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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
五章 涼地での夏

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第171話 合宿三日目~解散――のはずが

「お世話になりましたーっ」


 九人の学生の声が唱和した。

 その後に、教授と和樹もお礼を言って頭を下げる。


「いえいえ。こちらも賑やかで楽しかった。大藤さん、また声をかけて下さい。都合が付けばまた是非」

「そうですね。今度は研究室の合宿の時にでも」


 教授と杉谷氏が握手を交わしている。

 ちなみに先日どういう関係か聞いたら、高校の先輩後輩だったらしい。ちなみに教授が一つ年上。

 大学も一緒で、その後彼は脱サラしてペンションを経営していて、教授は何度お世話になっているらしい。本当に仲が良くてこの年齢まで付き合いが続いているのだからすごい。


 合宿は無事終了し、この後は和樹も一週間休みとなる。

 合宿の目的はほぼ完遂し、あとは九月中旬の正式なプロジェクトスタートまで一気に駆け抜けるだけという状態だ。

 この後の休みはゆっくりできる最後の期間だろう。

 いずれにせよ、無事合宿が終わった開放感で、全員少し安心したような雰囲気があった。


 一行はこのまま和樹以外は電車に乗って、すぐ近くの新幹線が停車する駅まで行く。その後、それぞれの方向に帰る――と言っても、都心に帰るのは実は白雪と美雪だけだ。

 今回のメンバーのほとんどがこの後里帰りとなるのだが、意外なことにことごとくが新幹線の下り線に乗るらしい。

 上り線方向――つまり都心方面――に行くのはその二人だけなのだ。

 教授も奥さんと北陸方面で合流するらしい。


「和樹さんはここでお別れですね」


 白雪が少し名残惜しそうにしている。

 一人で返すのはやや忍びないが、とはいえさすがに実家に連れて行くわけにはいかない。


「ああ。気を付けてな。新幹線の席は取れているんだっけ?」

「時間が読めなかったので、取ってないです。でも多分空いてるだろうとは」

「まあ……大丈夫か」


 この時期の上り方向なら席がまだある可能性はあるだろう。各駅停車でもそこまで時間がかかるわけではない。

 本数は少ないので駅で待つことになる可能性もあるが、あの駅なら駅構内でも時間は潰せるし大丈夫だろう。


「和樹さんはいつ戻る予定なんですか?」

「今日明日くらいは実家にいようかとは思ってる。だからまあ、帰るのは明後日かな」

「分かりました。羽を伸ばしてきてください」


 そういうと白雪は改札の中に消えた。

 その後に奈津美が現れる。


「先輩。お疲れ様でした。また研究室で」

「ああ。倉持も実家でのんびりして来いよ。なんか妙に思いつめたようなところもあったからな。人間、無理はよくないぞ」


 その言葉に、奈津美が少し驚いたようになりつつ、複雑そうな顔になる。


「倉持?」

「何でもありません。それじゃあ、また」


 そういうと、やや駆け足に改札の向こうに消えた。


「……なんなんだ?」


 妙に不満そうに見えたのは気のせいか。

 もっとも、彼女はどういうわけか和樹の前では時々不満そうにしてるので、何かこっちに問題があるのかもしれないが、現状思いつく要素はない。


「さて、と。迎えに来てくれるって話なんだが……」


 ふとスマホを見ると、メッセージの着信を示す通知が表示されていた。父親からだ。


『美幸がもうすぐ着くらしいから、そのタイミングで迎えに行く。十一時過ぎには着く予定だそうから、それまで時間を潰してくれ』


 時計を見ると、今は十時半。


「時間潰してくれと言われてもな……」


 実家があるとはいえ、和樹にとっては全く馴染みのない場所だ。

 そして駅周辺を見渡してみても、見事なほど何もない。

 隣の新幹線が止まる駅の前は、さすがに色々あったので時間などいくらでも潰せるだろうが、こんな場所では本当に何もないとしか言えなかった。

 スマホで探せば店くらいは見つかるだろうが、時刻も中途半端でお昼ごはんを食べるという気にはならない。

 そう思ってから駅構内の案内図を見たら、なんと図書館が併設されていた。


「これなら三十分くらいは余裕か」


 とりあえず時間を見て、スマホにバイブレーションでアラームをセットする。時間に気付かないと間抜けだが、本に熱中したらないとは言えない。


 とりあえず和樹は、図書館に入って適当に時間を潰すことにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 三十分程度の時間はあっさり潰せて、和樹は駅の改札前で美幸を待っていた。

 この駅に来る電車の数はお世辞にも多くはない。

 なので時刻表を見て、電車が到着した時点でこれだろという電車は分かるので、来たかな、と思っていると――。


「久しぶりだな、みゆ……は?」


 改札からまず出てきたのは美幸。

 これは良い。

 だが、その後ろからなぜか美幸に引っ張られるように出てきたのは白雪と、そして美雪だった。


「ちょっと待て。どういうことだ?」


 さすがに先ほど別れたはずの二人がここにいるのは予想外にもほどがある。


「おー、兄さん久しぶり。あ、二人もうちに来てもらうから」

「は?」

「お父さんとお母さんの許可はもう取ってるよ」


 美幸が勝ち誇ったように見せるスマホの画面には、父親の『そういう事なら友達も一緒に来ると良い。部屋は十分にあるからね』というメッセージが写されている。

 普通に考えればさすがに電話で話したはずだろうが、それでこういうメッセージが来てるということは、和樹が問い詰めるのを見越した上でわざわざ送らせたのだろう。


「す、すみません、和樹さん。その……」

「あー、いい。なんとなく想像はつく。そっちは……成り行きに任せたのか?」

「すみません。私もまあ面白かったが一番かもです。何より名前が同じとか、シンパシーを感じちゃって」

「……白雪はともかく、君は帰らないと心配されるのでは?」

「それは大丈夫です。ちゃんと説明したら、孝君は納得してくれました。月下さんならいいだろうって。あ、加藤さんにも、もちろん説明済みです」


 信頼されてると思っていいのかどうか。

 加藤というのは、美雪の家の隣に住んでいる彼女の世話係らしい。


 どうしたものかと思うが、さすがに和樹の一存で送り返すわけにもいかない。というか、すでに親に許可を取り付けてある以上、和樹にはなす術はなく――。


「おーい、和樹、美幸、こっちだこっち」


 父親の声が背後からして、和樹はとりあえず成り行きに任せるしかないと諦めるのだった。



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