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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
五章 涼地での夏

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第169話 合宿二日目~思わぬ女子会

 少しのハプニングのあった昼食が無事終わり、各自は午後の作業に入るはずだった――のだが。


「え。玖条君と春日君、もう終わった?」

「え、ええ」

「見直しはしますけど、多分ばっちりじゃないかと」


 教授が少し唖然としてた――というより横で和樹も驚いている。


「すごいな。合宿中はかかるとみてた作業量だったのに」

「あ……でもまだ見直しがありますが」


 一気に書き上げているので、ちゃんと内容との整合性などの確認は必要だ。

 そこまで終わってから完了というべきだろう。


「うん、まあ……そうだが、これから雨も上がるようだしな。二人は午後は休んでくれて構わない」

「だな。せっかくこんな場所に来てるのだから、少しくらい街の方に行ってはどうだ?」


 和樹も賛成らしい。

 どうせなら和樹と出かけたいところだが――やはり和樹は仕事があるようだ。

 こればかりは無理は言えないし、一方でせっかくこんな場所に来たのだから少しは出かけたいという気持ちはなくもない。

 というか、美雪は大分行きたそうだ。


「とはいえ、二人だけではな……そうだ。木下君、確か君の作業は午前中で一段落してたね?」

「一段落したというか、月下さんの作業待ちの部分はありますが」

「う……すまない」

「教授のフォローしてたのですから仕方ないですよ」

「何とか午後には終わらせておくよ」


 京子はお願いします、と和樹に言ってから、教授に向き直る。


「つまり私にお嬢さん二人の引率を、という事でしょうか」

「そこまでは言わないが、一緒に息抜きをしてきては、というのはあるな」

「へ? 木下さんと?」


 木下京子。

 年齢は和樹と同じ二十六歳。

 肩のあたりで切り揃えている髪型で、今はジーンズにブラウスというラフな格好をしているが、それが良く似合っている。

 白雪から見ると『大人の女性』という雰囲気がある人だ。

 ちなみに奈津美は、本人にはとても言えないがどこか子供っぽいな可愛さがあるという印象がある。

 根拠は不明だ。


「確か君は免許を持っていただろう? 先ほど杉谷夫妻が帰ってきて、車を使ってくれていいとのことらしいし」

「保険は大丈夫なんですか?」

「それは問題ないとのことだ。まあ事故を起こすつもりもなかろう?」

「まあそれはないですが。春日さんと玖条さんは、いいかしら?」


 和樹の手伝いをしたいという気持ちはなくもないが、どう考えても手伝えることは多分ない。

 見直しなどは夜にやればいいので、確かにせっかく観光地に来て閉じこもっているのがもったいないと思うのは否めなかった。


「はい。私は大丈夫です」

「はーい。私も。木下さん、お願いしますね」

「まあそれじゃあ、少し街を観光してきます。女子ばかりなら気が楽ね」


 かくして思いもよらず、白雪は美雪、京子と出かけることになった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 三十分後。

 三人はすぐ近くの小さな店が集まったショッピングプラザにいた。

 ここはブランドショップをはじめとした店が数多く軒を連ね、しかも敷地には緑も多くとても広い。

 午前中からの雨がちょうど上がったくらいで、雲間からの陽射しが美しく建物を彩っていた。


「なんていうか、都会のショッピングモールとは全然雰囲気が違いますね」

「そうね。私は結構田舎出身だから、こんなお洒落な場所はなかったわねぇ。まあここは特に別格という気はするけど」

「あれ。木下さんってどこ出身なんですか?」

「ああ。私は大学は北陸の方なんだけどね。出身は北関東よ。そういえば、二人は?」


 白雪と美雪は思わず顔を見合わせる。


「一応……二人とも京都、になるでしょうか。私はその、高校は大学からそう遠くないところでしたが」

「私は高校も京都です」

「京都。それはまた遠くから。その割には春日さんも玖条さんも京都方面の訛りとかはないわね?」

「それはまあ、私は家族と話す時は少し出ることもありますけど、基本家でも普通ですからね。白雪ちゃんはもうこっちが長いもんね」

「そうですね……子供の頃は元々関東でしたので、京都に住んでいる時間よりもうそちらの方が長いくらいですし」


 七歳まではこっちで、その後八年間は京都だが、親しい友人もいなかったし、一番話した紗江も京都訛りのある方ではなかった。考えてみたら貫之などもそうだ。そう考えると、そもそもあまり聞いたことがない気がする。


