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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
五章 涼地での夏

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第168話 合宿二日目~昼食トラブル

 二日目は、朝食の後は午前中は基本的に仕事に従事した。

 本当は午前中に少しくらい外を歩いてみようかと思ったのだが、あいにくの雨模様。

 天気予報によると午後には上がるらしいので、それであればそれまでに片づけておこうと思ったのだ。


 白雪も美雪も、昨日の作業の残りがあり、それをそのまま継続。

 この地域の朝は本当に涼しくて、気持ちがいい。

 それもあってお互いにかなり作業は捗った。


「おーわったぁ。白雪ちゃん、どう?」

「私も……これで終わりです」


 ほとんどお互い無言でカタカタとキーを叩く音だけが響くこと四時間。

 気付くと時間は十二時五分前になっていた。

 受験の時を含めて、これほど集中したことはなかった気がする。


 外を見ると、まだ雨は少し降り続けている。

 スマホで再度天気予報アプリを起動すると、どうやら二時前までは少し怪しいようだ。


「ま、山の天気は変わりやすいとは言うしね」

「ここは……ですね。立派に山ですね」


 標高千メートル以上だ。起伏が激しくないとはいえ、立派に山だろう。


「皆さんお昼はどうされるのでしょうか。午前中はみんな作業という事でしたが」

「そういえばあかねさんも呼びに来ないね……行ってみようか」

「はい」


 とりあえず部屋を出て階下に降りる。

 と、そのタイミングで会議室からあかねが出てきた。


「あ、二人とも一段落したの? そろそろお昼って言いに行くところだったけど」

「あ、はい。一段落というかですが、お昼どうされるのかな、と思いまして」


 続けて会議室からはぞろぞろと人が出てくる。

 が、最後に出てきた教授がなぜか青い顔をしていた。


「さて、お昼ごはんだが……すまん。私が言うのを忘れてたのだが」


 教授がとても申し訳なさそうな顔になる。

 

