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引き返せない道 6


 俺たちが最下層に着いたとたん、一体のセネターズが吹っ飛んでくる。


 「うをっ!」


 飛び退いた俺たちの横、コンクリートの壁にセネターズが激突し、数度痙攣してからガクリと力尽きた。


 「……これで最後」

 静かな言葉と共に、ひたひたと闇の奥から歩み出てきたのはシャイナだった。彼女は両手にコンバットナイフを握りしめ、全身から緑の障気を揺らめかせて息をついた。


 「生身でやり合うのは、しんどいわね」


 「俺は、生身で対抗可能な時点で信じられんがな」


 シャイナは俺の軽口を無視し、横で呆然とするアシガル二人をおいて、死んだセネターズに歩み寄るとその装備を調べ始める。


 「こいつらは……デルタチーム、精鋭だわ。あら、いいパワスケね、テスラモデルだわ」


 彼女は慣れた手つきでパワスケを開き、中から血まみれのセネターズ隊員を引っぱり出した。

 首に大穴が開いているのはたぶんナイフによる傷だろう。洋ゲーでゴアに慣れた俺としても、生々しい傷跡にはちょっとどころじゃなく引き気味になる。


 俺は目をそらして階段上を警戒しつつ、シャイナに質問した。


 「着るの? それ」


 「もちろんよ、何のためにナイフで格闘したと思ってるの? それに、フチオミ君だけパワスケなんてずるいわ」


 「そりゃまぁ、ね。確かに……」


 なるほど、ナイフで装甲のすき間から一撃、追い打ちに打撃。どちらもパワスケにはダメージを与えず中身を殺す方法だ。


 しかしシャイナにパワスケねぇ。

 幸運以外取り柄のない俺が装備すれば人並みで済むだろうが、もとが人外のシャイナがパワスケを着たなら、その結果は恐ろしいものがある。


 手早くパワスケを着込むシャイナのとなりで、俺はアシガル達に指示を出す。


 「こっちは二人でいい、先へ行って博士とシィ達を守ってくれ」


 「イェッサー。……気をつけろよ、って余計なお世話か」


 ローガンがこっちの肩鎧をぱしっと叩き、未だに放心寸前のアイマンを引っ張って闇に消えた。


 「ACの残りはあれだけ?」


 仕上げに爬虫類的マスクを下ろしたシャイナが立ち上がり、俺の方を向いた。装甲のすき間から緑の燐光が漏れてるので、敵と見間違うことはないだろう。


 「いや、アンジーとあと三人が上にいる。負傷したのを庇いながらだから、来るのには時間がかかるだろうな」


 「アンジーなら心配ないわ。あの娘はどこからだって帰ってくるし」


 俺はその言葉に笑いながらも、プラズマライフルの発光する銃身を階段に向けて警戒する。すると突然に、シャイナが寄りかかってきた。


 「な、何?」


 「フチオミ君、気づいてるんでしょう? 何かがおかしいわ」


 端から見れば鎧武者と異星人が睦み合ってるの図。しかし鉄色と闇色のヘルメットの間で、緊張したヒソヒソと言葉が交わされる。


 「襲撃の事か?」


 「それだけじゃないわよ。敵も味方も、行動が……能動的というか……」


 「そうだな、ゲームらしくない。ま、システムの裏をかいたこっちが言える事じゃないが……確かに妙だ」


 声では平静を装いつつも、俺はマスクの内側で目を見開いて驚いていた。まさかシャイナが俺と同種の不安を漏らすなど、予想だにしていなかった。

 というか、こいつが俺をゲームに引きずり込んだ以上、すべてはシャイナの差し金――というか、少なくともこいつになら全てがわかっているはずだと、そう思いこんでいた。しかし当のシャイナすら、今の状況に違和感を感じているとは……。


 いったい何が起こっているんだ?


