う。

 やがて食事が進む中で、自然白雪と美雪の紹介になる。


「こちらは私も以前から知り合いだった、玖条白雪さん。兄さんと()()マンションに住んでて、今大学一年生……だよね? 前に兄さんが家庭教師やってったって」


 その紹介に、白雪は内心胸をなでおろした。

 微妙に嘘になっていない、ぎりぎりの紹介だ。


「で、こっちが春日美雪さん。白雪ちゃんの友達で、今回無理に誘っちゃいました」

「玖条白雪と申します。突然お邪魔して、このように歓待いただき、本当にありがとうございます」

「春日美雪です。美幸さんと音は同じですが、私は白い『雪』の方になります。今回こんな素敵なおもてなし、本当にありがとうございます」


 さすがに美雪の名前には驚いたようで、両親共に笑っているが、その後に祐樹が少し考えるような素振りになっていた。


「玖条さんに春日さん……もしかしなくても、旧貴族のお家柄でしょうか?」


 二人は思わず顔を見合わせる。

 さすがに、ある程度知られている家系ではあるので、特に彼のように不動産を扱う者であれば、知っていても不思議はない。


「はい、そうですね。と言っても、今は一介の大学生に過ぎませんから」

「ああ、別にそれでどうこうということはないがね。今の話で驚いた様子がないところを見ると、和樹も美幸も知っていた話のようだしな」

「まあ、一応」

「うん。私はみゆちゃんは初めて知ったけど、でも納得かな」


 白雪の古くからの友人という時点で、想像はつくだろう。


「お二人とも大学生……和樹の家の近くということは、央京大学ですか」

「はい。二人とも月下さんの後輩になります。学部も一緒でして」

「それはそれは。確か和樹も今は大学勤務だったか?」

「まあそうだな。なので朝一緒になることもあるが」

「こんな素敵なお嬢さん方とか。羨ましい」

「お父さんー?」

「すまんすまん」


 祐樹が笑っているが、白雪としては気が気ではない。

 少なくとも彼のメガネには適ったのだろうかと思いたくなるが、さすがに確認するわけにもいかないだろう。


「しかしお二人は京都出身……ですよね。急にこちらに来て大丈夫だったのですか?」


 母の優月が少し心配そうに訊ねてきた。


「私は……その、色々事情があって、帰省する予定はないんです」


 実質勘当されている状態だから、今更どういう顔をして玖条家の敷居を跨げるというのか、というのが本音だ。

 むしろいちいちいかなくていいので助かるが。

 さすがに『事情』について詳しく聞こうとしてくる者はここにはいないので、そのまま美雪に返事を促す。


「私は今月の下旬に婚約者と一緒に里帰りする予定です。なので、少し余裕もありますね」

「婚約者!?」


 美幸が驚いて素っ頓狂な声を上げた。

 とはいえ、これには両親も驚いているようだ。


「あ、はい。美幸さんにはさっきちょっと話をした、孝君です。斎宮院孝之。私と同じ年で、同じ央京大生。子供の頃から許嫁でして」

「ほえ~。さすがすごいね」


 美幸が純粋に驚いていた。

 白雪自身は、美雪に限らずそういう話は周りに中学の頃にはよくあった話ではあるが、普通の人は驚くだろう。

 白雪自身も、半年前に破談になったとはいえ、実質婚約者をあてがわれたのは事実で、この辺りは本当に普通の人と感覚が違うと思わされる。


「そういえば、いつまでいるの?」


 優月の言葉に、白雪と美雪は和樹を見た。

 どうせ帰る場所はほぼ同じだし、一緒に帰る方が気が楽だ。

 意図は伝わったのか、和樹が小さく頷く。


「俺は明後日には帰るつもりだ。仕事もあるしな。白雪達もそれでいいか?」

「はい。帰る方向は同じですし」

「春日さんも?」

「そうですね。一緒にそのタイミングで」


 すると優月は嬉しそうに頷く。


「じゃあ明後日までは賑やかね。そうそう、お夕飯の買い物に行かないと」


 急に二人増えたのだから、当然と言えば当然だろう。


「あ、それでしたら……私にもお手伝いさせてください。その、お料理は得意なので」


 こんな素敵なところにタダで泊まらせてもらうのはさすがに気が引ける。

