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あっちとこっちな教授の講義 3


 牢屋から引っぱり出されて十分ほど後。


 俺は椅子に座らされていた。


 着ているものは白衣ではなく、セネターズの制服だ。色が趣味の悪い灰色である以外は、ちょっと洒落たつなぎ服だと思ってくれればいい。この部屋に入るときに、セネターズが投げて寄こしたものだ。


 牢にぶち込むときに素っ裸にひん剥いておきながら、尋問となれば服を着せるなんておかしな話だ。とはいえこちらも何か着ていた方が落ちつくため、ありがたいと言えばありがたい。


 しかしこの部屋、いったいここはどこだ?


 半円形のそこそこ広い部屋で、弧を描く壁は一面の窓になっている。俺の座っている椅子からは下は見えないが、窓の外には一面の青空と白い雲が見える。

 椅子の前にはこれまた半円形の金属テーブルが置かれ、対面にも椅子が置かれているが、こっちはまだ空席だ。


 とうてい尋問室とは思えない。むしろ造りや調度から言っても、オフィスか執務室と言った方が適当だろう。


 背後にはセネターズが二人。俺をここに連れてきた連中とは別で、部屋にあらかじめ待機していた奴らだ。遠距離攻撃大好きのセネターズには珍しく、手にはごついプラズマハンマーを握っている。


 奴らの余裕の表れなのか、俺は特に拘束されてはいない。


 「いつまで待たす気だ?」


 余裕を装って背後の一人に話しかけるが、答えはない。中に人が入ってないのかとも思ったが、少し椅子から腰を浮かした途端、プラズマハンマーが揺らいだところを見ると、単に俺を無視しているだけのようだ。


 と、ドアが開いて、一人の人物が入ってくる。


 セネターズの幹部制服に身を包んだわりと若い、と言っても三十代ぐらいだが、女だ。

 ロングの金髪をこれ見よがしになびかせ、片目を眼帯で隠した、まぁ美人と言っていい。幹部制服には黒いコートが付いているのだが、その胸元がはち切れんばかりに膨らんでいる。

 どうやらその下には、弩級のバストが潜んでいるようだ。


 俺はその女を見たとき、ふっとどこかで見たような気がした。しかしここ最近の話じゃない。少なくともこの世界に引きずり込まれる前ぐらいの感じだ。


 「やぁ、お待たせして済まないね」


 女は底冷えのする冷たい声で、しかし上辺だけは優しそうに言う。そのままカツカツとブーツを鳴らして、俺の対面に座った。


 「身繕いに時間がかかってしまってね。まぁ、楽にしたまえ」


 「楽に? 俺は尋問って聞いてきたんだが?」


 俺の挑発的態度を、しかし女は鼻で笑う。


 「ふふっ、そう噛みつかないでくれたまえ。我々は文明人だ。文明人たるものは、もっと友好的に話すべきだと思わないかね?」


 「文明人が初対面で名乗りもしねぇのか?」


 質問を質問で返した俺に女は一瞬眉をひそめたが、すぐに落ち着き払った声を出した。


 「これは済まない。私はスター・コマンダー、テアドラ・ルーズヴェルト。君の名は、サムライ?」


 揶揄するようにサムライと聞いてきた女、もといテアドラ。俺のことをACだと誤解しているようなので、手を振って否定してやる。


 「俺はACじゃねぇ。ただのフリッツだ」


 「おっと、これは失礼。大仰な鎧を着ていたものだから、てっきりあの軍隊崩れの仲間かと思ったよ。勘弁してくれたまえ、フリッツ君」


 口の端を歪めるテアドラ。

 その表情に俺の記憶がチリチリと刺激される。間違いない、俺はこの人物、いやこのキャラクターを知っている。


 スター・コマンダーとはセネターズの階級で、この場合は地方の総司令官のことだ。俺の知る限り、ゲームに登場する総司令官は一人だけだが、そのキャラクターとテアドラには決定的な違いがある。


 自分の記憶を確かめるために、俺はテアドラに質問する。


 「セネターズのスター・コマンダーは男だと聞いてたが?」


 「フリッツ君が聞いた話は、デマか流言の類だろう。私はもう十年も前からキャピトル方面の指揮を執っている。ちなみに、前任者も女性だ」


 「そうかい。どうやらそうらしいな」


 十年前から指揮官。その情報を聞けば充分だ。


 このテアドラ、確かに見たことがある。

 ただし、俺が見たのはテアドラという女性ではなく、セオドアという男性だ。どこぞの大統領と同名の、ゲームにおけるラスボス。名をコマンダー・ルーズヴェルトという。


 目の前の女性はその人物と同一存在らしいが、どういうわけか女性化している。見覚えがあるのも当然で、性別の違いを除けばほとんどの特徴が一致していた。眼帯、金髪、余裕のありすぎる態度、どれも同じだ。


 「ところでフリッツ君。君がACでないというなら、なぜ彼らと一緒にいた? なぜあんな鎧を着ていたんだい?」


 「答えたくない……ってのは無しみたいだな」


 背後で動くパワスケの足音に、俺は肩をすくめた。


 「鎧を着ていたのは、ACからもらっただけだ。あの場にいたのは偶然さ」


 「ほう、ジョナサン博士の娘を助けたのも、偶然というわけかな? AZAシェルターのフリッツ・デロリアン君?」


 手元の書類に目を落とし、テアドラが冷ややかに笑った。


 俺は余裕の顔を崩さないが、心ではがっつりと頭を抱える。うっかり設定を忘れるところだったが、主人公の故郷であるシェルターは、ネットワークでセネターズと繋がっている。身元を調べるぐらい訳はない。