 とりあえず三人は適当なカフェに入った。

 美味しそうな食事を提供してくれるお店は本当にたくさんあったが、先ほど昼食を食べたばかりであり、さすがにがっつり食べる気にはならなかったのだ。


「おー。このケーキ美味しそう」


 三人ともケーキセットを頼む。

 ケーキが選べたので、白雪はメロンのタルト、美雪がチョコタルト、京子はショートケーキだ。

 飲み物は三人ともコーヒー。


「そういえば……お昼ご飯は本当に美味しかったわ。玖条さん、本当に料理上手なのね。私も母から教わってはいたけど、あそこまではとても」

「ですよねー。白雪ちゃんホントに料理上手で。お嫁さんに欲しいくらいです」

「……あ、あなたたちそういう関係?」

「ち、違いますよ!?」


 白雪が慌てて全力否定する。

 その後、京子がクスクスと笑っていることから、揶揄われたのだと気付いてむすっとしてしまった。

 ちなみに揶揄われたもう一人は、「本気で考えたいくらいだよねぇ」などと言っている。


「その、両親がレストランとかで働いていた人で、料理がとても上手だったんです。直接は、ほとんど教えてもらってはいないですが、それでも色々レシピノートとか残してくれてたので、それで」

「その話は私も初めて聞くなぁ。すごいね、白雪ちゃんのご両親」

「あのハンバーグの味付けも?」

「あ、はい。レシピノートにあったものです。あれは母のオリジナルソースですね」


 あの味付けはお気に入りで、白雪も大好きな味だ。父も大好きだったのを覚えている。店の看板メニューにしよう、などと話していたのを、ふと思い出した。

 結局それがメニューに載ることはなかったが――。


「白雪ちゃん?」

「あ、いえ。なんでも……あれ。木下さん?」


 ふと見ると、京子がやけに神妙な顔になっていた。


「あ、いえ。あの味付け、どこかで覚えがある気がしたと思ったら、多分私の母のそれに近いのよね」

「木下さんの……お母さま?」

「ええ。ちょっと変わった味付けだから間違いないと思う。まあ、偶然かもだけど」


 香辛料などに少し変わったものをいれているのはあるが、それでも全く他にないというものではないだろう。とはいえ、同じ味付けというのは初めて聞いた気がする。


「母は確か、祖母に教えてもらったとは言ってた……気がします。うろ覚えではあるんですが。一度だけ、祖母が作ってくれたのが同じ味だったのは覚えてるので」

「もしかして、ご両親が亡くなったのって、かなり昔なの?」

「私が、七歳の時なので、もう十一年前ですね。ああ、来年には十三回忌になります」


 この言葉には美雪も驚いてた。

 考えてみたらちゃんと話したことはない。

 美雪と出会ったのも中学に入ってからで、当時はそもそもそこまで仲良くなかった。

 単に仲良くしようとしなかっただけだが。


「それは……大変だったのね。その後はそれじゃあそのおばあさんたちに?」

「あ、いえ。祖母はもっと早くに亡くなっていたので。ほんの少しだけ覚えてる程度で。多分近くに住んでいたんだろうとは思いますが、幼稚園だった頃に続けて亡くなったそうです。なので私は父方の家に引き取られました」


