ようこそ世紀末へ 6
そして俺たちは、さっきまでの光景がウソのように、街の中へと歓迎された。
まぁ、ロードで無かった事になってるので、当然といえば当然か。
それどころかシィは、ちゃっかり保安官との交渉を成功させ、当分の拠点となる「自宅」をせしめる事に成功した。これは本来、盗賊退治の報酬なので、手順飛ばしもいいところだ。
ともかく俺たちは、狭いとはいえ立派な小屋を与えられた。
鉄屑で作られた小屋の中に入り、犬を側に置くと、俺は小屋の空気を嗅いで急に懐かしさに駆られた。
このゲームに精通する前、まだ駆け出しプレイヤーだった頃、この小屋にはずいぶんお世話になった。
画面越しとはいえ、血なまぐさい廃墟から帰ってきてこの小屋にはいると、心底ホッとしたものだ。
その小屋が、今、俺の目の前にある。
トタンや鉄骨の感触はもちろん、画面越しに感じられなかった饐えた生活臭や、舞いたい放題に舞う埃と一緒に。
正直ちょっとげんなりしたのは内緒だ。
「じゃ、ちょっと買い物してくるから、二人とも待ってて」
シィが手を振る。主人公の声で言ったところを見ると、どうやらシステム的なセリフらしい。おそらく「自宅待機コマンド」だ。
シィが犬に手をかざすと、しゅるしゅると三匹の死体が圧縮され、どこかへと消える。シィは重そうなそぶりひとつ無く、部屋を出て行った。
……くそったれ主人公補正め、そんなに楽そうなら自分で持てよ!
「さて、ようやく二人きりになったわね。フチオミ君」
「きやがったな、待ってたぜ」
俺とシャイナが向かい合う。
いや、俺は少し目を背けた。だってほら、正面から見ると魂持ってかれそうなくらい不気味だし。
「どう、この世界の現実。少しはわかってくれた?」
「いやってほどな。とんでもねぇ限りだ。で、説明してくれるんだろうな? 何がどうなってんだ? 何で俺がゲームの中にいる?」
「理由? それとも方法?」
シャイナがバカにしたように鼻を鳴らす。
「どっちもだゾンビ女!」
「あら怖い。残念だけど、方法の方は私にもわからないわ。私も気がついたら
こうなってたの。でも、理由ならわかるわ」
「理由?」
「私がそう望んだの。もっと正確に言うなら……」
乾いた唇を曲げて、光るゾンビは笑った。
「もう私、死にたくないの。何度も、何度も何度も、あなたに殺されて。もう嫌なのよ」
俺は喉を鳴らして目を剥いた。
「俺が殺した? アンタをか?」
「ええ、思い出してもらえた?」
とシャイナに言われたところで、こんなキャラクターを殺した記憶はない。いや、モンスター「光り輝くもの」なら何千匹も殺しているが。
「あんた、もしかしてモンスターか?」
「バカなこと言わないで。私のどこを見たらモンスターに見えるの?」
「いや、そんまま、光るゾンビにしか見えないが」
シャイナは自分の、干からびた身体をちょっと見下ろしてから、ふぅむと首をひねる。
「そう、あなたにはゾンビに見えるのね。ならちょうどいいわ。私が説明する手間が一つ省けたし」
「だから説明って――」
息巻く俺の首を、シャイナがガシッとつかんだ。
「ちゃんと前から見て、フチオミ君。私の顔に見覚えはないかしら?」
「み、見覚え」
喉から湧き上がるいやな感触をこらえて、俺はシャイナの顔をまっすぐ見る。
いつ見ても、このゲームの作り込みには感心させられる。ゾンビの顔は徹底的にリアルで、元の顔かたちすら窺えるほどだ。
ん? 元の顔かたち?