 「もう調べは付いてるんだよ。シェルターの管理コンピュータは我々の手の中にある。君はジョナサン博士を追って来た、そうだね?」


 「だったら、どうだって言うんだ?」


 「実は、ぜひとも協力してもらいたいんだよ」


 テアドラが立ち上がり、俺に近づいてきた。


 「我々はジョナサン博士を保護したい。しかし博士の足どりを追うのは大変だ。下の廃墟をウロウロされては見つかるものも見つからない。そこで……」


 彼女は俺の正面に来ると、デスクに腰を乗せた。

 近くで見ると、服越しになかなか魅力的な体つきが見て取れる。とはいえ、俺の心は別に揺るがない。っていうか、見た目がどんなにアレでも、もとプレイヤーにしてみればいけ好かないラスボスのジジイですし。


 「君のような優れた若者に、ぜひ博士を捜す手伝いを頼みたいんだ」


 「つまりスパイしろって事だな? 博士が直すだろう浄化装置を横取りするために」


 テアドラの眉が震える。


 「君はどうやら、少し勘違いをしているようだ。それとも勘ぐりすぎと言うべきか」


 彼女は俺に身体を肩むけ、ぐっと上半身を寄せてきた。片目がヌラリと光り、俺の目を見据える。


 「我々は世界を復興するために、よりすぐれた技術と人材を必要としている。荒廃したキャピタル方面を立て直すためには、ジョナサン博士はなくてはならない人材だ。そう、君だってそうだ」


 上辺だけの優しさでそう言い、俺の肩に手を回す。


 「君はどうやら、それなりに頭の切れる人間のようだ。もし手伝ってくれるな、セネターズは、いや私は、喜んで君を迎えようじゃないか……ん?」


 しなだれかかるテアドラを支えるように、俺はそっと手を伸ばした。


 利益誘導はともかく、こっちのコマンダーは色気で落とすスキルをお持ちらしい。

 そらまあ、俺の顔に当たっている豊かな膨らみといい、耳元でささやかれる鋭くも甘い声といい、絶妙に心をくすぐってくる。俺がもし一介のNPC、何の能もないフッチー君ならイチコロだっただろう。


 が、俺は元プレイヤーだぞ? いくら相手が色気の漂う美女で、一瞬ならず数秒は鼻の下を伸ばしたとはいえ、手の内はお見通しだし、弱点だってよく知っている。


 「そいつは魅力的な申し出だ、テアドラさん。でもちょいと考える時間を」


 「決めたまえフリッツ君。悪いようには……ッ!」


 「ああ、そうだ。そのまま動かないでくれよ? あんたの胸は絶品だ」


 端から見れば美女に籠絡されるウブな青年の図だろうが、俺の右手は彼女の腰をかわしてコートの裏、隠しホルスターに滑り込んでいた。


 いやぁ、設定集をボロボロになるまで読み込んでてよかったよ。ボスのコートのデザインスケッチに、このホルスター描いてあったんだよね。

 それに俺が握ってる銃。ボス専用ユニーク装備、通称ルーズヴェルトブラスターちゃん。確かクリティカルにおまけの付いた超逸品のレーザーピストル様だ。


 あ、そうそう、テアドラちゃんの弱点なんだけどね、これが聞いて呆れることに俺と一緒なんだわ。つまりラスボスなのに、魅力以外は全滅という再弱仕様なんだ。

 元の設定からするとカリスマ性だけで組織の上に立ってたらしい。こっちのテアドラの魅力全振りっぷりにもしかしたらと思ったが、やっぱりとんだドジッ娘、いやドジ熟女で安心したよ。


 「このっ……」


 「ま、機会があったらいずれ、じゃっ!」


 俺はテアドラを引き寄せつつ、椅子ごと後ろに倒れる。

 虚を突かれてのし掛かってくる彼女に構わず、コートからブラスターを引き抜くと、その胸を押して横に突き飛ばした。


 テアドラは転がった拍子に床で頭を打ち、そのまま気絶して床に伸びる。

 後ろのセネターズ達が反応するが、俺はどうにか身を起こすと面倒になる前に奴らに走り寄る。

 パワスケ無しでは、例え五メートルの距離でもブラスターを当てられるか怪しい。そのためフッチーの唯一の特性、幸運を生かすためには、必中の距離まで近づく必要がある。

 覚悟を決めて奴らの懐まで飛び込み、馬鹿正直にハンマーを振りかぶるセネターズ達に、俺は狙いもそこそこにブラスターを撃ちこんだ。


 もとともクリティカルの出やすいレア装備、生来の幸運までプラスすれば当たるだけで充分だ。セネターズの一人は心臓を焼き抜かれ、もう一人はパワスケのプラズマリアクターにぶち当たったらしく、悲鳴を上げて緑の粘液へと溶け崩れる。


 「幸運も悪くないな」

 と言っても、あわよくばパワスケをいただく予定だったので、計算がちょっと狂ったわけだが。


 どうするべ、とふり返った俺は、床で伸びるテアドラ、その豊かな胸に目を留める。

 

 「使えるもんは、徹底的に使いましょう」

 俺はニヤリと笑い、彼女に手を伸ばした。

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