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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
五章 涼地での夏

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第172話 月下家へ

「いやはや、急にお客さんが増えるとはね」


 そう言いながら、父の祐樹はとても楽しそうだ。

 ハンドル操作をミスしなければいいのだが、と心配になるくらいである。


「あの、よろしかったのでしょうか、突然」

「問題ない、美幸の友人というなら大歓迎だ。隠居老人の家に若い人が来るのは歓迎だよ」

「父さん、まだそんな年齢じゃないだろ……」


 まだ還暦ですらない。

 先日誕生日を迎えたばかりで、まだ五十六歳のはずだ。


「しかしすごい偶然だな、こんな場所で友人と出会うとは」

「私もびっくりしたよ。兄さん、何も言ってくれてなかったし」

「俺がこの時期に実家に行くとは言っていたはずだぞ。というか、美幸はもう実家にいたんじゃないのか?」

「あ、うん。サークルの合宿で出かけてたの。で、戻ってきたらホームに白雪ちゃんがいたからびっくりだったよ」


 ここまでの偶然があるものなのかと驚くばかりだ。

 そういえば、美幸は最初から白雪とはなぜか遭遇することが多い。

 今回もそれか。

 どういう星の巡り合わせだと言いたくなる。

 それに加えて――。


「名前は美幸から聞いたが、えっと玖条白雪さんと、春日美雪さん、でしたっけ?」

「あ、はい。玖条白雪と申します」

「春日美雪です。よろしくお願いします」

「美幸と同じ音だが、字が違うようだね」

「うん、そう。私は幸いだけど、春日さんは白い雪だからね」


 これがまたとてつもなく紛らわしい。

 うっかりいつも通り「みゆき」と呼ぶと変なことになりそうだ。

 とりあえず「春日さん」といつも通り呼ぶしかないが。


 そんなことを話している間に、車は森の間の道を抜け、月下家に着いた。

 二階建てのログハウス風の家を目の前にして、白雪と美雪は少し呆然としている。


「え……これが月下さんの家?」

「すごい……なんか素敵です」

「はは……まあ元々別荘だからね。和樹も今回は間が空かなかったな」

「まあな。四カ月ぶりか」

「多分お前が帰省したスパンでは、最短じゃないか?」

「ホントだよ、兄さん。学生の頃から全然帰ってこないし。薄情だよねぇ。私なんて下手すると一年以上顔見なかったことがある気がする」

「え、それは酷くないですか、月下さん」


 なぜか和樹が非難される状況になっている。

 というか、ダブルみゆきの気の合いっぷりが怖い。

 白雪を見ると、わずかに首を横に振ったが、これは果たしてどちらの意味か。


「まあ上がってくれ。しかし本当にいいのかね?」

「あ、はい。私は月下さんが良ければ」

「その、私も……はい。か……月下さん達が、ふにゃあ!?」


 白雪が突然妙な声を上げる。

 驚いて振り返ると、美雪が白雪の脇腹を突いていた。


「な、何するんですか、みゆさん」

「いや、今更取り繕ってどうするのって話。どうせすぐボロ出るでしょ」

「う……」


 意味が分かってないのは祐樹で、不思議そうな顔をしている。


「父さん、気にしないでとにかく入ろう。暑い……ってことはないが、喉は乾いたしな」

「おお、そうだな。あと皆さん、食事は?」


 客二人を振り返ると、二人とも首を横に振る。

 それはそうだろう。

 もちろん和樹も食べてないし、美幸は家で食べるつもりだっただろうからやはりまだだ。


「では昼食からご馳走しよう。まあとにかく上がってくれ。母さん、ただいま」

「いらっしゃい。あらまあ、本当に可愛らしいお嬢さん。初めまして、和樹と美幸の母の優月です」

「お邪魔いたします。春日美雪です」

「初めまして。お招き頂きありがとうございます。玖条白雪と申します」


 そういうと、二人とも一瞬見ほれるほど美しい礼をする。

 この辺りはさすがというべきか。


「あらまあ、本当に礼儀正しくて素敵なお嬢さん方。美幸、奥の部屋にご案内して」

「はーい。さ、二人ともこっちこっち」

「あ、はい」


 そういうと二人は美幸に連れられて階上に上がっていく。

 あとには、ややため息交じりの和樹が残された。


「どうした、和樹。疲れているのか?」

「……それは若干否定しないが。まあそれより、なんでこんな話になってるんだ、という方が強いんだが」

「美幸の話では、玖条さんとは和樹もご友人だと聞いたが?」

「まあ、それはそうなんだが……」


 友人という表現が正しいかと言われると、さすがに自信がない。

 というより、今の関係は友人だと言って信じる人はほぼいないだろうというくらいの自覚はある。


「私としては、賑やかなのは歓迎だ。実際夏のここは良いぞ。和樹もゆっくりしなさい」

「それはまあ……そのつもりはあったんだが」


 予定では二泊のんびりするつもりだったが、どう考えても気持ちが休まるかは怪しい雰囲気になってきた。

 というより、さすがに白雪と同居している事実を、親にどう説明すべきかと言えば、とてつもなく難しい。というか、説明したらややこしいことになるとしか思えない。

 普通に考えれば責任を取れ、などと言われても仕方ないというのは和樹自身分かっている。


 普通に考えるならちゃんと説明すべきだということも十分わかってはいるが、現状の白雪との関係をちゃんと説明する自信は全くないし、説明したとしても理解されるとは思えないのが本音だ。


 結論から言えば――。


(黙ってた方がいい……のだろうが……)


 問題は美雪まで一緒にいることだろう。

 彼女は和樹と白雪の現状を知っている。

 そしてどう考えても、あのダブルみゆきの意気投合っぷりは歯止めが利かなそうであり、うっかり美幸に話が漏れる可能性は否定できなかった。


 別に何ら悪いことはしていないというのは確かで、何ら後ろめたいことはない。

 それは分かっていても――。


「悩み事でもあるのか?」

「あ、いや。……まあ大丈夫だ、父さん」


 和樹は一度頭を振ると、とりあえず荷物を持って部屋に上がる。

 あまり慣れた部屋とはいいがたいが、それでもかつての自分の私物が置いてある部屋はそれなりに落ち着いた気持ちにはなれた。


「なんていうか……なるようにしかならんか」


 かすかに、三人が話している声が聞こえてくるが、何を話しているのかは分からない。

 できれば平穏に終わってくれと祈るような気持ちで、和樹はまだあまり見慣れていない部屋の天井を見つめていた。


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