そういや、いままで正視してこなかったけど、こいつの目鼻立ちには何となく見覚えがある。
あと肉を三割のせて、健康的な肌色にして、邪魔な光を削除すれば……そう、俺好みの美少女の完成だ。
「……もしかして、ヌコ?」
「正しくは先代の、よ。我がプレイヤー様」
そう言って乱ぐい歯を覗かせるゾンビ女には、確かに俺のプレイヤーキャラの面影があった。
ちょっと際どいMODでさんざん喘がせた顔だ、忘れるはずがない。
「いやちょっと待て、じゃ何か? お前はおれのプレイヤーキャラで、殺されたってのは……エンディングの事か!」
「ご名答。特にここ何回か、立て続けにやってくれたじゃない。しばらく無かったから、いい不意打ちだったわ。だからちょっと腹に据えかねたの。で……ね?」
俺の記憶がしっかりと繋がる。
モニター越しに差し出された手。尋常じゃない力。紛れもなく、今俺の首をつかんでいるものと一緒だ。
「は、腹いせに俺を捕まえたってのか? どうやって……いやともかく、俺はもう二度と戻れないのか? ずっとこの、フッチーのまんまなのか?」
「そうは、ならないはずよ。なぜって、私が願ってこうなったんだから。私の願いが叶えられたら、あなたもきっと、元に戻れるわ」
「願い?」
「そう、お願い」
シャイナが顔を近づける。これが元の顔なら嬉しいが、もう正直、こっちは小便ちびる寸前だ。
「私が死なないようにしなさい。ここにあるもの、この世界にあるもの全てを駆使して」
「あ、はい…………はい? いや、それはちょっと無理っていうか、システム的に不可能じゃ」
ぐぎっ、とシャイナの手に力が加わる。
「しなさい。返事は?」
「ハイ!」
彼女の手が離れる。
俺は締められた喉をさすりながら、ふと考える。
「でもよ、お前はもう死んでるんだろ? どうやって死なないようにしろってんだよ」
「シィちゃんを助ければいいの。あれはリスタート用の私なんだから、それを助けたら、私の願いは叶ったも同じだわ」
「……とんでもねぇ」
俺は頭を抱えて上を見る。
今のところ、まったく方策が思いつかない。
そもそもこのゲームの達人たる俺は、仕様上できないことにも詳しい。主人公が死なないようにする方法、それは確かに知りたいが、おそらくゲームの仕様をどういじっても不可能だ。
「それより……」
シャイナが俺の後ろに回り、首にきゅっと抱きつく。
首筋に当たるのは、甘い吐息なんかではなく、汚染物質をたっぷり含んだ障気だ。
「フッチー君? 明日からが大変よ。今日の野犬なんて、この世界のほんの一部なんだから。それに……シィちゃんがゲームに飽きたら、そこで終了だって事も忘れないで」
「――ですよねー」
カサカサの皮膚は考えないことにしても、俺は急にげっそりとなる。
シィ、つまり司は、現在俺の部屋に侵入してゲームを楽しんでいるわけだ。
連休中ですぐには飽きないだろうし、部屋の主である俺がここにいるわけだから、とりあえず中断される心配はないとして、飽きられたら最後だ。
プレイヤーキャラが動かなければ、仲間である俺も動けない。それはすなわち、状況の積みを表す。
「シィちゃんを楽しませること、そしてこの世界で生き残ること。まぁ、主にどっちも気力的な話だけど。頑張ってねフチオミ君。じゃ改めて、ようこそ世紀末へ」
枯草のような唇がうなじに触れ、俺は目を剥いて気絶した。
第一話 導入編でございました。
次回より、フチオミ君たちの楽しい世紀末伝説が始まります。
読んでお気づきの方もいるとおり、この作品は現実にあるゲーム、映画、漫画にとってもインスパイアを受けて作られております。好きなんです、世紀末。
これからも「世紀末あるある」を楽しく紹介しながら、連載をつづけていきたいなぁ、と思っております。
応援、ご感想、よろしくお願いいたします。




