表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/47

突撃ヒャッハーマーケット 3


 「ひでぇものを見た……」


 げっそりとやつれ果てた俺は、荒廃した草原を歩く。

 背中には天こ盛りになった武器、弾薬、回復用の食料。もちろん俺のではない、全てシィのだ。


 「そんなこと言っちゃって、結構かぶりつきで見てたじゃない」

 先を行くシャイナがふり返る。


 「恐怖で目が離せなかったんだよ……」


 俺はなんとか答えるが、本音を言えば今すぐこの場にへたばってしまいたかった。荷物がクソ重い。


 

 ちょっとここで、このゲームと時間の考察と行こう。

 なんで突然と思うかも知れないが、ちょっと聞いてほしい。っていうか、何か考えてないと背中の荷物に潰されてしまいそうなんだ。


 このゲーム、基本はリアルタイムFPSなんだが、それにRPGの要素が付け加わっている。となると当然心配になるのが、時間の処理がどうなっているのか、だ。


 結論から言えば、ゲーム内時間と、リアルの時間にはズレがある。

 俺がプレイしているときは、ゲーム内は三十倍の速さで時間が動いていた。リアルの一秒が、ゲームでは三十秒というわけだ。

 で、こっちに来て以降、俺はどうやらゲーム内時間をリアルタイムとして感じているようなんだ。つまり外にいる司が一秒と感じているものは、俺にとって三十秒、ということになる。


 となると、司の声や反応、つまりシィの行動は三十倍のびのびストレッチ状態になるはずなのだが、そんなことはない。

 まぁ、こっちと向こうがどう繋がってるのかもわからないので、推測になるんだが、おそらくこっちの時間は、司の主観に沿って伸び縮みしていると思われる。つまり、プレイヤーがリアルタイムと思ってる内はリアルタイムで、それ以外の時は、こちら側が超早回し状態になるわけだ。


 そう思って観察していると、確かにシィはときどき、分単位でじっと動かないことがある。

 たぶんその時は、向こうの司にとっては一瞬の出来事なのだろう。まったく操作していないので、時間の同調が起こらないわけだ。

 ややこしいが、それが一番理にかなう答えだ。



 「なんで、俺が全部っ……」

 総計六十キロ近い荷物のせいで、草を踏み越えるのもままならない。


 おまけに照りつける陽射しに対して、レザーコートの暑いこと暑いこと、防御力が高いとはいえ、季候にあった服とは言い難い。


 「……フッチーの速度が遅い。でも攻略本にはこう書いてあるしなぁ」

 軽々と岩を踏み越えたシィが、一瞬ふり返ってぼそっとつぶやいた。


 また攻略本か?


 初心者ガイドの戦闘について、あたりでも読んでいるのだろう。


 初心者への戦闘ガイド。仲間を前衛と後衛に分けよう。前衛は荷物を減らして身軽にし、後衛にはとにかく荷物を持たせて身を守らせます。おすすめの後衛キャラは、戦闘のパラメータが低いフッチーです。


 俺は脳内攻略本を、脳内壁に叩き付けた。



 とにかく俺たちは今、ご近所のスーパーマーケットまで調査に行く最中だ。


 といってもそこはアメリカ製。

 ご近所とは十マイル、つまり十八キロ圏内のことだし、調査とは武力侵攻の口実みたいなものだ。


 なだらかな草原となったここは、設定によるとかつては牧場だったらしい。

 ときおり巨大な納屋だのサイロだのが見えるあたり、アメリカの原風景って奴なんだな、と一人感心する。

 もっとも最終戦争後の世紀末だから、牛もいないし雑草だらけで歩きにくい。


 シィは核シェルターから持ち出したハンドコンピューター……スマホみたいなもんで、メニュー画面の代わりだ、を見ながら俺たちを引っ張っていく。

 でもあいつ、方向音痴なんだよ。地図見ながらでも方角を間違えるんだ。実際あいつのナビより、俺の脳内マップの方が正確だったりするし。


 そんなこんなで若干遠回りはしたものの、ようやく俺たちは小高い丘の上に到着した。


 そこらにあった瓦礫に腰を下ろし(サンクス座れる瓦礫MOD!)、そこから俺たちは、目的地を上から見下ろした。


 今風にいうなら大型複合商業施設、英語ならショッピングセンター、そしてゲーム内と昔風に言うなら、スーパーマーケットだ。


 かつては煌びやかだったはずの巨大な建物は、爆風に壊され、風雨にさらされ、丘のふもといっぱいに無惨な屍をさらしている。ただし、朽ちるに任させたその身体には、ちょっとした住人たちが住み着き、派手なデコレーションを施していた。

 有刺鉄線、鉄の杭、ツギハギのフェンス、生首のぶら下がった鉄柱。いや、なんとも心温まる、アットホームな雰囲気だ。


 んなわけあるかよ!