 ならせめてこの程度は、というのもあるが――。


「白雪ちゃん、得意とか言うレベルじゃないでしょ……あれは」

「あら。そんな無理しなくてもいいのよ?」

「いえ、ぜひさせてください。泊めていただけるなら、それくらいは」

「でも買い物行かないとなのよねぇ。じゃあ、それもお願い出来る?」

「はい、もちろんです」


 すると祐樹が立ち上がって、和樹に何かを渡していた。


「じゃあ和樹が送迎しなさい。私はちょっと仕事があるからね」

「……分かったよ。それじゃあ一休みしたら行くか?」

「はい。あ、すみません、お台所見せていただいてもいいでしょうか。何があるか把握したいので」

「もちろんよ。こっちよ」


 案内されたのはダイニングの隣。かなり広々としたキッチンだ。

 先ほどまでピザ生地をこねていたと思われる台もある。


「じゃあ十五時に出るでいいか。ちょっと俺もメールチェックだけするから」

「はい、わかりました、和樹さん」


 和樹が階上に上がるのを見送ってから、白雪はキッチンを見て回る。

 調味料の類は基本的に全て揃っているようだ。

 考えてみればいくら別荘然としていようが、和樹の両親はここでずっと住んでいるのだから揃っていて当然か。


「皆さん、好き嫌いとかあるでしょうか……?」

「和樹と美幸は特にないわねぇ。私達も特には。まあ、年齢的にそろそろ……というのはあるけど」


 確かに脂っこい食事などはそろそろ年齢的に厳しい部分はあるのだろう。

 とりあえずあとは買い物先でいいモノを選んでメニューを決めることにする。


 部屋に戻ると美雪がスマホを見ていたようだ。


「これからお買い物?」

「そうですね。三時頃から。みゆさんも行きます?」

「いいよ。新婚デート邪魔しても悪いし」

「あのですね!?」

「でもさ。点数稼ぎ目的、ないわけじゃないよね?」


 美雪の言葉に、白雪は返答を封じられた。

 自分の料理が人に誇れるものであることは重々承知で名乗り出たのは、否定できない。

 可能なら、将来義両親となってほしい二人に、自分の存在をアピールしたいという気持ちは、確かにあるのだ。


「いいじゃない。全部聞いたうえで言うけどさ、白雪ちゃんはもうちょっと攻めないと、月下さん狙ってる人ってあの倉持先輩以外にも多分いるよ? こう言っちゃなんだけど、凄くいい人だし」

「う……」


 分かってはいる。

 本人に自覚がないのが困りものではあるが、和樹は人に好かれやすい。

 単純な社会的地位や収入(カタログスペック)だけでも実はかなり高い。

 その上容姿も整っていて、性格もいい。


 本人に結婚の意志があるのかどうかは分からないが、少なくともあの法事に行って以降、和樹からあのどことなく人を寄せ付けないようにする雰囲気は――白雪相手にはほとんどなかったが――ほとんど見られなくなっている。

 それはつまり、彼が人との間に壁を作らなくなっていっているという事でもあり、そうなればうかうかしていれば和樹の隣に白雪以外が立っていることがあり得てしまうのだ。


 自分で和樹のことを応援していながら、結果としては白雪自身が焦る羽目になってはいるのだが――無論しなければよかったとは思わないにしても。


「まあとにかく、本丸攻めるのが難しいなら、周りから攻略ってのは定番だしね」

「みゆさん、その、そういう言い方は……」


 やってることはまさにその通りではあるのだが、さすがに少し明け透けな言い回しに、白雪自身が恥ずかしくなってしまうが――。


(でも、手段を選んでいられるほど、余裕はない……ですよね)


 一番近くにいるのが白雪であることは間違いない。

 ただ文字通り『いる』だけなのが今の状態だ。


 前に聞いたが、和樹の両親も六歳差だ。

 なら、八年程度なら許容してくれると思う。


(頑張らないと、です)


 内心ぐっと力を込めた白雪は、ふと顔を上げるともう出発十分前になっているのに気付いて、慌てて準備を始めるのだった。


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