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突撃ヒャッハーマーケット 4

 はいCM開けどうぞー。

 なんてネタをやってる暇はない。


 俺は夕暮れの草原をひたすらに走っていた。

 一直線に目指す先は、あのヒャッハーたちのスーパーマーケット。ちょっと長いな、ヒャッハーマーケットとしておこうか。



 さて、時間もないので走りながら説明をしておこう。


 なぜ俺が走るのか、これは説明不用。シィとシャイナを助け出すためだ。では何が俺の身に起こったか。そうだ、そこから行こう。


 謎のシステムメッセージが現れ、俺は自宅に飛ばされた。

 しばらく呆然としてしまったが、そこから立ち直った俺は、さっそく現状の確認に取りかかった。といっても、システム的な確認が一介のNPC(ノンプレイヤーキャラ)にできるはずもないので、動いてみてどうなるか確かめたわけだ。


 自宅から出る、は問題なし。人と会話する、これもオッケー。アイテムを売り買いする、のもオッケー。美人店長とちゅっちゅして、みようとしたがこれは用心棒に阻止され失敗。


 いいぞ、状況はつかんだ。

 現在、俺は「仲間候補のNPC」になっているようだ。


 仲間となるキャラクターも、常に主人公に束縛されるわけではない。「自宅待機コマンド」がいい例だし、他に「解雇コマンド」を使うことで、仲間から外して設定された待機場所に戻すこともできる。

 この「解雇コマンド」を使った場合、プレイヤー画面には〈○○は家に帰った〉と表示され、解雇されたキャラクターは「仲間候補のNPC」として、待機場所を中心に自由にうろつき始める。


 フッチーの待機場所はプレイヤーの自宅なので、俺が自宅に飛ばされたのも納得できる。納得できないのは、なぜあの場面で「解雇コマンド」が有効になったのか、だ。


 シィが使ったと考えるのが妥当だろうが、それは有り得ない。

 「自宅待機コマンド」が使われた場面を憶えているか? シィは俺たちの方を向き、声で「待ってて」と言っただろう? 

 実は仲間関係のコマンドってのは会話で出されるんだ。知性派ヒャッハーに捕まったとき、ひと言も口を聞かなかったのに「解雇コマンド」が使えるわけがない。

 となればこれは、システム的に俺が「解雇」されたことになる。

 メインシナリオで一回だけ、これと同じ事が起こるが、もちろんヒャッハーマーケットでは発生しない。おそらく知性派ヒャッハーの攻撃が原因だろう。


 あれはたぶん、伝説の「お持ち帰り攻撃MOD」だ。

 一時期とても流行ったMODで、人型モンスターに攻撃されると一定確率で「女性の仲間NPC」が連れ去られるという、とてもすばらしい、もとい恐ろしいMODだ。

 改造としては無理があったらしく、現在はダウンロード不可になっている。だが俺の敬愛するゲーム実況者のことだ。自作の強化モンスターに組み込まずにはいられなかったんだろう。さすが魂の同胞、よくわかってる。


 もちろんそうだったとしても、なんでプレイヤーのシィに攻撃が当たったのかは疑問だ。お持ち帰り攻撃は、プレイヤーには効かないはずなんだが。


 ともかく、状況をまとめるとこうだ。


 シィとシャイナはお持ち帰りされ、俺は「解雇」された。


 あとはわかるよな? シィとシャイナ、二人がいなければ俺はリアルに帰る望みを失うし、それ以前にプレイヤーがお持ち帰りされるなんて異常な状況がまずい。

 正直、このままじゃどうなるか、俺にだって予想がつかない。


 最悪、俺の趣味をキモイと言ってはばからない我が妹が、もしお持ち帰りの次の段階(・・・・)を目撃してみろ。速攻パソコンの電源落として、二度とプレイしないだろうことは想像に難くない。


 ということで走れ俺!

 二人をヒャッハーの毒牙から救うために!

 俺がリアルに帰るために!

 そしてなにより、俺の性癖を暴かれないために!



 長々と説明してた間に、ヒャッハーマーケットについちゃったよ。人間死ぬ気で走れば、十マイルなんて簡単なもんだ。


 日が沈み、あたりは暗くなってきた。好都合だ。

 世紀末には街灯も、窓の明かりもない。夜ってのは真っ暗闇の世界だ。暗いなら見えない、これがリアリティってもんだろう?


