突撃ヒャッハーマーケット 2
「で、何か妙案は浮かんだの? フチオミ君」
「妙案? 妙案ってのは腹が空いてたり、日に十回以上殺されてると浮かぶもんなのか?」
俺は小屋の階段に腰かけ、シャイナを睨んだ。
階段。これを発見、いや思い出したのは、つい二時間ほど前のことだ。
考えてみれば、俺は自宅の改修にも大量のMODを投入していた。そのほとんどは金を払う式の改修だが、唯一この「階段にNPCが座れるMOD」だけは、デフォルト状態で使える仕様だった。
階段に座る仲間と会話する俺かっこいい、とか考えた過去の俺。
貴様は正しかった。
これを二日前に思い出していれば、二晩もシャイナにボコられずともよかったわけだが。
「そんなこと言わないで、シィちゃんの所持金もだいぶ増えたし、少しは楽になってきてるでしょ?」
「ああ……少し、ね」
この三日間で俺が口にできた物。
小さなパン二かけら。百五十年前のマカロニ一個、これはもちろん生でだ。そして、吹っ飛ばされた拍子に口に入った、トカゲ一匹。
トカゲって、ほとんど食える部分無いのな、皮と骨ばっかりで。
リアルなら餓死しとるわ。
ともかくパンからマカロニへ食い物が進化したのを、楽になったとは思わない。
俺がプレイしていたときは、仲間にはもうちょっと潤沢に食い物を振る舞ってた気がするが、初心者であるシィにそれを求めるのは無理そうだ。
「まあいい。とにかく考えたんだが、メインシナリオが進まないとどうしようもない」
「そうね、それは確かにそうだわ。クリアだって、メインありきだし」
メイン、そうメインシナリオ。
このゲーム、物語がいわゆる本筋と、そうでないものに別れている。
プレイヤーは本筋を進めることも、わき道に逸れて世紀末を堪能することもできるわけだ。本筋の攻略は意外と簡単で、しっかり手順を踏んでもプレイに十時間とかからない。
確かタイムアタックの世界記録は十九分だったはずだ。
もちろん、このゲーム初心者であるシィにタイムアタックは無理だ。
そもそも目的、主人公を殺さずにクリアする、を達成するためには、むしろ時間をかけて対策を見つける必要がある。
ちんたらしていればシィがゲームに飽きそうだし、かといって急かそうとしても、俺の声はシィには届かない。
「どうするよ……」
「聞かれたって困るわ」
シャイナが頭を抱える。
仕草は可愛いが、そこは光るゾンビ、そのままスポッと頭を外しそうな姿だ。他の人には俺が組んだままの美少女に見えているらしいので、
この目の拷問、残酷な仕打ちに俺は血涙を禁じ得ない。もちろん泣けないがな。
突然、小屋の扉が勢いよく開く。
「フッチー! シャイナ! 仕事とってきたよ!」
脳天気な声を上げたのは、我らが親愛なる主人公、シィ様だ。
プレイヤーたる司そっくりに調整された、かわいらしい顔には、声と裏腹に何の表情もない。
「ちょっと遠出するから、今から支度するよぉ」
遠出?
俺はいやな予感に襲われる。
急いで脳内攻略本をめくって、初心者ガイドを当たる。
初心者の行動、その二。狩りで自信がついたら、町の人から仕事を受けましょう。おすすめは町の雑貨店です。ちょっと風変わりな店長が、レベルに合わせて仕事を紹介してくれます。
「よっしゃぁぁ! 一暴れしてやろうぜ!」
(やめろシィぃ! それは攻略本の罠だ!)
俺の叫びは、フッチーによって正反対に翻訳された。
あの赤髪ポニーテールの店長が紹介する仕事は、ろくな物がない。
いや、報酬はいいのだが、難易度が初心者向きじゃない。簡単そうな紹介にだまされて請け負うと、このゲーム最初の洗礼となってプレイヤーに牙を剥く。攻略本を鵜呑みにしてはいけないという好例だ。
断言してもいい、攻略本を書いた奴はろくすっぽプレイもしていない。
おそらく内部データを見たか、他人に聞いたことをそのまま書いただけだ。ああ、薄利多売の出版業界よ、一昔前の熱い攻略本の世界は何処へ……
嘆いている場合ではないが、と言って止める手段を持ち合わせている俺でもない。
とにかくまずは、行き先と仕事を確認せねば。
「で、シィ。俺たちはどこで何をするんだ?」
「んー、近くにあるスーパーマーケットの廃墟を調べてこいって。……攻略本には初心者おすすめって書いてあるし、敵も少ないから大丈夫」
「そいつは名案だぁぁぁっ!」
(大丈夫じゃねぇぇぇぇっ!)