 美雪も横で少し神妙な顔をしていた。

 美雪はおそらく、玖条家に引き取られてからの白雪の境遇も知っているのだろう。

 だから、あまり白雪がその頃を思い出すのが良くないと思っているようだ。


「大丈夫ですよ、みゆさん」

「あ、うん。それにしても、白雪ちゃんの母方の話は私も全然知らなかったなぁ」

「そうですね。でも、母と私、高校一緒なんですよ。ついでに生徒会長やってたのも一緒で」

「それはすごい。もしかして、三代続けてとか言わない?」


 そういえば、祖母についてはあまりよく知らない。

 住んでいた場所は近かったのは間違いないが、さすがに高校は違う気がする。


「さすがに……違うとは思いますが。でもちょっと興味はありますね……母があの高校に行ったわけですから。今度聞いてみましょうか……」


 とはいえ、祖母の旧姓などは知らない。

 名前は北上恵だったというのは知っているが、さすがに見つけるのは難しいだろう。


「どんな高校だったの?」


 京子が少し興味を持ったらしい。


「昔は良家の子女が通うための学校、だったらしいです。今は普通ですが。そのあたりはみゆさんの方がよほど特殊ですね」

「それは……うん、否定しない。面白い学校かどうかは微妙だけど」

「聞いてはいたけど、本当に世が世ならお嬢様ねぇ、あなた達」


 それは確かにそうだろうが、その立場が本人を幸せにしてくれるかはまた別の話だ。


「人によっては羨まれるのは分かるのですけどね……でも色々、ありますし」

「白雪ちゃんが言うと実感籠ってるねぇ、ホントに」

「色々苦労してるのね、若いのに」


 そう言われると不思議な気持ちにはなる。

 どちらかというと苦労していたのはかつてで、今は毎日が楽しい。

 和樹と一緒にいられる日々すべてが、白雪にとってはとても嬉しく思えるのだ。


「そういえばさっきから気になっていたんですが」


 ケーキを食べ終わった美雪が、コーヒーカップを片手に二人を見比べるようにしている。


「白雪ちゃんと木下さん、なんとなくどっか似てますね」

「へ?」

「あら。こんな若い子と似てるなんて言われると悪い気はしないけど」


 すると美雪は幾分真面目な顔になる。


「普通に顔のパーツというか顔がなんとなく。髪型や服装の雰囲気が全然違うから気付きにくいけど、こうやって間近で見てると似てるなあって」


 ちなみに今日の白雪の服装はノースリーブワンピースの上にサマーニット。

 午前中雨が降っていたのもあって、少しだけ空気が冷たいと思えるほどなのだ。


 あらためて京子の方を見ると、京子もまたこちらを見ていた。

 一瞬、視線が交錯する。


(あ……これ、私っていうより、お母さんに似てるんだ)


 それに気付くと、驚くほど似てる気がした。

 年齢が、記憶している母と年齢とほぼ同じであるのもある。

 ただそれ以上に、本当によく似てる気がした。


 考えてみれば、母の家である北上家のことはほとんど知らない。

 親戚がほとんどいなかったらしく、白雪の両親の葬式でも、北上家の関係者は近所に住んでいた人ばかりで、親族はいなかったと思う。

 それは三回忌や七回忌――京都でやったから仕方ないところはあるが――でも同じだ。


「まあでも、他人の空似ではないでしょうか」


 偶然にしてはよく似ているとは思ったが、それでも特に何か根拠があるわけではない。さすがにそれ以上は調べようもないだろう。

 親戚だったら、それはそれで楽しそうだとは思うが、そんな偶然がそうそうあるはずはない。


 ちなみに。


「ところで春日さん。貴女、さっきどこ見て『似てる』って言ってたのかしら……?」


 凄まじく凄みのある京子の言葉に、美雪が縮こまっていた。

 それを見て、確かにそこに関しては似てるな、と思ったのは白雪も同じである。

 思わず、その少し寂しい胸については話が合いそうだと思った白雪だった。


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