「杉谷さん達がお昼は出かけると言っていたんだ。なので、自分達で何とかしないとならなかったんだ」


 その瞬間、メンバー全員から動揺の声が漏れる。

 どうやら和樹たちすら知らなかったらしい。


「あ、いや、その、キッチンは使っていいと言われてたのだが……本当にすまないっ」


 さすがにこれは困った。

 教授は慌ててどこかに電話をしている。

 車があればまだ買い出しにもいけるが、今ある車はマイクロバスのみ。通常の車は杉谷夫妻が持って行ってしまっている。

 そして今日は、マイクロバスの運転手でもあるもう一人の従業員は、今日は休みだ。

 考えてみれば客だけで放置されているが、これが知り合い価格ゆえかもしれない。

 いずれにせよ、マイクロバスを運転できる人間はここにはいないので、交通手段もない。


 別荘地とはいえ、おそらく宅配サービスくらいはあるだろうが、それでも結構時間はかかるだろう。

 白雪はふと気になって、キッチンへ足を運ぶ。

 少し悪いとは思いつつ、冷蔵庫や野菜のストックを見て回る。

 その時、後ろから教授の声が響いた。


「ペンションにある食材は使っていいらしい。なので何とか……誰か出来ないかね」


 後半、とても力なさげな教授の声に、思わず笑いそうになってしまった。

 それなら、と白雪はあらためてキッチンの食材を見て回る。

 さすがに商売をやってるだけあって、食材も調味料も十分だ。

 ふと顔を上げると、美雪と和樹が、二人とも自分を見てるのに気が付いた。


「大丈夫、いけますよ」

「……いいのか? こんなとこまで来て、だが」


 和樹が申し訳なさそうにしているが、この事態は彼の責任ではない。

 それに、いつもと違う場所で料理を出来るというのもなかなかない経験だ。

 ましてここは、さすがに厨房が広い。


「大丈夫です。あ、でも、さすがに十一人分ですから、ちょっとお手伝いはお願いしたいかも、です」

「もちろんだ。手伝うよ」

「あ、私も手伝う。こういうところで戦力アピールしないと、ね」


 するとやや自信なさげな教授がキッチンを覗き込んできた。


「ん? もしかして玖条君は料理の経験が……?」

「はい。結構得意だと思いますので、食材を使っていいなら、大丈夫です。あの、オーナーの方に使ったらまずいものがあったら教えていただきたいのですが」

「あ、ああ。ちょっと待ってくれ」


 そういうと、教授はまたスマホを取り出して電話をしている。


「ああ、うん。わかった。玖条君。奥の倉庫にある熟成中の肉は避けてほしいそうだが、あとは自由にしていいとのことだ。余ったら夕食に出すので、どうとでも使っていいと」

「はい、わかりました。では……ちょっと頑張ります」


 そういうと、白雪はかけてあったエプロンを着用する。

 それに、和樹と美雪が続いた。


「あ、れ。月下先輩が料理を?」


 驚いていたのは奈津美とあかねだ。


「いや、俺はアシスタント。主担当は……玖条さんだ。俺と春日さんが手伝うから、みんなは待っててくれ」

「え。あ、その、わた……いえ、わかりました」


 手伝いに名乗りを上げようとしてくれたのだが、さすがにいくら広い厨房でも四人は多い。


「わ、わかりました」


 奈津美は少し残念そうに出ていく。

 ただ、さすがに彼女に手伝ってもらうのは、色々な意味でやりづらい。


「で、どうする、シェフ?」

「か、和樹さん、なんですかそれ」

「いや、なんとなくだが……まあでも、一人で十一人分は大変だろう」

「クリスマスの経験とかもありますけどね。とはいえ、あまり遅くなると皆さんお腹すいちゃいますので、手早くやります」


 そういうと、白雪はもう一度食材を斜め見た。

 それから調理器具を確認する。


「みゆさん、ジャガイモを芽だけとって二センチ角くらいに切ってください。これの半分くらい。残りは普通に皮むきをして、薄切りにお願いします」

「了解~そのくらいなら任せて」


 その指示を出した後、大鍋に水を張って火にかける。

 それから和樹の方に向き直った。


「和樹さんは、お米研ぎお願いします。こればかりは炊飯器だよりですが、業務用のものなので一度に十一人分でも行けますし……七合お願いします」

「分かった。その後の指示はまた頼む」


 二人にそれは任せると、白雪は残りのメニューを考える。

 どちらにせよご飯が炊けるまでは一時間近くかかる。

 その時間を含めて配分すべきだろう。


「うん、これなら折角ですし、時間もありますしね」


 白雪はそういうと、冷蔵庫から挽き肉の巨大パックを取り出した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お待たせしました、皆さん。食堂にどうぞ」


 美雪がそうみんなに呼びかけたのは、午後一時ちょうどだった。

 その声で、各自が食堂に集まってくる。


 白雪と和樹は、共に厨房にいて最後に付け合わせを行っていた。


「すみません、ごはんはご自分でよそって下さい。あと、スープはみゆさん、お願いします」

「らじゃ。皆さんどうぞー」


 あとは白雪が二分割のランチプレートに食事をよそって、それを和樹が渡していく。

 あっという間に十一人分の食事の準備が完了した。


「……すごい。一時間でこれを?」


 教授が驚いていた。

 並んでいるのは、生野菜のサラダ、ジャガイモのポタージュ、ソーセージとジャガイモの炒め物――要はジャーマンポテト――と、ハンバーグだ。

 ハンバーグは、煮汁を使った特製ソースをかけてある。


「その、料理は得意なもので。さあ、冷めないうちにどうぞ」


 すぐ横で、和樹が少し笑っていた。

 美雪も同じように笑っている。

 その理由は少しだけ想像はつくが――やはり少し恥ずかしい。

 そして。


「何これ、めっちゃくちゃに美味しいんだけど!?」


 真っ先に大声を挙げたのはあかねだった。

 その横で、京子も驚いた顔をしていて、奈津美は唖然としている。

 教授も目を丸くしていた。


「すごいな、本当にこれは美味しいぞ。玖条君、君、本当に凄いな」

「あ、いえ。その、結構いいお肉だったのは、あります」


 これは謙遜ではなく事実だ。

 どう考えても、かなりいい挽き肉だったと思う。


「それでもこれはすごいよ。あかねも見習……ぶげっ」

「な・ん・か・い・っ・た?」

「ナンデモナイデス」


 二人の関係性が見て取れて、白雪は思わず笑いたくなった。

 その横で、昨日の渕明含め、男子三人も目を丸くしていた。


「すごいわね、本当に。でも……ん?」

「あ、あの、木下さん、どうかなさいました?」

「ううん。なんでもないわ。とても美味しくて驚いてるの」

「ありがとうございます」

「お料理はお母さんに?」

「そうですね。そのハンバーグソースは、母のオリジナルと聞いてます」

「……ごめんなさい。迂闊なことを聞いちゃったわね」

「あ、いえ。大丈夫です。お気になさらず」


 おそらく今の会話だけで、母親がいないことを察してくれたのだろう。

 ただ、これは白雪も教授はともかく他には説明していないのだから仕方ない。

 それに、それで落ち込むようなことはもうない。


「いやぁ……私の凡ミスがとんでもない幸運になって……」

「教授。本来あってはならないミスですからね?」

「す、すまない……」


 和樹のツッコミに、教授が小さくなっていく。

 普段、スーツをビシッと着込んでダンディな、隙の無い大人だと思っていただけに、この光景はなかなかに新鮮だった。


 ちなみに後日。

 実は教授は普段大学にいる時はあのようなミスは絶対しないらしい。

 しかしなぜか旅行などに出ると、テンションが上がるのか普段からあり得ないようなミスを連発するという。

 そのくせそういうイベントごとが大好きらしい。

 世の中色々な人がいるものだと、白雪は思ってしまった。


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