 ま、視界が効かなくなるのはこっちも同じだが、幸い、俺はヒャッハーマーケットの構造を知り尽くしている。さっきの知性派ヒャッハーは初めて見たが、それ以外は一通り攻略済みだ。


 相手は見えないが、俺には見えているも同然。


 つまりこの勝負、俺が取った!


 と、まぁ、息巻いていられたのも、丘を下るまでだった。

 「なんだぁ?」

 俺の足音を聞きつけ、モヒカンが迫ってくる。


 ……忘れてたよ。俺フッチーだった。

 足音を消す、隠身のスキルを持つには、素早さのパラメータが50%は必要だ。が……フッチーってもともと素早さ5%っていうキャラだし、レベルも全然上がってないから、そもそも隠身が成立する余地がない。


 「ヒャッハァァァァッ! 子ネズミちゃんだぜ!」

 暗闇なのに五十メートル手前から発見される俺って……。


 しかし幸運もある。昼間シィたちが活躍してくれたおかげで、外の見張りはこいつ一人だ。こいつさえ倒せば、俺にだってまだチャンスはある。


 「やったるぁっ!」

 コンバットナイフを手に、俺は雄叫びを上げてモヒカンに突撃した。


 暗闇のメリットは、身を隠せる以外にもある。人型モンスターの銃の命中率が下がるのだ。モヒカンが撃った弾は、俺を大きく外れて草むらに着弾した。


 俺はニヤリと笑って、狙いも適当にナイフを相手の胴体に突き込んだ。

 今お前は、フッチーの最弱の所以(ゆえん)を身を以て知ることになる!


 このゲーム、実は初期値だけ見れば、全てのキャラクターが平等になるようできている。

 より詳しく言うと、初期に与えられた合計140%のステータス値を、七つのパラメータに振り分けることで、キャラクターが作られているわけだ。


 このフッチー、七つのパラメーターのうち、五つまでが初期値5%、体力に15%という壊滅的な低能力キャラだ。

 しかし見方を変えれば、余った100%が一つのパラメータに注がれた、驚異のピーキーキャラでもある。


 そのパラメータとは…………


 「幸運(ラッキー)だぁぁぁぁぁっ!」

 俺のナイフは、ピタリとモヒカンの心臓、クリティカルポイントを捉えた。


 傷から鮮血が噴きだし、俺の手を真っ赤に染める。


 幸運のパラメータは、主に他のパラメータの底上げに使われるが、一番重要な役割はクリティカル率の上昇にある。武器と状況さえまともなら、二回に一回はクリティカル、つまり致命傷を与えられるわけだ。


 じゃぁなぜ野犬に苦戦してたかって? 言っただろう? 武器と状況がまともならって。

 クリティカルヒットは倍率計算だ。つまり倍率がいくら高くても、底地が低いとなんの意味もない。俺が使っていた警棒はボロボロのガタガタ、どんなに倍率を跳ね上げたって、総合でたたき出せるダメージはショボイままだ。

 しかしこのコンバットナイフは違う。今回が初使用、どんなに粗悪品でも、最初の一撃は気持ちいいってもんさ。


 モヒカンが地面に崩れ落ちる。経験値の入る音が、俺の耳に響いた。

 その時、ピンとひらめく物があった。


 「俺がNPC扱いなら、できるかも知れんな」

 モヒカンの死体に手を触れると、思った通り、所持のアイテムリストが眼前に展開する。


 主人公の仲間でいる内は、死体からアイテムを剥げないが、NPCとしてなら可能だ。これは死体をまたいだNPCを殺せば、死体の持ち物まで手にはいるという、一種の裏技として知られている事実だ。


 「とりあえず、拳銃と棍棒はいただくとして、この服は使えねぇかな?」

 多少ボロボロだが、まだ使い物になるヒャッハー服。トゲ付き肩パッドとボロボロの革ジャンの組み合わせ。ナイスな外見に加えて、防御力も申し分ない。


 「……やってみっか」

 俺はモヒカンから服を奪い、即席のヒャッハーに変身する。

 外見によるカモフラージュは狙えないが、レザーコートよりはなんぼかマシだ。それになんと言っても涼しい。


 「さて、待ってろよシィ。……あとシャイナも」


 俺は決意を胸に、ヒャッハーマーケットのモールへと踏み入った。

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