 そう、ここに住み着いているのは、世紀末にはおなじみのあの方々。


 昔風に言うなら無法者、英語で言えばバンディッド、そして今風に言えば、ヒャッハーたちだ。そう、世紀末な漫画とか映画とかでおなじみの皆さんだ。


 ベタの上にベタを重ねるこのゲームでは、トゲ付き肩パッドとモヒカン刈りを標準装備とし、付近の村落から略奪するのが彼らの仕事になっている。ゾンビと並んで、人型モンスターの代表格と言っていい。


 ここから見るだけでも十数人、あのファッションの皆さんが銃や棍棒を手にうろつき回っている。建物の中には間違いなくもっといる。


 「毎度ながら、うじゃうじゃ湧いてるわね」

 とは木によりかかったシャイナの言だ。


 「うわー、何あれいっぱいいるし。この攻略本嘘つきじゃん」

 つぶやくのはシィ。その本は間違ってないぞ妹よ。あそこまで増強しているのは、俺の入れたMODのせいだ。


 「定石なら、ここは狙撃銃あたり数を減らしてだな……」

 一瞬、講釈を垂れそうになったが、よく考えてみればシィ、いやそれを操る司に俺の声が届くわけがない。


 俺は口をつぐんでシィの指示を待った。


 「まぁいいや、みんなで行こう」


 そうですよねー。初心者ならそう言うよねー。


 ということで、我が妹は無策にも、三人による正面突撃を敢行した。

 荷物を背負った俺は出遅れ、身軽なシィとシャイナが先行する。丘を駆け下りたらそこはヒャッハーたちの視界内だ。


 『ヒャッハァァァァァァァァッ! 新鮮な獲物だぁ!』


 示し合わせたように、全員が雄叫びを上げた。


 俺が一人、丘をえっちらおっちらと下る間にも、完璧超人光るゾンビのシャイナが数人をナイフ一本で切り伏せる。シィも健闘していて、新しく手に入れたショットガンでヒャッハーをミンチに変える。


 「俺、いらなくねーか?」


 俺は完全に歩く荷物入れ状態で、二人の後ろをついていっては、次々にヒャッハーが倒れていくのを見守る。


 「ひぃぃぃ! 望みが絶……」


 「言わすかオラァァァッ!」

 シャイナが悲鳴を上げて逃げ回るモヒカンを、背後からなます切りにする。


 「死にたくねえよぉ! へぶっ!」

 頭を抱えて物陰に隠れた奴を見つけ、シィは無表情のまま、そいつをショットガンで粉砕する。


 こー見てるとあれだな、どっちが悪者かわからん。よほど二人の方がヒャッハーじみている気がする。


 完全に安全地帯となったモール入り口に荷物を下ろし、俺は呆然と突っ立っているだけだ。


 と、その時、物陰から見なれないヒャッハーが飛び出してくる。

 見るからに強そうな奴だ。全身に自動車のホイールで作った鎧を着て、顔はホッケーマスクで隠している。脇に鎖の固まりを抱えているのは、おそらく武器だろう。


 「やべっ! ……あれ?」


 そいつは慌ててナイフを握る俺を無視し、前方で奮闘中の二人にこっそりと近寄っていく。なかなか手だれたスニーキングだ。まったく二人に気づかれていない。その動きに、俺は有名な暗殺者ゲームの主人公を思い出す。


 「そういやあの実況者……あのゲームにも手を出してたっけ?」


 俺の頭の中で、その知性派ヒャッハーと、スーパーマーケットMOD作者が繋がる。おそらくあのヒャッハーはMODによる強化敵の一人だ。


 二人に声をかけるなり、俺が斬りかかるなり選択肢はあったと思うが、その時の俺はもの珍しさから、鎖持ちヒャッハーを傍観することにした。レベル一桁の俺が斬りかかっても返り討ちに遭うだけだし、なにより見たこともない敵に出会うのは、プレイヤー的には無上の喜びだ。


 さぁ早く攻撃モーションを見せてくれ!

 俺が拳を握りしめた瞬間、そいつは二人に飛びかかった。


 鎖が宙を舞い、芸術的な軌道を描いて交錯し……


 一瞬にして二人を拘束した。

 「生きのいい小猿を捕まえたぜ、ヒャッハァァァァァァッ!」


 「縛り攻撃とは、恐れ入った。……知性派っぽいのに、雄叫びはヒャッハーなのか」

 モールの半分崩れた柱に避難した俺は、今後の展開を見逃すまいと目を見張る。さて、どうすればあの攻撃から逃れられるのか……

 ところが、二人は鎖から逃げられないまま、ズルズルと引っ張られて行く。


 「今日は最高のパーティーだヒャッハァァッ!」


 「仲間の仇を取ってやるぜ!」


 まわりのヒャッハー共も、口々に囃し立てるばかりで攻撃する様子はない。


 「……攻撃しないとか、拘束モンスターでも絞め殺しモンスターでもないのか?」


 状況がわからず混乱する俺の前に、スイッとシステムメッセージが表示される。


 〈フッチーは家に帰った〉


 「はい?」


 その瞬間、俺は十マイルの距離をすっ飛び、コンクリートや地面や、小屋の壁などに激突する。なぜ今リスポン? 俺は死んでないぞ!?


 気がつけば、俺は一人で自宅にいた。


 「どうな……ってんだ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