 俺が自分に問いかけた瞬間、背後方向、通路の奥から銃声が上がった。実弾のパラパカという音に混じって、プラズマ特有の耳に残る高周波もセットだ。


 「回られた!?」


 「みたいね!」


 二人して同時に叫び、俺とシャイナは急いで踵を返した。


 配管の走るほの暗い通路を進むと、すぐに断続的な銃火の照り返しと、緑の閃光が目に入ってきた。

 セネターズ達は最下層直通の回り道を見つけたらしい。こっちはまんまと裏をかかれたわけだ。


 角を曲がると同時に、右と左、両方からの火線が目の前の十字通路を横切った。右からはプラズマ、左からは実弾。どっちが敵かは明らかだ


 「先制してやるぜ!」


 俺はプラズマ手榴弾を手に、壁から首を出して右を確認した。


 敵影は二つ、どちらもセネターズ。片方はプラズマガトリングで弾をばらまいており、もう片方は何かを肩に担いで後退中だ。


 「もらっ……」


 「ダメ! フチオミ君待って!」


 いきなりシャイナが、プラズマ手榴弾を握った俺の手を掴む。


 「何で止める!」


 「担がれてるのはシィちゃんよ!」


 「はぁ!?」

 驚きながらも、とっさに暗視感度を上げる。


 プラズマ発光のまぶしさをこらえて目をこらせば、セネターズが担いでいる荷物、いや人物がおぼろげながら確認できた。

 セクシーなファイバースーツに包まれた、細くきれいな足と形の良いお尻。背中のホルスターには見なれたオートショットガンの箱形筐体。

 間違いない、シィだ。


 「何でセネターズがシィを?」


 「知らないわよ! とにかくプラグレは駄目よ! シィちゃんまで丸焼きにしちゃう!」


 「ちぃっ……くっそぉ!」


 歯がみしながら、俺はプラズマ手榴弾を直してシャイナと共にプラズマライフルを構えた。

 実弾に対してほぼ無敵と言えど、プラズマ武装ならダメージは通る。厄介なプラズマガトリングを先に黙らせるべく、俺とシャイナはほぼ同時に射撃を始めた。


 ガトリングセネターズは予想外の銃火に一瞬驚いたものの、荷物持ちの仲間に指示を出して逃がし、自分は緑の弾幕を維持することにしたようだ。

 通路の奥の仲間達だけではなく、こちらにもプラズマをばらまいてくる。


 「格好いい真似をしやがる」


 「冗談言ってないで、あんなの三秒よ!」


 俺が直撃を恐れて首を引っ込める上で、シャイナは慎重に狙いを定めてプラズマを放った。


 ガトリングセネターズは重すぎる武器が死重となって避けることもできず、ヘルメットをプラズマでこんがりと炙られた。

 さすがに致命傷ではないようだが、射撃を止めて両手で頭を覆う。


 それは僅かな隙だったが、パワスケを着た人外にはそれで充分だ。シャイナはライフルからナイフに持ち替えて吶喊していく。


 一瞬にして勝負は決した。二本のナイフが左右から首に突き立てられ、ガトリングセネターズは静かに事切れた。


 「やるぅ……」


 「ヒャッハー!」


 あまりの活躍に目を見張る俺の後ろから、棍棒をブンブンしながらツインモヒカンなヒャハ子が駆けよってくきた。


 「あ。ヒャハ子。いったい何がどうなった?」


 「ひゃっはぁぁっ。シィひゃっはー、ひゃっはぁ!」

 (わかんないよ。黒いのがいきなり襲ってきて、シィちゃんを連れてっちゃった!)


 「連れてった?」


 「フッチー!」

 ヒャハ子に後れて、ローガンらしきアシガルが近寄ってくる。


 「博士はアイマンが下まで逃がしたんだが、急襲に応戦してたシィさんがさらわれた! すまん、こっちが不甲斐ないばっかりに……」


 「いや、いい、こっちで何とかする。ヒャハ子、こいつらと一緒に要塞まで……」


 ヒャハ子が頬をふくらませて、パワスケの肩鎧を掴んだ。


 「シィひゃっはぁ!」

 (シィちゃん助ける!)


 俺は一瞬迷ったが、そんな暇はないとばかりにヒャハ子が立ち上がるのを見て、頭を振ってローガンに指示を出した。


 「ということだローガン君。アンジー達と合流して、博士を要塞まで頼む」


 「あんたは?」


 俺は笑って、と言ってもマスク越しで見えないだろうが、とにかく笑って彼を見た。

 「すぐにシィを助けて合流する。心配すんな」


 「イェッサー。ま、任せたぜ」


 「へっ、こう見えても俺は幸運だけは人一倍ぃぃぃぃっ!?」

 俺とローガンを引き離したのは、高速で戻ってきて、俺の襟首を捕まえたシャイナだ。パワスケ込みの超怪力を駆使し、鎧ごと俺を引きずっていく。


 「フチオミ君、追うの! ヒャハ子、そこの武器使って!」


 「ひゃっはぁぁぁぁ! あったらしい武器だぁぁぁぁぁっ!」

 あとに着いてきたヒャハ子が、セネターズの死体からプラズマガトリングとパックパックを嬉々として奪い、走りながら器用にセットアップする。


 なぜだか敬礼しつつ見送るローガンを残し、俺たち三人は通路の奥へと進んでいく。


 混乱するのは、全てが終わってからでいいよな?

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