ようこそ世紀末へ 3
数分後、俺たちはシェルターのメインエントランスまで来た。
さすがは数千人が暮らす核シェルター。
体育館ほどもあるエントランスは、画面で見たときより遙かにリアルに、実感をもって広がっている。
パイプむき出しでレトロなデザインの壁にそっと触れてみると、指にサビの粉が付く。ちょっとした感動を覚えるが、それに浸る暇はない。
ここが最初の戦闘になる。
FPS。つまりリアルタイムの戦闘こそが、このゲームの売りだ。コマンドとかターンとかは一切抜きで、実際に立ち回りを演じるわけだ。
エントランスの出口には警備員が二人立っている。
一人は拳銃をご所持になられている。恐れ多くて素手では立ち向かいたくない相手だ。
定石で行けば、ここは主人公が先に立ち、拾った拳銃で華麗にヘッドショットを決めるシーンなのだが、我らが主人公に動く気配はない。
(おい、動けよ! お前の出番なんだよ!)
「ビビってんのか? しょうがねぇなぁ、俺が先に行くぜ!」
俺の意思と反対のことを口走り、身体が勝手にエントランスを横切って走りだす。
そういえば、あんまり主人公が動かないと、フッチーが先に出ていって戦闘を見せてくれるんだっけ?
しょうがない、ここは華麗に俺の銃捌きを見せてやるぜ!
と意気込んで、エントランスに転がる拳銃に手を伸ばした俺は、驚きで顔を引きつらせた。
銃が取れない。
つかもうとした指は拳銃をすり抜け、俺の身体は勝手に警備員へ向かっていく。
つまりあれだ、あの銃、あれは主人公の専用らしい。
(ウソだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?)
「ヒャッハァァァァァァァァァッ! やってやんぜぇ!」
叫びならぬ雄叫びを上げ、俺は警備員たちへ突っ込んでいく。
その瞬間、身体がふっと軽くなった。戦闘に入ったことで、シナリオの制限が解除されたのだ。しかし時すでに遅し。警備員たちが反応し、警棒を持った一人がこっちに突っ込んでくる。
俺は試しに、スライディングの要領で床に足を滑らせる。身体は機敏に反応し、思い通りに床を滑りながら警備員へと向かっていく。
俺は確信する。この身体は俺、運動神経ゼロのゲームオタ、今井淵臣のものじゃない。
ケンカ慣れした乱暴な少年、筋肉自慢のフリッツ・デロリアンのものだ。
これなら勝つる!
警備員の動きなら頭に入っている。
初撃は頭への振り下ろし。そのあとは単調な左右からの攻撃だ。動きがわかっていれば、怖いことは何もない。
俺は向かってくる警備員をすり抜け、さっきまで俺の頭があった場所に警棒を振り下ろす警備員の膝裏を、警棒で思いっきり殴った。
警備員が膝を折り、床に倒れるとうめきを上げる。
立ち上がった俺は、無防備になった警備員の頭部に、がむしゃらに警棒を打ち付けた。たちまち透明な顔面シールドの中で血反吐を吐き、警備員は動かなくなる。
チャリーンと古いレジスターのような音がして、俺の視界に「+11Exp」の文字が躍る。
このゲーム、基本倒した奴が経験値を得る仕組みになっている。それは主人公に限らず、全てのキャラクターに適応される。つまり警備員の息の根を止めたことで、俺に経験値が入ったわけだ。
「よっしゃ!」
パン!
ガッツポーズをした俺は、軽い音と共に、頭に強い衝撃を受けて吹っ飛んだ。
忘れてたよ、拳銃持ち様。
エントランスの鉄床に打ち付けられ、横たわりながら自分の頭から流れ出る血だまりを見つめ、俺は心の中で歯がみした。頭は痛いなんてもんじゃない。凍り付いたような、シンシンとした痛みで涙が出そうだが、死体は涙を流せない。
目の前には拾えない拳銃。その上に緑の矢印が現れ、「拾って撃て!」とテロップが付く。
無表情で主人公が拳銃に歩み寄り、拾ってしげしげと見つめる。まるで射的屋台の子供のように、それを拳銃持ち警備員に向ける主人公。
そして……
パン!
なんの気負いもなく撃ったその弾が、拳銃持ちの警備員を襲った。
さすがリアルに定評があるゲーム。警備員の頭はしめやかに爆発四散し、頭蓋骨の破片や、目玉や、赤い何かになって散らばる。そういや「弾が徹甲弾になるMOD」も入れてたっけ。
主人公の頭上に「+30Exp」の文字が光る。
……なにその経験値格差社会。同じ敵のはずなのに、なんでそんなに経験値高いの? さすが主人公補正、卑怯なまでに優遇されている。
空中に矢印が現れ、主人公を出口へと導く。俺にはなんの関心も示さず、主人公はスタスタと歩み去っていく。
一方取り残された俺は、黙って横たわるしかない。
(リスポン待ち……何秒だっけ?)
もはやあきらめの境地で、俺がそう思ったとき。身体がぐいっと引っ張られ、主人公の方へと一瞬で吹っ飛ばされる。
気がつけば、俺は主人公に並んで歩いていた。
そうか、リスポンって、湧くんじゃないのか。無理やり移動させられるんか。
その時、何かいやな予感が頭をよぎったが、その正体に俺が気がつくのは、しばらく経ってからのことだ。