初心者を苦しめる最初の牙城、スーパーマーケット。
しかし後半となればいい稼ぎ場所になるため、MODによる強化が流行している。
もちろん俺も入れたぜ、某ゲーム実況者お手製のスーパーマーケット超増強MOD。あれ、半端無く手が入ってていいんだよ。
フロア面積二倍、敵の数三倍、おまけにオリジナルの強敵が四体も入ってて、マジで難易度が五倍増しって感じ……
……頼むから、その攻略本はそろそろポイしてくれ司。お兄ちゃんが悪かった。リアルに戻れたらちゃんと更正して、エロいMODなんて金輪際使わないから。
「とりあえずこれ、二人にあげる」
そう言ってシィが差し出したのは、古びたレザーコート二着と、サビサビのコンバットナイフ。初期で手に入る中ではそこそこの装備品だ。
「ありがとう、シィ」
「助かるぜぇぇぇっ!」
(妹よぉぉぉぉぉっ!)
正直、今着ている作業服はそろそろ限界だ。
あちこちに穴が空き、肩口も取れかかっている。リスポンで巻き戻されると言っても、それ以外のダメージは蓄積するわけだ。
コートが手渡され、表面に「装備しますか?」の文字が浮かぶ。喜び勇んで、俺はそれにタッチした。
身体が勝手に動き、いそいそと作業服を脱ぎ…………ちょっと待て、ゲームなら一瞬で早着替えじゃないんかい! しかもまずいぞ、俺の入れたMODの中には……
俺の焦りなど関係なく、手が作業服のズボンを引き下ろした。
「やべぇぇぇっ!」
下着など無い。
全裸MODを入れているのだから。別に男の裸が見たくて入れたわけじゃない。ただちょっと、それ系のMODを楽しむときに、男だけ脱がないのが気になってね。
「あら、フチオミ君、立派な物を持ってるじゃない」
シャイナが乾ききった頬を赤く染めるが、俺はそれどころじゃない。身体の向きだけは変えられたので、俺は速攻後ろを向く。
「あん、お尻もセクシー」
「見るな馬鹿野郎!」
男のラッキースケベなんてお呼びじゃ……待てよ、この調子だと女性キャラにも、MODの適用がされているんだよな? てことはシャイナ、はともかくシィも全裸で生着替えになるのか?
レザーコートを着込んで振り向く俺。
シィが嬉しそうな声で、ポケットを探る。
「へへ、実は私も、新しい防具買っちゃったんだよね」
どこぞの四次元なんたらよろしく、ポケットからにゅるっと畳まれた服が出てくる。
アーマースーツ、それも新品。こいつ、俺たちにはそこそこの物で、自分だけ最上級を買ってやがった。
俺が苦労して潰した野犬数十匹、ほとんどこれに化けたんじゃねぇか?
まぁいい、俺は心が広い。シィが生着替えを披露してくれるなら、許してやらんでも無い。
妹の着替え見て楽しい奴がいるか、との声が聞こえてきそうだが、よく考えろ、これはゲームの中だ。
目の前にいるのは、多少妹に似ているだけの美少女だぞ? 充分にいけるとは思わないか?
俺の期待に満ちた視線を受け、シィがアーマースーツに触れる。
そして、一瞬で着替えが完了した。
「かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! すごいイカスぜシィ!」
(ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ! 主人公補正くたばれぇ!)
確かにアーマースーツも、へそ出し、わきチラ、太もも出しの三点揃った大変エロい服なのだが、それは俺の期待していたエロスとは三百光年の隔たりがある。
がっくりと階段に座りこむ俺の正面にシャイナがやってきて、肩を叩く。
「残念だったわね。でも安心して、私に補正はかかってないから」
そして彼女は、作業服に手をかけた。
「わざとやってんだろ! このゾンビ女!」
光り輝く裸体を見せつけられる間、俺はしくしくと泣き続けた。




